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フロリダ州ペンサコーラ 08

「ませたガキだね」

「そうなんだけど、弾き始めはワンフレーズだけでもコピーできたらもう、すげー快感だった。バッドネームのリフが弾けたときはほんとに感動だったね。だから俺もボン・ジョヴィみたいになってやるぞって意気込んでいた。それと平行して色んなミュージシャンを聴くようになっていったの。ボン・ジョヴィが格好いいっていうミュージシャンを片っ端から、ストーンズ、エアロ、ビートルズ、ジミヘン、ツェッペリン、それからどんどん派生していった」

「産業ロックだね」

「そうそう、まさに産業ロック。でも聴けば聴くほど違和感が強くなっていったんだ。俺はこいつらに近づけるのかって。ストーンズやビートルズの雰囲気を俺自身がまとえるんだろうかって」

「そりゃ、あんた、ちょっと厳しいでしょう」

「そうなんだよ、俺のロックの定義は圧倒的な技術力と知性なんだよね」

「知性?」

「そう、知性。知性がないとロックは成立しない。だって俺の好きなミュージシャンみんな自分の哲学持っててそれは知性なんだよね、ああ、もう薀蓄うんちくになるから止めるね。で、俺は定義のひとつ目の圧倒的な技術力を持ってないんだよね」

「練習すれば何とかなるって思わないの?」

「思わないね、耳はよくないし、いつまでたっても似たようなフレーズしか思い浮かばないし、譜面すら読めないからね、まあこれは努力すればなんとかなるんだろうけど」

「知性に関してはどうなの?」

「そこなんだけど、少なくとも俺の知性、哲学を発信できる媒体はギターではないと思ったの。それがなんだか分からないし、それにまず発信する必要があるのかというところに行き着いてしまったんだな」

自己表現なんて、若者の専売特許で、その年の頃でギターが弾けるんだったらとにかくアウトプットしたいと思う。それなのに自己表現の必要性の有無を疑うマサの感性が嫌いではなかった。第一印象の軽薄さとは裏腹に、そうとう生きづらい繊細さを持っているのだなと思った。

「俺は大学一、二年生のときはひとり暮らししてて、ホテルマンのバイトしてたんだけど、そのバイトは深夜のバイトで夜の一〇時から朝の七時まで働いて、そのまま大学の授業受けてたんだ」

「あんた、いつ寝てたの?」

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