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フロリダ州ペンサコーラ 06

僕は自分が精神的に弱いと思っていつもその自己嫌悪に苦しんでいたから、フロリダに留学という形態で来ることで少しはタフになれると思っていた。

英語を勉強するということが一番の動機だが、この留学に関して経済的な面から学校との契約、ビザの取得、部屋探し、すべてを自分でやってここまで来たのは、強い男になりたかったからだ。

それがたった二日で神経をやられるとは思わなかった。なんて自分はストレス耐性のない人間なんだと自己嫌悪が増しただけだった。僕は当時タフという言葉に異常にこだわっていた。これは村上龍の影響がそうとう大きい。

僕にとって村上龍がタフな人間の象徴だった。彼のようにすべての分野で先頭を歩き、強い人間でいたかった。しかしすでにこのざまだ。

わたしはこのときのマサの状況を実際にパニック障害を患ったことがある人に語ったことがある。その人はこの話を聞いただけで調子を悪くして薬を飲んで、わたしは部屋から出て行くようにいわれた。

パニック障害者が言葉の通じない海外で、知り合いもおらず、自分に何が起きているのかまったく分からない状態で、マサが書き残した程度の発作を起こしたことがどれほどの苦痛なのか、もちろん理解などできるはずもないけれど、この人の表情を見ていると、想像を絶する過酷な状況に晒されていたのだと思う。

それでもマサはヒサコさん以外に自分の状況を誰にも話さなかった。自分でも何が起こっているのか分からない状況で誰かに話したところで理解してもらえないことだけは分かっていた。精神状態を緩和させるには帰国以外に選択肢がなくてマサはその唯一の選択肢を最後まで排除した。

マサは強いパニック発作を起こすと、周りにあったものや、着ていた服などに強い恐怖を覚えた。だから『愛と幻想のファシズム』はマサにとってはただの恐怖の対象でしかなくなっていたのだ。

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