ションベンカーブ 06
別に選んだわけではなく、たまたま余っていたポジションで、俺は三塁を守っていた。山口は偉そうに投手をしたが、クソノーコンでレフトに引っ込んだ。六回ノーアウト二、三塁で、大きめのレフトフライが上がった。
俺はタッチアップ阻止のために、中継の位置を探った。まだ軽いスナップスローができる程度なので、一瞬躊躇した。あまり深く追いすぎると、俺と本塁との間が空きすぎて、速い返球ができないかもしれない。
ならばノーカットで、厚かましくもさっきまで投手をしていた山口に任せるべきか。俺は真面目に悩んだ。直後、反射とはいえ、真面目に野球に取り組もうとした自分を恥じた。
山口は、マリナーズのイチローがやるように、グラブを後ろに回して、背中でキャッチしようとした。背面キャッチというやつだ。そして、平凡なレフトフライは山口のグラブには掠りもせず、ランニングホームランになった。俺はベースを駆けていく打者走者の気配を感じ取りながら、頼りなく揺らいで見える三塁線を見据えた。
ぐっちゃん、背面は夜だけにせーや、とチームメイトが囃はやした。もう、やめてーやー、と山口が連れてきていた女が照れながらいった。蛙のように目が離れたブスで、ブタのように鼻が上を向いたブスだ。
次の回、打席が俺に回ってきた。それまでの二打席、右手をほとんど使わずに、左手だけで、払うようにして打った。骨折部はもう治癒していたが、バットでボールを捉えると、鈍痛がして、強く振り抜けなかった。
だから俺は右手の押し込みを使わずに、左手のリリースだけで、ボールをはじき返した。前の二打席はセンター前とライトフライだ。ネクストバッターサークルで蟻地獄を見つけて夢中になっていたら、両チームのベンチがどよめいた。
投手が代わったのだ。どうやらこいつがエースのようで、二回戦に向けての肩慣らしというところのようだ。顔面は土色で、顔がやたら角ばった、スコップみたいな野郎だ。辛うじて異性だと分かる両軍の女子達のざわめきに、スコップは色めき立っていた。
俺は打席に入った。初球、ベルト付近にストレートがきた。時速一三〇キロの棒球だ。捕手がいい音を立ててキャッチングしたので、さらに周囲は湧き立った。身体が反応しかけたが、堪えた。芸のねー配球だ。
初球に真っ直ぐの棒球はねーだろ。二球目、ボールだと思って見逃した外角高めにストライクのコールが響いた。俺はどっちでも良かったので、審判を無視した。三球目、サイン交換のあと、捕手は右膝を地面につけた。スコップは無駄に大きく頷いた。
スコップは投球練習の最後のボールで、カーブを投げた。ストライクが入ると、全開のドヤ顔を見せていた。こいつの決め球だ。バッテリー共々分かりやすい奴らだ。
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