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フラッシュ 09

喫煙所のベンチに腰掛けると明石がよれた煙草のケースをユーハンの口元に差し出した。今日は私も吸いたい気分ですと言ってユーハンが一本抜き取り、明石が安物のライターで火をつけた。ああ、おいしいですね。ユーハンは思わず声を漏らした。喫煙所から東の空を窓ごしに望むことができる。すでに夜は白み始めていた。

「今だったら、この方角だよな、ミニットマン」

「はい。黒体放射が始まったら、しばらくは太陽の左下あたりに見えると思います」

「マックスでもさ、一〇個とか、そんなもんじゃん、ニュートリノをキャッチできるの。それがさ、一〇〇〇万とか軽く超えてまだ増え続けてんだぜ。ちょっとこころの準備ができてません」

「できてないです」

「なんか、俺、変な虚しさに囚われちゃってるんだけど、リー君はどう?」明石はまだ残っている煙草を灰皿に捨ててすぐに二本目に火をつけた。

「期待してた事が、期待を大きく上回って目の前に現れると、どうしていいかわかりません」

「……だよな、そうだよな。なあ、リー君、これは悠長な天体ショーで終わんねえよ。ライブでイベントが何百万単位で増殖して、そりゃ警報器もぶっこわれるっつうの」

「深く追求するの、怖いです。なにしろ、規模が大き過ぎますから。地震とか、津波とか核戦争とかじゃなくて、人類の痕跡もなくなってしまうかもしれない」

「人類も近所の猫ちゃんも、大陸のキリンさんも全部だよ。きっとわかんねえだろうな、アホな官僚や政治家には。まあ世界中で現場にいた俺たちにしかわかんないと思うけど」明石は躊躇を見せたが言葉を続けた。

「リー君、俺かあちゃんに電話してきていいかな。うまく言えるかわからないけど、いろいろ伝えたいことあるし。間に合わないかもしれないけど……」ユーハンはほほ笑んで、早くしたほうがいいと促すと、明石は席を立った。

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