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急性硬膜外血腫 08

ICUから個室に移り、マサの入院生活に幾分か生活のリズムが生まれてきた頃、ヒサコさんはマサに向かってこんな話をしている。マサは全然覚えていなかったそうだ。

「『ぼくを探しに』って絵本があるのね。それはパックマンみたいな形のミッシングピース君が自分のかけらを探しに旅に出る話で、途中で色んなかけらに出会えたんだけど、自分にぴったりくるかけらをなかなか見つけることができない。彼は色んなところに行ってかけらを探す。そしてこの話の最後は、彼は自分のかけらに出会って、合体してコロコロと今までより速いスピードで転がって『やっぱりピースがミッシングな方が色んな体験ができてよかった』といってまたかけら君とバイバイしちゃうんだ。今から私がする話はこのお話とは少しずれているんだけどね、かけらとボールという点で私たちの関係に例えられるんじゃないかな。やっぱり誰もがミッシングピース君だと思うのね。まん丸じゃないからコッテン、コッテン転がりながら同じような欠け方の人とスピードが合うから、そんな人と友だちになったり恋人になったりしながら転がっていくんだと思う。でも私とマサ君はコッテン、コッテン転がらないで、ひとつのボールになってしまったんじゃないかな? それでまん丸になって、速いスピードで転がって、周りのものもあまり目に入らなくなっちゃって、でも、やっぱり、お互い別々のミッシングピース君だから一個になったら無理が出てくるんだよね。一個のボールの中にふたつの人格があって、自分のようで自分でない。自分なのに思い通りにならない。それで苦しんで、反対に一個になった分居心地がよかったりしているんじゃないかな。たぶん私たちは欠け方がもの凄く似たミッシングピース君同士なんじゃないかな」

ヒサコさん自身も家庭環境に問題を抱えていた。この時点でヒサコさんは自分がトラウマを抱えているということを意識はしていなかったが後にユウカさんとの確執でトラウマが爆発する。

ヒサコさんはこのときすでにマサと自分との恋愛関係が依存と共依存で成り立っていることを潜在的に感じ取っていたのかもしれない。

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