ボールボーイ 03
借ります、というよりも早く、なつきは車のシガレットライターに手を伸ばした。店のプロフィールでは二三歳だ。本当の年齢は忘れたが、まだ二〇代半ばには違いないはずだ。そのわりに煙草の馴染み方に老成を感じる。煙草の煙を吐き出しながら、神戸の夜景を眺めている彼女は、たまに憂いを放つ。
なつきはそれ以上言葉を発せず、サンタナのギターに耳を傾けている。なつきとの会話はだいたいこんな感じで終わる。親父の会社が倒産し弟の学費を稼ぐ女、カードローンを繰り返した挙句ヤクザ絡みの金融屋に手を出し、借金のかたに回されてきた昭和的な女、結婚披露宴の資金を稼ぐために期間限定で身体を売る女、理由は千差万別だ。
別にどんな理由でも、俺には大差はない。詰まるとこ俺は人買いで、彼女達の身体は商品だ。この二者間に横たわる溝はそんなに浅くはない。もちろん女の子にはできるだけ多く出勤してもらわないといけないから、私的なことにも相談に乗り、なだめたりすかしたりして機嫌よく過ごしてもらうように務めている。
しかし年々そのやり取りが鬱陶しくなっている。
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