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父の帰宅 30

期間:六歳~一二歳

──僕が六歳のときに両親が再婚することになり、一学期期間だけ母親の実家から近くの小学校に通い、その後現在住んでいる父親の実家から小学校に通うようになりました。

僕の覚えているこのときの記憶は引越しのトラックに乗りながら早く実家に帰りたいという気持ちでした。というのは僕は両親が共働きだったのでほとんど父方のおばあちゃんに育てられていて、おばあちゃんに会いたくて仕方なかったことを記憶しています。

再婚して引っ越してきた時点で、父の経営していた会社は倒産して違う仕事をしていました。具体的にどんな仕事をしていたのか覚えていません。再婚してから二年くらいは両親の関係は悪くなかったと思います。僕が小学三年生の頃から両親の喧嘩が絶えなくなりました。

原因は父親のだらしない性格です。帰宅は常に午前様、あれはほとんど病気だったように思います。就職しては辞めるを繰り返し、ずっと違う仕事をしていました。当時バブル景気だったのであんなことが許されたのかもしれません。一度父が仕事を辞めてきたとき家族みんなが寝室に集まっていました。確か次女と母と父がいたと思います。

三人はみんなニヤニヤ笑いながら何があったと思うと僕に訊ねてきました。僕には見当もつきません。それで次女か母親が僕にいいました。「お父さんまた会社辞めたのよ」。僕も一緒に笑っていましたがなんかこの家庭は異常だと感じていました。

夫婦喧嘩を始めると当時は母もかなりヒステリックで、どちらも引かないので子どもたちにはそうとうストレスになっていたと思います。こうしてだんだんまた家の雰囲気が最悪の状況になっていきました。

それに一番分かりやすくリアクションを示したのが長女でした。確か僕が一〇歳のときの年末だったと思います。普段からそこそこ仲は良かったのですがそのとき何か姉の雰囲気が違いました。

僕が縁側で日向ぼっこをしていると長女がやってきて「マサ、コーヒー飲む?」と声をかけてきました。姉が僕にコーヒーをすすめることなどなかったので変だなと思ったのですが、せっかくなのでふたりで縁側で一緒にコーヒーを飲みました。

そのときの姉の優しい笑顔ははっきり憶えています。でもそのコーヒーは姉にとって僕に対する決別の証だったように思えます。

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