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第1章 ヨウとおジィ 昔ばなし 09

待ち伏せをしていた山砲兵連隊が、速射砲で先制攻撃をしかけた。こんな険しい山岳に英国軍は巨大な輸送機を使って戦車を運び込んでくるのに対して、我が皇軍は対戦車砲と呼ぶには寂しい七ミリの小口径砲で、分厚い装甲のM3とまともにやりあわなければならない。

リアカーに長い砲身をつけたような風体の速射砲は、重量が三百キロを超える。分解して運ぶが、砲歩兵にとって重荷には違いない。銃や爆薬を使って戦争を始めてしまえば、後はなるようになる。どんぱちになってしまえば、やるしかないのだ。どんぱちも戦争のいち側面でしかない。敵の影に異常に神経をすり減らしながらの移動も、

三十一師団のような、飲まず食わずでどこに向かっているのかすら分らない敗走も、同じ戦争なのだ。なーむあーみだーぁんぶ、なーむあーみだーぁんぶ、なー。かみ合わされた歯の隙間から経が漏れている。

M3の進行をとめる。キャタピラの同じ箇所に、弾丸を撃ち込む。同じ間合いで遊底を引き、装填し、遊底を戻し、引き金を引く。同じ間合いで、連射する。一キロを超えた射程で連射をしながら動く的を射れるのは、どうやらわたしだけのようだ。三発も同じ箇所を撃ち抜けば、キャタピラが破損し、戦車は止まった大砲に成り下がる。

「すごい、M3が止まった」日野上等兵が声を上げた。
「実包の用意はもういい、貴様も狙撃に戻れ」わたしは淡々と命令する。
ひとつ、ふたつ、みっつ。

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