急性硬膜外血腫 04
ベッドに横たわるマサを見てヒサコさんが一番驚いたのは、マサの頭から管が出ていることだった。自分が知っている点滴の類で頭の中から管が出ていることはない。
さらに左眼球が飛び出していて、二重瞼の裏側の肉の部分が見えていた。首からも点滴がしてあって点滴が抜け落ちないように黒い糸で肉を縫い合わせていた。
二日間意識不明だったがヒサコさんが帰ってくる三日目の七月七日にマサは意識を取り戻していた。ヒサコさんに再会して初めて口にした言葉が「ごめんね」だった。
意識障害が残っているどころかまだ予断は許せない状況でマサはヒサコさんを迎えに行けなかったことが気になっていた。
最初は口だけが動いていて何をいっているのかヒサコさんには聞き取れなかった。マサの口に耳を近づけて三、四回目でやっと聞き取れた。
「ごめんね、ごめんね」
気道確保をしたので声がうまくでなかった。でもマサにとってこれはどうしても伝えなければならないことだった。このときヒサコさんは確信した。この子は死なないと。
マサの執刀にあたった里見先生も三日目から劇的な回復をし始めたと親族に伝えた。ヒサコさんの存在がマサの生命力に力を与えたのだろうか。
マサは意識を取り戻したときの心境を次のように綴っている。
ここが病院で結構大変な事故を起こしたことも何となく分かっていた。でも周りの人間や執刀医の話を聞いていると僕はどうやら開頭手術を受けたらしい。頭を手術した? そんな非現実的なことが自分に起こったのか。でも痛みはない。
ヒサコや裕美姉ちゃんや母親が面会にやってくる。でもそれ以外の時間はひたすら天井のL字型のカーテンレールを眺めていないといけない。身体を動かすこともできない。暇だ。
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