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ションベンカーブ 06

帰宅時ポストを開けてそれがあるといちいち腹が立つ。いつもなら鷲掴みにして、備え付けのゴミ箱に捨てるのだが、そのときは違った。俺はポストを覗き込んで、ピンクチラシの存在を確かめた。

手にとって札びらを数えるように、顔の前で広げた。全部で七枚。すべてデリバリーヘルスのチラシだ。ヘルス嬢を呼んで一発抜いて、クソつまらん野球の記憶を消したいと思ったわけではない。

今日は夕方から元町の居酒屋でバイトが入っていたが、行きたくなかった。別に嬉しくもないのに、客に注文をもらって「喜んでー」みたいなしょーもない茶番を、どうしてもしたくなかった。

ひとやま幾らのしょーもない学生と一緒にこき使われたくなかった。俺は反社会的なことがしたかったのだ。

一番広告に金をかけていそうなチラシを選んで番号に電話した。愛想のいい男が出て、三宮の駅前で待ち合わせすることになった。

予告した色の服装の男がJRの中央改札にいた。ブルーのジーパンに、チェックのボタンダウンシャツ。シャツはズボンの中に入れられている。インだ。年の頃は四十くらいだろうか。

善良そうで、左手には結婚指輪をしている。風営法に則って経営されているデリヘルなのだから、善良な市民が働いていても不思議はない。その男に駅近くの3LDKの普通の住宅マンションに案内された。

面接には、明らかなヤクザではないが、胡散臭い、肌がやたらつやつやして黒光りしたヤッピー風の男が出てきた。店長ということだ。

「この辺の道、分かる?」

「いや、自分ちの周りくらいしか、まだわかんないっす」

「車にナビ、ついてる?」

「いや、親父のお古のローレルなんで……」

「俺はナビついてるかって訊いてるわけでさ、ローレルは余計だよ」

黒光りにそういわれて、俺は黙ってしまった。ほかの部屋では少し派手な格好をした、同世代から少し上の年齢の女が煙草を吸ったり、漫画を読んだりしていた。

俺の姿を見ると普通にみんな会釈をよこした。ここにいる女の子は、これから確実に誰かのあれをしゃぶるんだ、とかあそこを舐められるんだと思うと変な気がした。

「道分かんねーなら、しょーがーねーな。今日はこれ撒いといて。道覚えたら、その内ドライバーも手伝ってよ」男はそういってピンクチラシが入ったダンボールを重そうに俺に渡した。

「ひとり暮らしが多そうなマンションとかを重点的に撒いていけばええから。今日は西宮の方に行くわ」俺を迎えにきた中年の男がいった。そして男が運転する車に同乗することになった。

「さっきいうてた、ひとり暮らしが多そうなって、どこで判段するんですか」

「えっ? 勘」

「あぁ……、そうっすか、わかりました」

「警察とか、住人になんかいわれたら、逃げや。捕まっても、誰も助けんから」

「……わかりました」

「あと、自分が撒くチラシの通し番号、控えときや。チラシの右下に数字あるやろ」

「あっ、はい」

「自分が配ったチラシ見てお客さんが電話掛けてきたら、一件につき一万円。まあ五〇〇枚撒いて一件あったらええほうやけどな。あと、チラシ撒きの時給は八〇〇円やから」

***

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