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急性硬膜外血腫 01

マサは来週の同じ時間に谷口病院に行くことはなかった。交通事故を起こしたのだ。

朝通学のために駅まで原付で行く途中、停車中のパジェロの左のテールランプに突っ込んだ。マサは事故前後の記憶がほとんどない。突っ込まれた運転手の証言が唯一このときの状況を知る手掛かりだ。

その人の話では、老人が道を横切っていたので停車したとき、マサの原付がバックミラー越しに見えていた。しかしマサは一向にスピードを落とす気配がなくそのままパジェロに激突したらしい。

このときマサは大したスピードは出していなかった。その証拠に原付にもヘルメットにもほとんど傷は残っていなかった。マサの身体以外は。

マサはそのとき自力で立ち上がった。そしてそのパジェロに乗っていた人が救急車を呼んでくれた。救急隊員は左の鎖骨骨折の疑いで病院に搬送した。病院側も鎖骨骨折として処置をしていた。

しかしマサはこの時点でひどい頭痛を訴え、嘔吐を何度も繰り返していた。看護師は骨折するとショック状態になるからとしか駆けつけていた母親にも伝えていなかった。そうはいったもののどうも様子がおかしいということでCTスキャンを撮ることになった。

このとき意識障害を起こしているなかで自分がパニック障害者だということだけは医師に伝えていた。マサにとってどうしても伝えておかなければならないことだった。

CTスキャンの結果、急性硬膜外血腫だと判明した。頭蓋骨と脳の間ある硬膜が損傷し出血していた。すでにこの病院では手に負えない状態で、生死に関わる状況ということでそこから救急車でも三〇分はかかるが有名な脳外科医がいる児島総合病院まで搬送された。

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