ションベンカーブ 02
練習の投球数を減らし、少しずつだが、投球フォームも変えていった。劇的にサイドスローなんかにすると周囲が過剰反応するので、肩の関節の駆動範囲を小さくしながら、具体的にはテイクバックを小さくして、上腕筋や手首のスナップを意識して、フォローを大きくし、ボールをねじ込むように投げるように変化させた。
一試合に一二〇球も投げてしまうとこんな小細工でどうこうなるもんではないことは分っていたが。最後のほうになると、テイクバックをしないのではなく、できなくなっていた。特に試合前のアップの段階で肩を慣らしていくときに、耐え難い痛みが走った。
医者は骨が腱を噛みながら投げているのだから、痛みが出て当然だといっていた。でもここで故障したと俺がいったら、甲子園への道はそこで潰える。
てきとうに一塁なんかを守りながら、控えの投手がてきとうに打たれて、二回戦あたりで消えてくことを想像するとぞっとした。怪我がばれれば、ドラフトどころか、ノンプロも大学の話も全部消えてしまう。
肩を庇いながら、騙し騙しやりくりして、夏の甲子園予選を迎えた。その日は、肩の炎症は感じたが、どちらかというと調子は良かった。その予兆は、まったく感じられなかった。
「俺んとこ打たして来い、全部捕ったる」四球と送りバントでランナーを二塁に背負った。センターの赤井が魂のこもったでかい声を張るが、相手の応援団の勢いに、それは霞む。七回裏、一対〇で負けている相手側からすれば、正念場だ。ここで点を入れないと負けると良く分かっている。
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