コロナウイルスに学ぶ生物④~PCR検査とは~

皆さんこんにちは、大友雅斗です。

前回のnoteを御覧になって頂いた皆様、ありがとうございます。

前回の記事で、ウイルスの感染メカニズムを説明しましたが、今回はそのウイルス感染を判別する方法である、PCR検査について説明をしたいと思います。


PCRとは

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Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略です。

端的に言えば、ウイルスに特有の遺伝子(DNA)だけを増幅して、その人が感染しているかどうかを判断する手法です。

なぜこのPCRが行われているかというと、以前の記事に示した通り、非常に小さいため、観察することが難しいのですが、そんな小さいウイルスが、ごく少量のウイルスしかない状態でも、それに含まれるわずかな遺伝子を増やして検出し、感染しているか否かを判定できるという利点からです。通常分析できないような、数分子程度から増幅できるというのだからすごいですよね。

このような手法は、ウイルス検査に限らず、生物学をはじめとして犯罪捜査まで(!)幅広い分野で、遺伝子解析の手法として幅広く用いられています。(僕自身も学生時代に経験はあります)

以下では、コロナウイルスの場合を例にとって説明します。


DNAとRNA


今後の話を理解しやすくするために、あらかじめDNAとRNAの違いを簡単に触れておきます。共に遺伝情報を持っているのですが、

DNA・・・二本の鎖が結合したような構造、長期的な遺伝情報の保持

RNA・・・一本の鎖の構造、短期的な遺伝情報の保持

コロナウイルスは遺伝情報として、RNAを持つRNAウイルスです。短期的な遺伝情報という語からイメージできるかと思いますが、RNAは化学的に不安定な物質であり、RNAウイルスは変異を起こしやすい、と一般的には言われています。今回のコロナウイルスは、まだ研究段階の事項が多く、変異についてはまだはっきりとしたことは言えないようですが。

検体採取

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患者さんの鼻咽喉から綿棒のような器具を用いて採取します。この中には患者さんの粘膜や鼻水であり、人体の遺伝子も含まれているわけですが、ウイルス感染が起きていれば、ウイルスの遺伝子が発見されるはずです。その遺伝子を増幅するのが目的となります。

この採取作業は手作業で行われていること、採取の際の感染リスク、検体が壊れないように慎重に扱われる必要があることから、一日に処理できる検体数が限られているんですね。

実際のPCRの手順


採取した検体と、DNA合成の材料などを混合し、サンプルを作成します。

PCR法は、DNAの複製は可能ですが、RNAを複製することはできません。そのため、①コロナウイルス中のRNAから、DNAを作ります。(逆転写と言われ、逆転写酵素を用いて行われます)

次に②熱を加えることで、DNAの二本鎖を一本の鎖×2の状態にします。

一本鎖×2になったDNAに③プライマー(ウイルスの遺伝子配列をもとに、人工的に作成された短い一本鎖のRNA)を結合させます。このプライマーによって、増幅を行う範囲を決定します。

この手法では、DNAの鎖の全体を複製することを目的としているのではなく、その中でも、コロナウイルスに特有の部分だけを複製することを目的としています。また、何もないところから、DNAを複製することはできないため、プライマーはその複製開始の起点としての役割を担っています。

次に④DNAポリメラーゼと呼ばれる酵素の働きによって、新たな2本鎖のDNAが2つ複製されます。

さらにそれらの二本鎖を一本にして…という倍々ゲームのような工程(連鎖反応)を繰り返し、標的とするDNAを複製し、検出するというわけですね。時間としては数時間程度を要します。

図でまとめると以下のようになります。(画伯ゆえお許しを)

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また、増幅した遺伝子の検出の際に、今回のコロナウイルスのPCRに関しては、リアルタイムPCR法という方法が用いられています。これは蛍光試薬という、光らせる試薬をDNAにとりこませ、検査途中でも光の強さによってウイルス量を測定できる方法がとられています。これによって結果を迅速に見ることが可能なわけです。


検査の感度について

説明の前にワードを説明しておきます。

感度・・・感染者を感染していると正しく診断できる確率

特異度・・・非感染者を感染していないと正しく診断できる確率


感度は現場の環境によって左右されますが、最高で70%程度と言われており、特異度は100%に近いと言われています。

つまり10人の感染者がいたら、そのなかでも最低3人くらいは陰性だと判断されてしまう計算になります。

こんな感じの論文もでていますという参考程度に。。。


ここで疑問が出てくると思います、なぜこんなに時間がかかる面倒な手順を踏んでいるのに、感度を100%近くにできないのか?


理由としては、先述の通りコロナウイルスが含むRNAはDNAに比べて不安定な物質であり、分解されてしまいやすいこと、感染者であっても採取したサンプルの中にウイルスが入っているとは限らないこと、検査工程に他のDNAが混入して結果が狂ってしまう、等が挙げられます。

結局のところ、人為的な作業も必要で、精度を下げる様々な要素が関わってくるため、百パーセントの感度を目指すのは難しいのです。

以上のように慎重な操作が求められ、検査にも時間がかかるため、検査の時間が短く済む、抗原検査も進めていこう、(その分感度は高くありませんが)という話に現在なっていますね。抗原に関しては、免疫の話をしてからの方がわかりやすいと思うので、こちらは次回に。


今回の記事では、PCR検査で、どのようなことが行われているのか、その中身について生物学的に大まかに説明してみました。次回は、ウイルスや細菌に感染した人体では、どのような免疫反応が起こるのか、について、説明していきたいと思います。

次回はウイルスが感染した人体では、どのような免疫反応が起きているのか、という話をしてみたいと思います。

また、他に扱ってほしいテーマや、質問事項がございましたらできる範囲でお答えいたしますので、こちらのコメントか、Twitterのリプライなどで頂ければ嬉しいです。

第五回もよろしくお願い致します。最後まで読んでいただきありがとうございました!

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