見出し画像

父の帰宅 45

おばあちゃんへ

家にいるとどうしてもおばちゃんに甘えてしまうので家を出て自立することにしました。ちゃんとアルバイトもしているのでお金の心配もありません。

僕がいなくなって寂しくなるかもしれませんが、おばあちゃんも知ってのとおり僕は自分のことは自分でするし、社会人になるための勉強も怠りません。それはこれまでの僕をみていておばあちゃんも分かってくれていると思います。

おじいちゃん、おばあちゃん共々、今までどおりお母さんと仲良くして暮らしてください。そして元気に長生きしてください。僕が立派な社会人になっておじいちゃん、おばあちゃんに恩返しさせてくださいね。

このあとマサはヒサコさんに電話をしている。

「ヒサちゃん、なんか家から連絡あった?」

「うん、かなり動揺してたみたいだけど、裕美ちゃんが実家に帰ってきてくれたみたい」

「そうか、覚悟決めて出てきたのに、やっぱりお母さんが自殺したらどうしようって考えたら、発作起こしかけた……」

「それはさ、前にマサ君もいってたじゃん、私に。家族のことが好きなのは健全なことだって。お母さんのことが心配になるのも普通だと思うよ。電話で聞いてる限りではおばさん大丈夫だよ」

「そっか、それ聞いて安心した、しばらくもう何もできそうにない、心身ともに疲れた、少し休むわ」

「それがいいよ、リラックスすることにだけ努めたら、そのためにこの引越し頑張ったんでしょ?」

マサは心底疲れてデパス二錠とロピプノールを飲んで眠ったがいつものように四時間後には目が覚めた。そして何もしないといっていたが、梱包されっぱなしの部屋にいることは精神衛生によくないと考え、一日で部屋を整理し、次の日に必要なものを一〇〇円ショップに買いに行って、二日で部屋を完全に作り上げた。

自分にとって一番効率よく暮らせように、一番リラックスできるようにと。ギターとオーディオとコンピューターを使うマサは、待機電力のことを考えて部屋のあらゆるところに配線をした。このときのマサの呪文は最低限のコストで最高の利益を、だった。

部屋ができあがると即生活保護を受ける手続きを開始した。二三歳という年齢で生活保護の受けることが困難ことは十分承知していたし、橋本先生も土地柄的にそうとうなストレスを受ける言葉を投げつけられるといわれていたので覚悟を決めて役所に行った。

その前にわたしが生活保護についての法律が記されていたサイトをマサのメールに送った。わたしの母親もそういった方面に強いので母親の連絡先を伝えて母からマサへのメールも転送しておいた。

***

上記マガジンに連載中の小説『レッドベルベットドレスのお葬式 改稿版』はkindle 電子書籍, kindleunlited 読み放題, ペーパーバック(紙の本)でお読みいただくことができます。ご購入は以下のリンクからお進みくださいませ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?