ザ関西ヤンキー 04
俺は打席についた。打席で屈伸し、バットを振る遠心力を使って大きく左右の上腕筋、腹直筋、外複斜筋、後背筋を緩ませる。生駒はもう吠えていない。
俺は打席後方の制御ボックスに正対して、スタートの赤いボタンを押した。マシンの音が規則的になった。硬式球が猛烈な速度で回転しているロールの中に吸い込まれていく。
なあ、生駒。俺らがフォームを崩さんとスイングできたところで、どこでそれを披露すんねん。誰がそれを必要とすんねん。俺は生駒の純粋さが滑稽で、腹の底から笑いが込み上げてきた。
お前は田舎の幸薄い土建屋の日雇いの末端で、俺は移動式ヘルスの店長だ。なあ、俺らは負けてん。こんな鋭いスイングができたところで、何処にもいけんのよ。野球で負けたんや。
プロになった奴が正解で、俺らは不正解なんや。そろそろ理解しよーや、お互い。一球目、外角高めに真っ直ぐが飛び込んできた。身体の力は抜けていて、ほとんど反射でバットが身体の一番近いところから、搾り出すように出てくる。バットが球に当たる直前に、全身の筋肉が肥大し、反応する。
バットのスイートスポットだかGスポットだか知らんが、そう呼ばれる、真芯も真芯、ど真芯を食うと、グリップにほとんど衝撃が残らない。
一発目はそれだ。本塁打印のほぼ真ん中に、打球が突き刺さった。推定飛距離、一四〇メートル。あぁ、たまらんわ。ケージの後ろで生駒が唾を吐く音が聞こえた。
ペルフェクト! 源田のおっさんの独特の奇声が聞こえた。きっと俺は日本一野球の巧いデリバリーヘルスの店長に違いない。この業界に足を突っ込んだ当時の記憶が脳裏を過ぎった。
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