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急性硬膜外血腫 05

マサは急性硬膜外血腫で搬送されてきたわけで、里見先生の話ではあと一時間搬送が遅ければ脳死だったということだ。児島総合病院は救急病院ではないのでここまで緊迫したオペは里見先生にとっても何年かぶりだったらしく流石にしびれたらしい。

脳自体には損傷がないわけだが長時間左脳を血腫が圧迫していたので右半身に何らかの後遺症が残る可能性は十分に考えられることだった。里見先生がICUでマサの右足と左足に交互に刺激を与えて右足と左足の刺激の感じ方はどうですかとマサに訊いたとき、マサは同じですとはっきり答えた。ヒサコさんが傍にいたのだが里見先生が驚いていたらしい。

マサがICUを出てナースステーションのすぐ傍にある比較的症状の重い患者のいる病室に移された。マサはこの部屋に移って一度錯乱を起こしている。

これは夢でこの夢の設定ではどうしてもこの部屋を出なくてはならなった。でも俺の身体を二本の管が拘束している。ひとつは右腕の点滴。ひとつは首に刺してある点滴。

点滴の量と種類が膨大なのでいちいちその度に注射するのは患者の負担になるので針は刺したままであとは針と点滴の接続部分を交換するだけいい状態にしている。マサはまず腕の接続部分を引き千切った。

次は首。これも接続部分を引き千切った。このときこれはもしかしたら現実かもしれないと思い始めた。そのときが一番怖ろしかった。俺は何をしようとしているんだ。

夢遊病から覚醒するあの感じと同じだ。でもこの部屋から出なければならない。首の点滴を引き千切った瞬間、血があたりに飛び散った。ベッドが血まみれになっていた。俺も血まみれになって部屋を出た。

部屋を出たとこで三人の看護師が血相を変えて駆けつけた。そして当然のことながらひどく怒られた。看護師はとりあえず俺を落ち着けてベッドへ戻した。

恐ろしく手際よくシーツと布団を交換してベッドを元の状態に戻した。俺はこのときやっとこれが現実なのだと理解できた。現実だと理解したとき恐怖は消えた。もしかしたら夢じゃなくて現実かもしれないと思っているときが一番怖かった。

次の日ヒサコさんが見舞いに行ったときカーテンには血しぶきが飛び散っていた。マサはヒサコさんに向かってこういった。

「ヒサちゃん、一人バトルロワイアルやっちゃった」

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