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フラッシュ 10

久しぶりに燻らせる煙草は旨かった。自分も国の両親や兄弟に電話をするべきだと思った。でもあの強烈な青い閃光を見てしまってから、何を両親に伝えていいのかわからなかった。妙な感覚だが、もし仮に超新星爆発の影響でガンマ線やエックス線の影響に晒されるならば、それも仕方ないのかもしれないと感じていた。宇宙の営みの小さな一部に潔く運命を任せるのも、悪くないだろうと思った。煙草の苦味を味わっていると明石の声が聞こえてきた。

「あっ、かあちゃん、敏幸。うん、わかっとうけん。あんねかあちゃん、明日からしばらくは地下ん建物に入っといて。うん、変なことば言いよんなわかっとうけん。ばってん、今は俺ん言うこと聞いて。ほら、去年できた水族館、あそこで時間使こうて、な。……水中散歩ができるくらいの大きな水槽があるやろ、あそこやったら。英治や歩美とかも呼んで。なあ、今は何も言わんで俺ん言うこと聞いて……。俺ね、かあちゃんの豚カツとか鯖味噌とか、また食べたか――」

ユーハンは上司とその母とのやり取りを耳にしながら、東向きの空を眺めた。太陽に左下に、今見えているサイズだとたった二センチほど左下に、淡い青白い光が浮かび上がり始めた。実際の太陽とその光の距離は六〇〇光年以上離れているのだ。ユーハンは、ははっ、と乾いた笑いを声に出してみた。

世界でもっとも早く超新星爆発の兆候を捉らえた人物として、明石敏幸とリー・ユーハンの名前は歴史に残された。しかし明石が予想したように、この赤色巨星の爆発がもたらした影響はロマンチックな天体ショーとはかけ離れたものだった。

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