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第1章 ヨウとおジィ 昔ばなし 19

彼はそう繰り返しながら、決してその先を歌わなかった。単に歌詞が浮かばなかっただけかもしれないが、聞き手はその先を託されたような気もした。世界をフェアリーテールに変えるとして、いったい僕はどんな世界を望むんだ? 僕は布団に、もぐり込んで真剣に考えた。同時にふだんは見せない切ないおジィの表情や、インパールでの戦闘のイメージに僕は支配されて、うまく思考は進まなかった。

僕は眠れなくなって、レコーダーに録画していた、『リリィ・シュシュのすべて』という映画をなんとなく再生した。この映画は、岩井俊二という監督が、リリィ・シュシュという歌手を架空に作り、実際にインターネット上でBBSを活用して、映画と現実世界とを結びつけた映画だ。

星野という少年が、パーカーのフードをすっぽりとかぶり、タバコを吸うシーンがある。僕はそのシーンが、たまらなく好きだ。あれほどタバコの似合う未成年者を見たことがない。おジィの書棚に置いてあった幾冊かの写真集を思い出した。

ベトナムやカンボジアの戦争に赴いた少年兵は、本当に旨そうにタバコを吸っていた。老成した少年達の表情が、激戦を物語っていた。タバコを吸う星野は、少年兵が見せる表情にどこか似ていて、それは猛烈な疲労の中に、純粋な何かが、うまくいえないけど、何かが滲んでいた。

BBSに書き込んだ文章が映画の中で、タイプの効果音とともに、テロップとして流れる。そのタイプの音こそが、この映画の最高の演出であり、音響効果のように思えた。映画を見終わった後も、タイプのリズムとシンクロして、字幕スーパーが流れる映像と音が、頭から離れなかった。

リズムのある映像に流されるように、僕は大手ポータルサイトが運営する、わからないことや疑問に思うことについて質問をするというサイトにアクセスした。夢遊病の患者のように、僕は頭に染みついたタイプのリズムに任せて、キーボードを叩いた。まず世界の人に訊いてみよう。そこからはじめよう。

そして僕は質問の件名にこう記した。

どうすれば、世界は変わるんだい?


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