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急性硬膜外血腫 06

この頃からマサは頭に、特に左眼の奥に激痛を訴えるようになっていた。ヒサコさんが見舞いに来ているときに左眼の激痛を訴え始めた。普段からいつも苦痛に顔を歪めていたがこのときは痛がり方が尋常ではなかった。恐らく左の眼窩を骨折しているせいだろう。

ナースコールして鎮痛剤をすぐに投与してもらった。しかしいっこうに痛みは引かない。今度は座薬を入れた。しかしマサは顔は激痛に歪んだままだ。ヒサコさんはもう自分の想像を完全超えてしまっている痛みなので客観的に見ることしかできなかった。痛いのだな、とだけ。

そのときヒサコさんは実姉のユウカさんを車で仕事場まで迎えに行かなければならなかった。ヒサコさんはシンガポールに留学に行く前に車を処分したのでユウカさんの車を共用していた。マサは激痛に悶えながらいった。

「ユウちゃん迎えに行かないといけないんでしょ。もういっていいよ。大丈夫だから」

ヒサコさんはしばらく傍にいたが自分がいても仕方ないことが分かっていたので病院をあとにした。

錯乱を起こしたということとマサがパニック障害者ということもあって個室が与えられた。この頃からマサはパラレルワールドという言葉をよく使うようになっていた。詳細について語り始めたのは個室に移ってからだ。

「なにか世界が緑がかってるんだよ。その世界に入ってしまってるときはほんとに怖いんだ。その世界に入っているかどうか確かめるにはL字型のカーテンレールを見ると分かるんだ。何かその部分がいつもと違う。そうしたら世界が緑がかってきている。僕は頭がおかしくなってきてるのかな」

パラレルワールドに迷い込んでいるマサは明らかに恐怖に怯えていた。

そしてある夜いつものようにヒサコさんが見舞いに来ていてもう帰らなければいけない時間になったときにマサは脅しとも取れるいい方でヒサコさんを引き止めた。

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