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夢見モグラは空を待ち侘びて 47日目


暖かい日差しが差し込む陽気、
それがあまりに心地よくて、
モグラは机にうつ伏せになりながら、
何だかウトウトしていた。
終いにはスピーっと寝息を立てながら、
ヨダレを垂らして、うたた寝をしていると、
今度は部屋の窓の外から、
チャリンと何かが落とされた音で目が覚めた。
すくっと立ち上がり、床にキラリと光った輪っかを拾い上げ、
寝ぼけながらもその輪っかを覗き込んだ。
向こう側に壁が丸く型取られて見えただけでなく、
いつかどこかで見たような、
遠い日の景色のことも、モグラはふと思い出していた。

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アクセサリーの話。

目の前で金色に光る短冊型のイヤリングが揺れている。
僕はバス停でバスを待つ間に、
目でそれを追うことによって、くしゃみを必死に堪えながら、なんとか自分の気を紛らわそうとしていた。
人はなぜアクセサリーをつけるんだろう。

1 そのものが魅力的であるため、出来るだけそれをそばに置いておきたい。また、それを誰かに誇示したい。
2 視線をそこに集めることによって、比較が生まれ、得られることがある場合。
3 元々魔除けやお守りから派生されたもの。または約束の象徴。

その瞬間に思いついた3つの理由は、
orでなくand、それらを兼ねるということも大いに有り得る。

社会生活において、無人島にでも行かない限り、完全な孤独というのはありえない。どこか誰かさんのご機嫌をとるのも大切だが、それ以上に自分自身のご機嫌をとるということは非常に賢明なことであり、大切な課題でもある。
身につけることで、自分に自信がついたり、喜びを感じるのならばそれを付けない手はない。(ただし、そのものの価値を誇示が過ぎると嫌われることもあるかもしれない。)

また、視線をコントロールすることによって見つかる魅力、なんて、それはちょっと技術的な話。
例えば自身のチャームポイントが皮膚を透けて浮かび上がる鎖骨の綺麗さ、という自覚があったとして、どうそれを楽しむのか、いかに乗りこなすのか、
第一にそのラインが綺麗に見える洋服を選ぶ、そして、そこに視線を集めるアクセサリーをワンポイント置く、というのは容易に想像がつくし、定石、とても理に適っている(ように思う)。
もしくはとても平凡、傷や何か居た堪れないなどの欠陥、コンプレックスがあった場合、装飾品、身につけるものの種類や華美の強弱を用いて、それを補ったり、隠す狙いや意味合いもあるのかもしれない。

どうやら待ち合わせしていた様子で、
目の前の女性のところに男性が歩み寄る。
順番抜かしになってしまうことを気にした男性に、
お気になさらずとマスクでグジャグジャな口元を隠しながら、どうぞの意味を込めて会釈をした。
左手をちょんと表側、日の光に晒すだけで伝わる、ジェスチャーって凄い、人間の、文明の勝利だ(喋るのが面倒くさいのが本音)。

2人が仲良く会話をするうち、
男性の目線にもそのイヤリングが目に留まったのか、
ちょん、と耳に触れる仕草に女性の頬が緩み笑みが溢れた。
これは1も2も兼ねた3、魔除け、何らかの約束の象徴であることを疑わなかったその次の瞬間、

「ゔぇっくしっ」

僕はマスクを必死に手で押さえながら、
思い切りくしゃみをしてその2人からの視線を集めた(見ないで)。
多少の恥じらいと引き換えに、今日の分の文字数を得て、一筆書きの要領で文章を拵えたのであった。

それではまた明日。散々うんちく垂れながら筆者はアクセサリーしないタイプ(だってすぐ無くしそうだし。)。

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本日の表紙は27_cpcpさんの写真を使用させていただいております。ゔぇっくしっ。


褒められても、貶されても、どのみち良く伸びるタイプです。