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夢見モグラは空を待ち侘びて 58日目

何日も、いや何十日もかけたような、
モグラは時間を忘れて、
長い長い階段を上り詰めると、
大きな大きな扉の前に辿り着いていた。
真っ白でスベスベな石で出来ていて、それでいてとても重厚感があり、
繊細で綺麗な装飾もなされている。
背丈の何倍もの高さのあるその扉を見上げると、
首が疲れて仕方がないほど。
モグラにはその扉を開けないという選択肢は無かった。
両開きの扉の取っ手に手をかけ、
そっと、それでいて強く、前へと押し出した。
すると眩しい光に包まれて、
あまりの眩しさにモグラは思わず顔を伏せたと同時に、
長い長い夢は終わりを迎えた。

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扉の話 


朝早くにインターホンを覗き込むと、
知らない女性の人が立っていて、
僕は何かただものではない殺気のようなものを感じて、
どちら様ですか、と尋ねることもせずに少し様子を見た。
ドンドンと扉を叩く音が鳴り響いて、
ルームメイトが起きてきたので事情を説明した。
当時の僕は幼馴染みとルームシェアしていた。
覗き穴に映る人物が、お互いの知る人でないことを確認し、
家賃を滞納しているわけでもないし、
騒音で揉めるようななことも心当たりがなかったし、
何よりただただ怖かったので僕は扉を開けなかった。
10分もすると、静かになった。
もう一度覗き込むとそこにはもう姿がなかった。
それからしばらく外に出かける時には、右左右、上下を確認し、
背後に何か気配があると思わずビクッとしながら、
以上の出来事はおおよそ一週間続いた。

どうしたものか、
マンションの管理人さんに相談すると、
苦虫をつぶすようななんとも言えない表情で、
ああ、またですか、と。
どうやらこの部屋は、
定期的にそういったことが起きるらしい。

次の日、僕はなんとなしに覗き穴を覗くと、
その女性と目が合った。
背筋のあたりがキーンとしたが、
なんとなく怯んだら負けなような気がして、しばらくそのままじっとしていた。
すると女性はそこから立ち去り、
以降パタリと来なくなった。

そんなことすっかり忘れていたが、
何年か後にその話を別の友達にしたら、
それ、うちにも来たことあるわ、と言っていた。
ほぼ同じ時期に、ほぼ同じ体験をしていたようだ。
え、これ流行ってるの?

結果、僕は新しい物件を探すはめになり、
スケジュールの合間を縫って内見を詰め込んだ日、
いくつか候補にしていた物件を順に見て回ったが、正直どれも決め手にかけていた。
それでいて、ひとつ、当日急遽追加されていた書類に目を引かれた。
なんとも破格の、超スーパーお得物件だった。
都心のマンションの丸々1フロア貸切で、その値段は絶っっっっ対にありえなかった。(おそらく相場の5分の1)
すぐさまここ見に行けますか?と、
その日初めて会った新人さん、(当日担当の方の代理で来た)に伝え、僕らは胸を弾ませながら現地に向かった。

だがしかし、実際にその部屋の前に辿り着いて、思わず扉を二度見、困惑した。
なんと全く同じ扉が、4つ、待ち構えていた。
このフロアはワンフロア、貸切のはず、どれも同じ部屋への入り口なはずである。
間取り図をもう一度よく確認する。
どう見たって玄関に繋がる扉はたった一つのはずなのである。
どうやらうち3つは、罠!そんなことある?
僕と新人さんは、目を見合わせて、言わずもがな残り3つの扉を開けてみよう、と阿吽の呼吸で察知した(さっき会ったばかり)。
先ほどから夏の暑い日なのに、なぜか肌寒いこのマンション。
もはやこの時点で内見ではない、ただの肝試しである。
1つ2つ、恐る恐る扉を開けていくと、
そして最後の1つを開けると、新人さんは絶叫した。
僕はその扉の中身よりも、新人さんの絶叫にびっくりしていた。

後日担当さんに会うと、
ああ、あの部屋、行っちゃったんですね。と言われた。
ああ、行ったさ。まんまと。
扉の話をしていたら、夏の日のヒンヤリした思い出が蘇ったところ。
それではまた明日。

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本日の表紙はkana_ukp_mama_さんの写真を使用させていただいております。

褒められても、貶されても、どのみち良く伸びるタイプです。