珈琲屋のバイトを3ヶ月でクビになった
僕は大学生のころ、バイトの面接に落ちまくっていた。
塾講師、喫茶店、本屋、雑貨屋など、
累計で6回くらい落ちた。
面接では真面目に話していたが、
緊張していてぎこちなく、
コミュ力が低そう(実際に低い)に見られていた僕は、
接客業に向いていないと判断されていた。
だからいつもお金がなくて、
面接のないバイトをせざるを得なかった。
夏休みに1ヶ月住み込みのバイトをしたり、
日雇いをしたりしていた。
その中で、やっと面接に通ったのが珈琲屋のバイトだった。
何度も落ちていたからとにかく真剣に面接に臨んでいたからか、
店長に、「君はコミュ力があって話がうまい」
と言われて合格した。
店長の目は節穴だった。
ついに憧れの珈琲屋に受かった僕は、
謎の余裕を醸し出していた。
珈琲屋によく通っていた僕はコーヒーへの愛があるし、
自分のペースでゆっくりやっていけばいい、
僕はお客様に最高の一杯を出すんだ、と
まだ仕事を何も覚えていないくせにバリスタ気取りだった。
僕は説明されてもメモを取る発想も無く、
週1.2のシフトでは記憶も定着せず、
メニューが覚えられずに何度も先輩の手を煩わせた。
そのくせ、お客さんにコーヒーを出す時はコーヒーカップの向きと置いた時の音まで気にして、自分がこの店で一番の接客だと思っていた。
店に入って1ヶ月経ったある日、
店長から怖い顔で、
〇〇くん、もう何回も入ってるんだから、
もうちょっと仕事頑張ってね、と言われた。
僕は今も頑張ってるし、これ以上頑張るのはしんどいな、みたいなことを思っていたから、
あ、ハイ、みたいな受け答えをした。
思えばここが分岐点だったんだろう。
その後急に、シフト希望を出しても1週間に1日も入らないようになった。
最初はあれ?どうしたんだろう、くらいだったけど、
それが2週間、1ヶ月経って、
僕は干されてることに気づいた。
僕は店長から何も言われなかった。
ただシフトに入れてもらえなかった。
どういうことなのか怖くて、店長に聞くことができなかった。
そして、シフト入れてもらえないまま1ヶ月が経った頃、
やっと僕は勇気を出して店に行った。
バックヤードの扉を開けると店長がいて、
何か僕が聞く前に、「給料渡すね」と棚をガサゴソし始めた。
僕は背を向けている店長に、「最近シフト入ってないのは解雇されたからですか」
と聞いた。
店長は僕と目を合わせず手元の箱から封筒を探しながら、「解雇というか…」と言い淀んだ。
「結構何回も入ってるもんね」
「はあ、そうですかね…」
「普通2.3回で覚えるもんだから。10回くらい入って覚えられないんじゃうちでは厳しい。いてもらうだけでお金もかかるし」
わりとはっきり言うやん、と思った。
それ解雇だし。
給料を受け取り、
お世話になりました、と震える声で言って
店を後にした。
給料袋には17000円入っていた。
クビになって病んでいたが、現金を見て少し元気になる自分はゲンキンなやつだと思った。
僕はバイトに落ちすぎて、バイト受かったことで安心しすぎていた。
なんならバイトを舐めていた。
まあゆっくりやっていけば良いだろうとタカを括っていた。
バイトを3ヶ月でクビになるという経験は、
僕の自己肯定感をいよいよ下げた。
自分はできると思い込んでいる根拠の無い自信を打ち砕き、僕はバイトすらクビになる社会不適合者だと思い込み、自尊心は暴落した。
だけど自分を客観視できていなかった自分にとって必要な経験だったのだろうと今では思う。
社会に触れて痛い目を見て自分を修正するという作業を繰り返す。
みんな最初からやらなくても分かることを、何で僕はこんなに繰り返してしまうんだろう。
それでも、それが分かっただけ良いじゃん、と自分を肯定したい。
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