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【もし新米の新規事業担当者が「起業の科学~スタートアップサイエンス~」を活用したら】ゼロから100億円の新規事業を生み出すまでの物語(1)

私が2017年に執筆した「起業の科学」は、2017年発売以降115週連続でAmazon経営関連書売上1位になり、スタートアップ起業家だけでなく、企業の新規事業担当者からご相談いただく機会が増えた。

一方、新規事業担当者へのメンタリングを数多く行うことで、あることに気づいた。

それは、280ページほどある『起業の科学』の内容を正確に理解し、実際の現場レベルにまで落とし込めている人は非常に少ないということだ。

「重要なエッセンスが伝わっていない」私はそう思った。

そこで、今回、実際の新規事業担当者が「起業の科学」を活用することで、ゼロから100億円の事業を創り上げるというストーリー仕立てにし、私が「起業の科学」という本を通じて読者に最も伝えたかった重要な部分にフォーカスした。

この記事を読むことで、「起業の科学~スタートアップサイエンス~」に書かれた「新規事業を行うために今、自分が何をすべきか」という部分がご理解いただけるだろう。

このnoteの読者想定

・新規事業担当者になったばかりで経験が少ない人
・「起業の科学」の理論は理解できたが、実務への落とし込み方に悩んでいる人
・「起業の科学」の理論をより共感できるストーリーとして理解したい人

このストーリーのあらすじ

大手釣り竿メーカー株式会社フィッシュマンに勤務する山田さんが、思いついたアイデアで新規事業を立ち上げ失敗するも、田所先生のアドバイスを得ながら、様々なことを学び、最後には100億円規模の新規事業を作り上げるという成功物語

主要な登場人物

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1. 山田さん(主人公)
【プロフィール】
・山田 太郎(やまだ たろう)(32歳)
・大手釣り竿メーカー株式会社フィッシュマンに勤務
・入社以来約10年間営業を担当したのち、新規事業部署へ配属
・両親は田舎の北海道で昔ながらの八百屋を営んでいる

【最近の悩み】
・新規事業担当を任されたが、右も左も分からない
・上司に新しい考えを分かってもらうのに苦労している
・古い体質の会社をなんとか変えたいと思っている


2. 田所先生
【プロフィール】
・田所 雅之(たどころ まさゆき)
・新規事業創出のプロフェッショナル
・山田さんを陰で支えサポートする

3. 佐藤部長
【プロフィール】
・佐藤 章(さとう あきら)(50歳)
・営業畑28年のベテラン営業マン
・営業部署での実績をが評価され、新規事業部署の責任者を任される

【最近の悩み】
・結果を出すことを期待されており大きなプレッシャーを感じる
PL責任を背負っており、短期でどうしても結果を出さなければならない

1. 新規事業の失敗

私は大手釣り竿メーカーフィッシュマンの営業マンとして新卒で入社し、約10年間、釣り竿を販売してきた。

釣り竿の知識については誰にも負けない、そんな自信があった。

そんなある日、部署移動が発表され、新規事業担当部署へ異動することとなったのだ。

「し、しんきじぎょう・・・」

頭が真っ白になった。

株式会社フィッシュマンは私が務めている創業80年の老舗釣り竿メーカーだ。

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90年代後半の釣りブームに乗り業績を大きく伸ばしたが、リーマンショックを機に業績が悪化。現在の売上は全盛期のころの5割程度まで落ち込んでいる。

私が新卒採用で入社して以来、新卒採用は行っておらず、32歳という年齢だが社内では一番若手だ。

巷では「DX(ディーエックス)、DX」と騒がれているが、社内では未だに一部の部署でファックスが使用されていたり、コロナ禍で毎週恒例の朝会をリモートで実施しようとするも、zoomの使い方やダウンロード方法が分からない社員が続出しため中止となったり、コロナ禍にもかかわらず簡易な書類一枚にハンコを押すためだけに出社する社員もいた。

古い体質が今なお残る、DXからもっとも遠いといっても過言ではない企業なのだ。

【用語解説】
DX(ディーエックス):Digital Transformationの略。ITを活用することにより、ビジネスモデルや組織を変革することを指し、欧米では「Trans」を「X」と略すことから、「DX」と呼ばれている。

先日、契約締結をWeb上で完結させるサービスである「クラウドサイン」の導入を上司に提案したところ、「契約書は紙と印鑑なんだよ!」と一蹴されたことが記憶に新しい。

そんな社内で最近飛び交っているワードが「新規事業」だ。弊社の社長である鮪谷(まぐろだに)社長が、最近ようやく覚えたスマホの操作を覚えたらしく、「今こそ新規事業だ!」などという競合他社の社長が語る記事を見たことで影響を受けたらしい。

そんなこんなで、新規事業部署ができ、社内で最も若い私が配属されたということだ。

若いからという理由で新規事業ができるわけでもない。新規事業といわれても何をすればよいか全く分からない。しかし、何かアイデアを見つけないといけない。私はとても焦っていた。

そんなとき、何気なくテレビ番組を見ていると、漁師さんがインタビューに答えていた。

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◆テレビ局:フグテレビ
◆番組名:これでわかった!漁師の今

世界と比べ、日本の漁獲量は80年代以降、右肩下がりで減少している。

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出所:https://www.nippon.com/ja/currents/d00455/

インタビューに答える漁師:
「最近、魚が全然釣れなくて困ってる。これじゃ生活できないよ。もう漁師業も、親父の代からやってきたが、息子も東京で就職してしまったし、俺が引退したら廃業だな。こんなに儲からない職業は、結局先細ってしまうんだよ」
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山田:「漁師・・・魚が釣れない・・・」

山田:「これだ!」

私は突然アイデアをひらめいた。

フィッシュマンの子会社で魚群探知機を製造している会社があったはず。その魚群探知機を付けた釣り竿を漁師向けに販売すれば売れるかもしれない。

とんでもないアイデアを思いついてしまったと、高鳴る鼓動を抑えきれずにいた。「このアイデアは思いついたのは世界で私だけかもしれない」本気でそう思っていた。

【田所先生のワンポイントアドバイス】
(多くの人は自分のアイデアが否定されることを嫌う)
誰しもアイデアを思いついた時には、このアイデアが世界を変える可能性を秘めているかもしれないと興奮して周りが見えなくなるものだ。そう思うのは悪くない。だが、残念ながらそのアイデアは所詮、あなたの頭の中だけで生まれたものであり、最善なものではない。なぜなら、正解は顧客の中にしかないからだ。
しかしながら、多くの人ははじめに思いついたアイデアを我が子のように可愛がってしまう。自分のアイデアが覆されることを極端に嫌うのだ
後ほど説明するが、アイデアというものは「思いつくもの」ではなく、顧客とのインタビューのなかで「気づくもの」である。
アイデアは覆されるためのものであり、より良い事業を作るための「叩き台」という意識を持つことが重要だ。あなたが思いついたアイデアというのも所詮、仮に立てた説、仮説なのだ。

(表面的な課題をもとにいきなりソリューション仮説を組み立てがち)
山田さんのように、インターネットやテレビで入手した情報をそのまま顧客課題としてとらえ、その課題を解決するためのソリューションをいきなり考え始めるケースが多い。その課題は単なるインプットなのだ。そのインプットからあなたなりの課題仮説を立てることか新規事業は始まる。今回のケースでは、「魚が釣れない」という課題をそのままとらえているようでは、適切なソリューション仮説など立てられるはずもない。


次の日、そのアイデアを上司である佐藤部長に提案した。

山田:「部長、ものすごいアイデアが浮かんでしまいました!魚群探知機付の釣り竿なんですが・・・」

佐藤部長:「魚群探知機付の釣り竿か!俺もちょうど考えていたところだったよ。先週友人で釣り好きのやつがいるから少し話を聞いてみたんだが、『魚が取れないのを楽しむのが釣りですよ』なんて言われてね。でも確かに漁師向けならいけるかもしれないな。競合他社もつい先日に似たような商品を漁師向けにリリースしていてね、かなり話題になっているらしい。社長とゴルフに行く予定があるから、その時に提案してみるよ」

山田:「はい!よろしくお願いします!」

思いついたアイデアは世界で初めてだと思っていたため、競合他社が既に同様の製品をリリースしていることは少し残念ではあったものの、仕事が前に進んだ感がありとても嬉しかった。

それから一週間後、鮪谷社長の一声で、魚群探知機付の釣り竿を開発することが決定した。既存のビジネスの延長上にあることや、競合他社が既に同様のプロダクトを販売していて話題になっていること、以上の2点がスピーディーな意思決定を後押ししたらしい。

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非常に嬉しかった。社会人になって、初めて心の底から働き甲斐を感じたし、独立して自分よりも何倍も稼いでいる同級生に少し追いつけた気がした。

とにもかくにも、私のアイデアが認められたのだ。まるで我が子のように、自分のアイデアが可愛くて可愛くて仕方がなかった。

新規事業担当者として仕事をやっている感があったし、何を作るかを考えることがとても楽しかった

【山田の振り返りメモ】
今振り返ってみると、どうすれば顧客の課題を解決できるかではなく、どんな商品を作ればみんなが驚いてくれるかばかり考えていた。もっと顧客課題にフォーカスすべきだったことはいうまでもない。

社長の肝煎りで始まった魚群探知機付の釣り竿だったが、魚をおびき寄せる音を出す装置をつけたり、デザインをオシャレにしたり、素材にこだわったり、タッチパネルを付けたりと、様々な機能が追加されていった。

その時は機能が多ければ多いほど良いと思っていたが、今思うと、MVP(Minimum Viable Product)からは程遠い製品になってしまっていたのだ。

【用語解説】
MVP(エムブイピー):
Minimum Viable Productの略で、「必要最低限の機能だけを搭載した製品」を意味する。フルスイングする前に、今進もうとしている方向性が正しいのかをユーザーの反応をみて確かめる際にとても有効

MVPの重要性については後で詳しく解説する。

また、新規事業といえば顧客インタビューだということで、社長直々に指示があり、漁師に対して顧客ヒアリングも何度も行った。

魚のいる位置が分かって効率的に魚を釣ることができる魚群探知機付釣り竿なんですが、使うと思いますか?あったら良いと思いませんか?ほしくないですか?」という質問に対して、100人中80人がポジティブな回答をしてくれた。

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【田所先生のワンポイントアドバイス】
この山田さんの顧客ヒアリングの方法は完全に間違っている。自分の可愛いアイデアを認めてほしいという思いが強いあまり、無意識に顧客から「Yes」という回答を引き出すための質問をしてしまっていたのだ。釣り竿メーカーの担当者が、遠路はるばる新商品をもって説明しに来た後に「どうですか?」って聞かれることを想像してみてほしい。お金を払えといわれているわけでもないので、よっぽどのことがない限り「No」とは言わないだろう。そのような状況下では顧客は、悪気なく嘘をつくのだ。空気を読んでくれているといっても良いだろう。
怖いのは、質問者自身が顧客の回答を誘導しているという自覚が全くないということだ。なので、その結果を信じて間違った方向に進んでしまう。間違った顧客ヒアリングによって得られたバイアスのかかった回答など、全くあてにならない。

この結果をうけ、社内では「これはいけるかもしれない!」という期待がさらに大きくなっていった。

そして3か月後、ついに新製品の発売日となった。

競合他社の釣り竿よりも、機能が豊富で画期的な釣り竿であったため、プレスリリースを打つやいなや、多くの人に拡散され、取材の申し込みやFacebookの投稿にもたくさんの「いいね」がついた。

「やっぱり漁師が求めていたものは、これだったんだ!」
私はそう確信した。

ところが、肝心の売上はほとんど伸びなかった。

漁師A:「すごい商品だと思うけど、とりあえず今の釣り竿で頑張ってみるよ」
漁師B:「お金がないから、また余裕ができたら検討してみるよ」

アンケートではポジティブな回答をしていた漁師さんですら、実際に購入してくれる人はほとんどいなかったのだ。

山田「そ、そんな・・・・」

そう、初めての新規事業は失敗に終わったのだ。

当時の私はなぜ失敗したのかが分からなかった。今まで進んできた道は正しいと心から信じていただけに、ショックは大きかった。

会社に迷惑をかけてしまった。損失を出してしまった。佐藤部長のメンツも潰してしまった、罪の気持ちに苛まれた。

そんなある日、学生時代の友人から一冊の本を薦められた

山田:「起業の科学か。面白そうだな」

本のレビューを見てみると、この本を読んで、新規事業のヒントを得た人が多くいることに気がついた

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ワラをもすがる気持ちで起業の科学を購入した私は、週末に時間をとって読み進めることにした。まず本の分厚さに驚いたが、図が多く意外にもスラスラと1週間程度

で読み終えてしまった。

山田:「あー読み切ったー」

この分厚い本を読み終えたという達成感も相まって、新規事業担当者として少しレベルアップした感覚になったが、少しするとなんとも言えないモヤモヤした気持ちが私を包み込んだ。

山田:「で、俺は何をやればいいんだっけ」

なんというか、数学の授業で「公式は理解できたけど、問題は解けない」という感覚に近いのかもしれない。

そこで起業の科学の著者である田所氏が運営するオンラインサロン「スタートアップ/事業創造サロン」に入り、直接メンタリングを受けることにしたのだ。

起業の科学を購入し、オンラインサロンに入るという決断をしていなければ、今の私はなかっただろう。

2. 全ては仮説から始まる

私はオンラインサロン入会後すぐにメンタリングを申し込み、株式会社ユニコーンファームの事務所へ足を運んだ。

今までの経緯を全て事細かに説明した後、田所先生のメンタリングが始まった。

田所先生:「ご説明ありがとうございます。では、さっそくですが、御社の新規事業について教えてください。」

山田:「え?それはさきほど説明した通り、魚群探知機付の釣り竿を・・・」

田所先生:「いや、ソリューションを聞いているのではなく、誰の、どんな困りごとを解決しようとしているのかを聞いているのですが」

山田:「誰の、どんな困りごと・・・・・」

田所先生:「多くの人はどのように解決するのかばかり考えてしまい、誰の、どんな困りごとを解決するのかという根本となる部分をないがしろにしがちです。下の図にあるように、いきなりソリューションを考えるのではなく、まず顧客の悩みを想像してみることから始めてください。」

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山田:「すいません、そのカスタマープロブレムフィットとか、プロブレムソリューションフィットとか難しい単語がありますが、どういう意味でしょうか。」

田所先生:「失礼しました。次をご覧ください」

【用語解説】
◆Customer Problem Fit:
顧客が抱える本質的な痛みを理解した状態
◆Problem Solution Fit:
顧客が抱える本質的な痛みを解決するベストな方法を見つけた状態◆Product Market Fit:
顧客が熱狂的に欲しがるものを作れる状態

山田:「なるほど。」

田所先生:「ではまず、顧客は誰でしょうか?」

山田:「漁師さんです」

田所先生:「漁師の名前、年齢、出身、学歴、家族は?」

山田:「・・・・・」

田所先生:「ユーザーのプロフィールを具体的にイメージするということはとても重要なんです。漁師という "名無しの権兵衛" のままではダメなんです」

山田:「そんなの実際は分からないですよね?何でもいいからプロフィールを設定するってことですか?」

田所先生:「何でも構いません。具体的に1人をイメージすることが重要で、この具体的な想定ユーザーのことをペルソナといいます。」

山田:「なるほど。でもその・・適当というか、好き勝手に設定したプロフィール情報に何の意味があるのでしょうか。ちゃんとインタビューして実在する人でやったほうが良いのでは?」

田所先生:「重要なのは、いきなり完全なものを求めるのではなく、山田さんの頭にある現時点の知識・情報を使って、現時点でベストな仮説を立てることです。勿論、プロフィール情報は一度決めたら終わり、というものではなく、実際のユーザーからフィードバックがあるたびに修正していくものです。」

【ペルソナを設定する目的】
①質の高い課題仮説を立てる
②八方美人なプロダクトを作ってしまうことを防ぐ
③社内メンバーの頭の中にある「顧客像」を統一する
④顧客視点へ立ち返る

山田:「なるほど、現時点でベストな仮説を立てて叩き台を作っているということですね。ということは、漁師の情報はよく知らないけど、自分で想像しうる範囲で漁師のプロフィール情報を細かく設定することで、現時点でベストな仮説を立てることができるというわけですね」

田所先生:「はい。あとは、ペルソナを設定することで、八方美人なプロダクトを作ってしまうことを避けることもできます。」

【ペルソナを設定する目的】
①質の高い課題仮説を立てる
②八方美人なプロダクトを作ってしまうことを防ぐ
③社内メンバーの頭の中にある「顧客像」を統一する
④顧客視点へ立ち返る

山田:「八方美人というと聞こえがよくないですが、多くの人に知ってもらって使ってもらえる製品のほうが良いのではないでしょうか」

田所先生:「新規事業については、特定のユーザーの心に激刺さりするプロダクトを作るべきです。いかに独占を築けるかが勝負なので、みんなに好かれないといけないという思いは捨てたほうが良いです。あの有名なiphoneですら、世界の1割の人にしか使われていないといわれていますからね」

山田:「なるほど。でもみんなに使われるプロダクトを目指したいです」

田所先生:「最初からみんなに好かれようとすると、まぁ誰か使ってくれるだろうという思いになり、顧客分析が甘くなります。初期のころから「みんなに向けて作りました」というのは作成側の甘えなんです。その結果、誰にも使われないプロダクトになってしまうというのが関の山です。」

山田:「そ、そうですね・・・魚群探知機付釣り竿を思い出しました」

田所先生:「あとは、各自が各々頭に思い描いている顧客像を統一できます。もし仮に社内で議論する際に、参加メンバーの頭に思い描いている漁師像が違ったまま話が進んでしまうと、纏まる話も纏まらなくなりますからね。」

【ペルソナを設定する目的】
①質の高い課題仮説を立てる
②八方美人なプロダクトを作ってしまうことを防ぐ
③社内メンバーの頭の中にある「顧客像」を統一する
④顧客視点へ立ち返る

山田:「確かに。上司を含め、社内を説得して承認をとることが新規事業においても一番難しいので、顧客像について共通理解を持つことはとても重要ですね」

田所先生:「あとは、新規事業を考える上で最も重要な「顧客視点」へ立ち返らせてくれます。」

山田:「立ち返る?立ち返らなくても顧客視点が重要というのは重々承知してますが」

田所先生:「みなさん最初はそうおっしゃるのですが、社内で議論を重ねるにつれ、洗脳されていきます」

山田:「洗脳?なんか怖いですね」

田所先生:「これはよくある話ですが、社内で『既存事業とのシナジーはどうなってるんだ?』『企業イメージを損わないのか?』『3年で100億稼げるのか?』『うちの技術をどう活用するんだ?』などと日々言われ続けると、不思議なもので、初めはあれほど重要だと理解していた顧客視点がすっぽりと抜け落ちてしまうんです。」

山田:「な、なるほど。」

田所先生:「ペルソナには、忘れかけた顧客視点を再び思い出させてくれる効果もあるんですよ」

山田:「初心を思い出せてくれるってことですね」

田所先生:「そうですね。では、早速ですが、漁師のペルソナを設定してみてください」

山田:「こんな感じでしょうか」

【ペルソナ(ver.1)】
◆氏名:浦島 太郎(32歳)
◆居住地:静岡県
◆釣る魚:マグロ
◆家族:妻、娘2人(2歳、0歳:子供がまだ小さい、生まれたばかり)
◆漁師になったきっかけ:親父の引退
◆年収:400万円

田所先生:「いいですね、ではこの漁師さん(ペルソナ)が抱えている悩みってなんでしょうか?」

山田:「悩み・・・思いつくのは魚が釣れないくらいですね。でもそんなこと分からないですよね。直接インタビューして聞くしかないかと。」

田所先生:「先程もお伝えしたように、インタビューで聞く前に、自分なりの現時点でのベストな仮説を立てましょう。仮説がないままインタビューしても得るものは少ないです。」

山田:「そうなんですか?直接聞けば悩みって分かるもんじゃないのでしょうか。」

田所先生:「インタビューに答える人も自分自身の本当の悩みについて言語化できているケースは少ないです。下の図のように、私たちは漁師さん本人も気づいていない、痛みの深い課題に気づくことが重要なんです。」

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山田:「なるほど。仮説を立てることの重要性はわかったのですが、仮説を立てろといわれましても・・・」

田所先生:「下の図を見てください。仮説を立てるときは、特定の環境下で、プロフィール情報心理情報をもったペルソナを、行動させることを考えると良いです。」

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田中:「なるほど。でも既にプロフィールは設定しましたよね?」

田所先生:「そうですね。なので、①特定の環境、②心理情報、③行動、の3つを考えていきましょう。」

【ユーザーの抱える悩みについて仮説を立てる方法】
①【特定の環境】要素の絞り込み
②【心理情報】エンパシーマップ
③【行動】カスタマージャーニー

田所先生:「まず、特定の環境を想定するために要素を絞り込みます」

山田:「具体的にどうすればよいのでしょうか。」

田所先生:「例えば、時間・イベント・場所などを限定してみると良いです。Airbnbってご存知ですか?」

山田:「勿論しってますよ、民泊サービスですよね」

田所先生:「はい、彼らは大統領選挙の指名演説で、コロラド州にある周辺のホテルの予約が取れなくなって困っているユーザーをペルソナに設定したんです。」

山田:「それはまたかなりピンポイントですね」

田所先生:「条件を絞ることにより、需要と供給の間にアンバランスが生じます。そこに目を向けると課題仮説を立てやすくなります。」

山田:「なるほど。確かに条件を絞ると不便、不満に思うことって出てきやすくなりますからね。」

田所先生:「次は②のエンパシーマップですね。これはペルソナの心の動きを想像して作るものです」

【ユーザーの抱える悩みについて仮説を立てる方法】
①【特定の環境】要素の絞り込み
②【心理情報】エンパシーマップ
③【行動】カスタマージャーニー

山田:「心・・ですか」

田所先生:「はい、現時点のペルソナにはまだ単なるプロフィール情報しかありませんが、そこに心理的情報を加えてあげます。方法としては下記の質問への回答を考えてください。」

【エンパシーマップを作成するための質問】
①日々何を考えているのか?
②日々何を感じているのか?
③周囲の人(友人・家族など)から聞く情報は?
④市場をどう見ているのか?
⑤周囲への言動は?
⑥何に苛立ち、困っているのか?
⑦何を得たいのか?

山田:「まるで小説家になったような気分ですね。」

田所先生:「ところで、魚群探知機付釣り竿のリリース前の顧客ヒアリングではどのような質問をされましたか?」

山田:「えっと、普通ですよ。魚群探知機付きの釣竿の説明をしてから、『どう思いますかって聞きました

田所先生:「その顧客ヒアリングの方法は全くダメですね」

山田:「え?どういうことですか?」

田所先生:「私はこの後講演がありますので、来週また来てください。来週また説明しますよ」

山田:「はい。有り難うございました。」

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週末@山田家
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日曜日のお昼を過ぎたころ、突然我が家のインターホンが鳴った。

山田「はーい」

戸井:「突然お邪魔して申し訳ございません。わたくし、おもちゃメーカーの開発をやっております戸井(とい)と申します。このマンションの方々に新製品のおもちゃのヒアリングさせていただきたく。勿論、おもちゃは後程無料でお送りさせていただいております」

山田:「おもちゃが無料ですか。いいですよ!うちは子供が2人もいるので助かります」

戸井:「ありがとうございます!こちらのおもちゃなのですが、わが社が欧米の企業との5年の共同開発を経て完成した集大成ともいえるおもちゃでして、触っているだけでお子様の脳の発達を促します。また、安全ですし、コンパクトで場所を取りません。」

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山田:「開発に5年もかかったんですね。なるほど。ねずみ・・・ですか。まぁいいんじゃないですかね。脳の発育に良くて確かに場所は取りませんしね」

戸井:「ありがとうございます!ではアンケートに記入をお願いします!」

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次の週
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私は再び田所先生のもとを訪れ、雑談として週末の出来事を話した。

田所先生:「それは良い経験をしましたね。」

山田:「良い経験?あ、まぁ無料でおもちゃがもらえたので」

田所先生:「違いますよ。顧客ヒアリングの落とし穴がわかったんじゃないですか?」

山田:「落とし穴?」

田所先生:「じゃあ、山田さんは本当にそのおもちゃをよいと思いましたか?」

山田:「まぁ5年もかけて開発したようですし、子供の頭に良いのならいいんじゃないかなって思いましたよ」

田所先生:「じゃあ聞きますが、そのおもちゃがおもちゃ屋さんに置いてあったら買いますか?それにお金を払ってまでほしいですか?

山田:「それは・・・絶対に払いませんね。こんな棒の先にネズミがついていてよく分からないもの買わないです」

田所先生:「それが顧客の”本音”ですよ。目の前で良いですよね?って聞かれたら、よほどなものじゃない限り、『良いです』って答えてしまうものなんです。」

山田:「そうですね、悪気はなかったんですが・・・」

田所先生:「そうなんです。顧客は悪気はないのですが、空気を読んでくれるんです。悪くいうと、嘘をつくのです。そして、最も問題なのは、新規事業担当者は『起案者バイアス』が掛かっていることに気づかず、顧客の言ったことを鵜呑みにしてしまうことです。」

山田:「まさに私ですね。では、それを防ぐにはどうすればよいのでしょうか?」

田所先生:「行動を尋ねるようにしてください」

山田:「行動?」

田所先生:「はい、口では何ともでも言えるんですよ。なので、どう思いますか?という意思や感想を聞くのではなく、過去に顧客がどんな行動をとったかを聞くべきです。行動は嘘をつかないので。」

山田:「行動を聞くときのポイントはありますか?」

田所先生:「5W1Hを意識することですね」

山田:「5W1Hってなんでしたっけ?すいませんド忘れして」

田所:「いつ(when)、どこで(where)、誰が(who)、何を(what)、なぜ(why)、どのように(how)ですね」

山田:「ということは、最近釣り竿を買ったのはいつですか?、釣り竿はどこで買いましたか?、釣り竿はご自身で買うんですか?、最近どんな釣り竿を購入されました?、釣り竿はどのような方法で購入しますか?などでしょうか」

田所先生:「まさにそうですね。その質問によって集めた顧客の行動情報から顧客の課題に気づくことが新規事業では最も重要なんです」

山田:「気づく?」

田所先生:「〇〇に困ってないですか?と”誘導的”に聞くのでなく、実際、顧客が行動したのかという情報を集めて、顧客の抱えている課題をあぶり出すというイメージです。」

山田:「顧客に直接正解を聞かないということですね」

田所先生:「その通りです。繰り返しになりますが、顧客自身も気づいていない課題に気づくことが重要なんです。」

山田:「なるほど、顧客ヒアリングについて理解が深まった気がします!」

田所:「では最後に③のカスタマージャーニーを考えていきます。」

【ユーザーの抱える悩みについて仮説を立てる方法】
①【特定の環境】要素の絞り込み
②【心理情報】エンパシーマップ
③【行動】カスタマージャーニー

山田:「直訳すると顧客に旅をさせるのでしょうか?」

田所先生:「まぁそうですね。静的なペルソナに動きを加えます。そうすることで、顧客の悩みに気づくことができるようになります」

山田:「なるほど。顧客が行動することで心理状態も変化するし、具体的な行動を想定して初めて気づく悩みってありそうですね」

山田:「こんな感じでしょうか」

【カスタマージャーニー(ver.1)】

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【ペルソナ(ver.1)】
◆氏名:浦島 太郎(32歳)
◆居住地:静岡県
◆釣る魚:マグロ
◆家族:妻、娘2人(2歳、0歳)
◆漁師になったきっかけ:親父の引退
◆年収:400万円

山田:「あ、すいません。少し前から気になっていたんですが、ver.1ってなんですか?ver.1があるということは、ver.2やver.3もあるということですか?」

田所先生:「その通りです。ペルソナは勿論、カスタマージャーニーなどは一回作成したら終わりというものではありません。新しい情報が得られたらその都度修正してより良いものにしていくものなのです。」

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山田:「なるほど。」

田所先生:「では、このペルソナを『漁→出荷→準備』という感じで動かしてみましょう。どんな悩みが出てきそうですかね」

山田:「そうですね・・・あくまでも想像なんですが、マグロを釣る漁師さんって荒波に揉まれながらなんとかマグロを釣り上げて家族のために帰ってくる、海に一度出たら一年以上帰ってこれないというイメージです。なので、小さいお子さんがいる浦島さん(ペルソナ)は漁の間、お子さんに会えなくて辛いのではないでしょうか。」

田所先生:「いいですね。他には?」

山田:「あとは、出荷のときには卸売市場の人は顔なじみのある方ばかりなので父親と比較されるわけですよ。お父さんはもっと立派な大きいマグロを釣り上げてたよと。なんか分かるなぁ。」

田所先生:「ペルソナに共感できるようになってきましたね」

山田:「あとは2人目のお子さんが生まれたばかりなので、稼がないといけないという思いが強いと思います。漁師さんの給料って決して高いとは言えないですし、漁獲量も年々減少しているようですし。」

田所先生:「少しづつ仮説が立てられるようになってきましたね。重要なのでお伝えしておくと、これらの3つの方法は100%正しい顧客の課題を見つけることのできる魔法のテクニックではありません。あくまでも質の高い仮説を立てる助けとなるツールにすぎないのです。あと、仮説は覆されるためにあり、覆されることでより良いものになります

山田:「なるほど。だから、インタビュー前に仮説を立てることが重要なんですね。質の高いインタビューをするための下準備って感じでしょうか」

田所先生:「そうですね。繰り返しになりますが、この段階でやるべきことは正解を探すことではなく、可能な限り仮説の質を高めることです。」

山田:「分かりました!たしかに、まだ顧客へインタビューもしていませんね。これで正解が分かるなら苦労しないか」

田所先生:「現時点で複数の課題仮説が立てられたと思いますが、最も大きな悩みって何だと思いますか?」

山田:「お子さんに会えなくて寂しいってのもありますけど、やはり、ニュースでも見たように漁獲量が減り、その結果、収入が減って困っていることかと思います。となると、どうしてもよく魚が釣れる高性能な釣り竿が必要なのではないかと考えてしまいます」

3. 課題の質を高める

田所先生:「多くの人は、漁獲量が減っているということが課題だとそのままとらえて、ソリューション仮説を立てようとします。ただ、漁獲量が減っているというのは、山田さんが見つけるべき顧客課題ではありません。」

山田:「見つけるべき課題ではない?漁獲量が減っているという課題に対し、漁獲量が増えるような釣り竿を提供する、これはどう考えても正しいソリューションですよね」

田所先生:「いいえ、そもそも山田さんがテレビから得た「漁獲量が減っている」というのは、課題ではなく単なるインプット情報です。漁獲量が減っているという情報から、漁師の課題仮説を立てる、それが山田さんがやるべきことです」

山田:「仮説を立てるも何も、情報がこれ以上ないので・・・」

田所先生:「そんな時に使える方法としては、言い換えてみたり、分解してみたりすると良いですよ」

山田:「言い換え?分解?」

田所先生:「はい、漁獲量が減っているということは、漁師さんの収入が下がっていると言い換えられますよね?収入が低いということは、売上が低い、またはコストが高いと分解できます。こうすることで、「漁獲量が減っている」という誰もが知っている情報から、「売上高が低くて困っているかもしれない」、「コストが高くて困っているかもしれない」などと仮説を立てることができます。」

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山田:「な、なるほど。革命が起きました。今まで課題は既にある情報を使い、それをどうやって解決するかというソリューション仮説を立てていましたが、課題仮説が抜け落ちていたということですね」

田所先生:「そうです。勿論、現時点ではインプット情報として「漁獲量が減っている」という情報しかないので、仮説の精度は低いですが」

山田:「インプット情報を増やしていくと仮説の精度があるというのは分かってましたが、インプット情報を言い換えたり、分解したりすることによっても、仮説を立てることができる点には驚きました」

田所先生:「ところで、なぜ漁師が釣り竿が欲しがっていると思われたのでしょうか」

山田:「えっと・・・勝手に釣れない原因は釣り竿にあると思いこんでました・・・釣り竿メーカーなもので。

田所先生:「自社の技術を使って作れるものを作っただけで、ユーザーが本当に欲しがるものを作ろうとしていない。まさにProduct Me Fit(プロダクトミーフィット)という状態に陥ってますね」

山田:「ぷろだくとみーふぃっと・・・・なるほど。ただの自己満足のプロダクトだったというわけか」

田所先生:「はい、なぜそうなるかというと、顧客が抱えている課題は何か?という顧客仮説を立てられていないからです。何よりも課題が先ですよ、課題が。」

山田:「顧客の課題・・・漁獲量が減っていることだと思ってあまり深く考えていなかったですが、売上が上がらない?コストが高すぎる?、仮にそうだとしたら、それはなぜだろうか・・・」

田所先生:「ようやく"無知の無知"から"無知の知"になりましたね。こうして仮の説、仮説を立てることで分かっていないことが分かるようになるんです。これが重要なんです。さて、現場を調べましょうか。答えは顧客がいる現場にしかありません。」

山田:「無知の知・・・今までは分からないことすら分かっていなかったんですね。早速質問リストを作って調査会社にお願いしたいと思います!」

田所先生:「ちょっと待ってください。調査会社はダメです」

山田:「え?あ、やっぱり費用もかかりますし、社内の営業にお願いした方がいいですかね?」

田所先生:「そういうことじゃないです。顧客ヒアリングは必ずアイデアを起案する人が行うべきなんです」

山田:「失礼しました。でも、餅は餅屋っていう言葉があるじゃないですか。前の営業の部署にいた時も新商品のアイデアは技術チームが考えて、我々営業はお客様に売りに行くのが仕事でした。社内外問わず、専門性を持った人にお願いして分業することこそ会社運営のあるべき姿なのではないでしょうか?」

田所先生:「既存事業の場合であれば、おっっしゃる通りですよ」

山田:「既存事業の場合・・・いうことは既存事業と新規事業で異なるということですか?」

田所先生:「はい、全く違うものと考えるべきです。多くの会社が新規事業を既存事業の延長として考え効率性を考えて分業してしまうと失敗するのです。」

山田:「新規事業のアイデアを考える上で、なぜ分業すると失敗する可能性が上がるでしょうか。効率的な気がするのですが。」

田所先生:「その答えは簡単です。課題に気づくことが重要だとお話しましたよね?それって顧客にただインタビューをすれば簡単に気付けるものだと思いますか?」

山田:「・・・いえ、かなり難易度が高い作業だと思います。」

田所先生:「顧客自身も把握していない課題に気づくって至難の技ですよ。顧客の話すときの雰囲気だったり、雑談で話した何気ない会話の内容だったり、様々な情報を複合的に合わせて初めて『これが課題かもしれない』と気づくものなんです。つまり、ただ、インタビューを実施して聞くべきことを聞いていれば良いというものではないです。」

山田:「なるほど。だからアイデア起案者とインタビューを行う人は同じ人がいいんですね。とてもよく理解できました。私が漁師さんに直接インタビューしてきます!」

田所先生:「はい、また結果を教えてください」

4. 上司への報告・承認取得

山田:「先日、新事業の専門家として有名な田所先生へ話を聞いてきたのですが、我々はまさに負のループに陥っていたようです」

【図:負のループ】

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佐藤部長:「負のループ?ちゃんと説明してくれ」

山田:「すいません。えっと、突然降ってきたアイデアを信じ、顧客のことを知ろうともせず、自分たちの技術ありきで高性能な釣り竿を作ってしまった。そして、増えていくFacebookのいいねを見ながら喜びに浸り、さらに自身の思い込みを正当化していった。まさに学習しない新規事業担当者になってしまっていたということです。」

佐藤部長:「で、何がしたいんだ?」

山田:「顧客自身も気づいていないような深い課題を見つけるために、漁師へ直接インタビューしたいので、承認をもらえませんか?ペルソナ設定、エンパシーマップ、カスタマジャーニーを作って・・」

佐藤部長:「そんなことして何になるんだ?我々は3年で100億の事業を作らないといけないんだ。その方法はただ一つ。わが社が長年積み上げてきた世界トップクラスの技術をつかって、多くの漁師に愛される高性能な釣り竿を作ることなんだよ。ちょっと忙しいからまた後にしてもらえないか?あと、インタビューなんかより、次の新しい釣り竿のアイデアを考えておいてくれ」

山田:「は、はい・・・承知しました」

【山田メモ】P L思考 🆚 イノベーション思考
PL思考とは、売り上げの最大化と費用の最小化のみを絶対的な経営指標とし、その達成のために、機能毎に組織を分けて、効率性を重視する考え方


PL思考にハマってしまうと、潜在的な課題を発見することが重要な新規事業であっても、「いくら儲かるのか?」「いつになったら回収できるのか?」と言う視点になってしまい、顧客のインサイトを深掘りする、顧客課題を発見すると言う視点が劣後してしまう。結果として、仮説検証/試行錯誤がままならずに、新規事業の芽が潰れてしまう

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佐藤部長にはまともに話を聞いてもらえなかった。佐藤部長は自分が知らないことを素直に認めるような人ではない。それをすっかり忘れていた。

1週間後のミーティングまでに何か方法を考えないと、顧客インタビューにすら行かせてもらえない。

私から専門用語や考え方を説明するのは勿論だが、「起業の科学」の本を部長に何とかして読ませるしかない、そう思った。

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次の日、クライアントミーティングの帰りのタクシーの中
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山田:「佐藤部長、起業の科学っていう本が、新規事業のバイブルとして流行っているらしいですよ」

佐藤部長:「起業の科学?面白いタイトルだな」

山田:「そうなんですよ。でもこの本、Amazonで間違えて2冊も購入してしまいまして・・一冊良かったらもらっていただけませんか?もちろん、部長は既にご存知の内容かとは思いますが、本棚で眠らせるのももったいないので」

佐藤部長:「ではもらったこうかな。流行っているなら持っておいて損はないしな、ありがとう」

山田:「はい!こちらこそありがとうございます」

次の日、佐藤部長のデスクを見ると、ペルソナ設定、エンパシーマップ、カスタマジャーニーのページに付箋がついた『起業の科学』が、書類で隠すように置いてあり、パソコンの画面には田所先生のYoutube動画が開かれていた。

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佐藤部長とのミーティング
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佐藤部長:「とういうことで、改良版の魚群探知機付き釣り竿を販売に向けて社長に話をしたいと思う」

山田(心の声):「え?また?本当に成長しない人だな」

山田:「はい、承知しました。あ、あと部長、前回ご相談差し上げた件なのですが・・・」

佐藤部長:「ん?」

山田:「ペルソナ設定、エンパシーマップ、カスタマジャーニーを作って顧客自身も気づいていないような深い課題を見つけるために、漁師へ直接インタビューしたいという件です。」

佐藤部長:「ペルソナ設定やエンパシーマップ、カスタマージャーニーを作ること自体は良いが、あくまでも仮説の質を高めるために行うということを意識しておけよ。何事も経験だ、やってこい」

山田(心の声):「やっぱり起業の科学よんでくれてるし、動画も見てくれているんだ!よかった」

山田:「ありがとうございます!」

佐藤部長:「あと、改良版の魚群探知機付き釣り竿の事業計画も作っておいてくれよ。3年で100億作れることを説明しないといけないからな」

山田(心の声):「部長の考えを少しづつ変えていくしかないな」

山田:「承知しました」

こうしてなんとか上司からの承認を取得し、漁師へのインタビューへ向かうのであった。私はこのとき、なぜ多くの企業の新規事業が上手くいかないのかがなんとなく分かった気がした。

【山田メモ】新規事業がうまくいかない理由
①承認者のリテラシーが低い
②最初に思いついたアイデアがベストだと思ってしまう
(顧客インタビューで「●●ってどう思いますか?」と直接顧客に聞いてしまうなど、自ら「起案者バイアス」をかける質問をしてしまうことなどが原因としてある)
③顧客の課題ありきではなく、自分たちの技術ありきで事業を始めてしまう
④Nice to have(あったらいいな)とMust have(絶対にほしい)の区別が難しい指標(Facebookのいいねなど)を過度に信用する
⑤上司がPL思考で長期的な視点を持ち合わせていない
PL責任を負っているためしょうがない部分もあるが、どうやって短期間で利益を出すのかしか頭にない

5. 漁師へのインタビュー(仮説の検証)

私は知り合いからの紹介で、二人の漁師さんに話を聞くことができた。

【インタビュー①】
◆氏名:山本さん(55歳)
◆居住地:長野県
◆釣る魚:マグロ
◆家族:妻、息子と娘(20歳 / 23歳)
◆年収:800万円

漁師の山本さん:「わしはマグロを網で釣るんや」

山田:「え?そうなんですか」

漁師の山本さん:「だから釣り竿はいらんよ」

山田:「漁獲量が減って収入が減って困っているというニュースを見たんですが、山本さんはどうですか?」

漁師の山本さん:「年収800万円程度あるから十分かな」

山田:「あ、そうなんですね・・・じゃあ、毎月掛かっている支出(コスト)って何があるんですか?」

漁師の山本さん:「漁船のメンテナンスとか、漁船のローンとかやな」

山田:「それがもし半分になったら、収入って上がりますよね。例えばこんな感じです。」

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漁師の山本さん:「そりゃそうやけど、どうやって半分にするんだね?」

山田:「そうですよね・・・無理ですね」

漁師の山本さん:「(笑)」

山田:「お子さんに会えなくて寂しかったことはないですか?」

漁師の山本さん:「そりゃ寂しいけど、稼がないといけないからね。もういいかな?今から半年は海に出ないといけないんだ」

山田:「あ、ありがとうございました」

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再び、田所先生のもとへ
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山田:「そんなこんなで、上司は全く分かってないんですよね・・・なんとか漁師へのインタビューの承認は下りたのですが・・」

田所先生:「そんなもんですよ。新規事業担当者が最も頭を抱えるのが、全く理解していない上司をどうやって正しい方向に導いていくかということ。プライドもあるのでなんとか自分で気づかせるように動かないといけないですし」

山田:「あるあるなんですね。頑張ります!」

田所先生:「ところでインタビューの結果はどうでしたか?」

山田:「仮説が大きく覆されました・・

田所先生:「そうですか、仮説は覆されるためにあるので正しいステップですよ」

山田:「そうかもしれないですが、これでまた振り出しかと思うと・・やっぱり収入を上げるには売上を上げるしかない。でも網で釣るから釣り竿はいらないということみたいです・・・」

田所先生:「漁師って山本さんだけじゃないですよね。もっと全体を俯瞰して考えるべきです。」

山田:「全体を俯瞰しろって言われましても・・・」

田所先生:「漁師を要素分解してみましょう」

山田:「漁師を要素分解?」

田所先生:「今見つけようとしているのは、漁師の悩みや不満ですよね?
悩みや不満の種類が変わりそうな分類で分けてみると良いです。例えば、こんな感じはどうでしょうか」

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山田:「なるほど。たしか山本さんは遠洋漁業の漁師さんでした。沿岸漁業の漁師さんのほうが年収は低いんですね。確かに悩んでいるポイントが違うかもしれません。早速インタビューしてきます!」

【インタビュー②】
氏名:石井さん
年齢:50歳
家族:妻、娘(20歳)
釣る魚:サバ、アジ、タラ、タイなどを釣る沿岸漁業
年収:300万円

漁師の石井さん:「兄ちゃん、今年は魚がとれんのや。収入がめっきり減ってしもうたわ。魚がたくさん釣れる良い釣り竿つくってーな」

山田(心の声):「やっぱり、うちは釣り竿メーカーだからインタビューを普通にしても、一定のバイアスが掛かってしまうのかもしれないな」

山田:「やっぱり収入を上げるには魚を一杯釣るしかないんですかね?」

漁師の石井さん:「そんなん当たり前や、魚をつらにゃ収入にならん」

山田:「毎月掛かっている支出(コスト)って漁船のメンテナンスや漁船のローンとかで、結構負担じゃないですか?」

漁師の石井さん:「まぁそうやけど、漁船はわしらの商売道具やからそのコストは払い続けるしかないんや」

山田:「船って一日どのくらい使用されますか?」

漁師の石井さん:「わしらはサバ、アジ、タラ、タイなどを釣る沿岸漁業の漁師やから、日帰りでだいたい6時間くらいじゃな」

山田:「そうなんですか!」

漁師の石井さん:「大体こんな感じのスケジュールや」

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山田:「ってことは、一日24時間のうち、3/4は使っていないってことですね?」

漁師の石井さん:「まぁそれがうちら漁師ってもんよ」

山田:「船の使い道って、漁以外にないんですかね?」

漁師の石井さん:「漁以外?うーん、以前はよく海外からきた旅行客から船を貸してほしいっていう依頼があったな」

山田:「なるほど!海外旅行客向けに貸し出すってことですね!それは良いかもしれません!本日はありがとうございました!」

6. 事業のセンターピンを見つける

漁師の石井さんさんへのインタビューの後、再び田所先生のもとを訪れ、インタビュー結果を報告した。

山田:「面白いことが分かりました!沿岸漁業の漁師さんは遠洋漁業の漁師さんと違って、収入が低くて困っています。また、船を一日に数時間しか使っていない割には、船のメンテナンス費用などの固定費の負担が大きく、収入を圧迫している原因になっているようです。」

田所先生:「なかなか質の高い課題が見つかりましたね」

山田:「これがいわゆるCustomer Problem Fitでしょうか?」

田所先生:「そうですね。ところで、各漁師の規模(人数)はどうでしょうか。市場の規模感を調べることも重要です。あまりにニッチすぎても駄目ですからね」

山田:「沿岸漁業就労者数は約18万人、沖合・遠洋漁業就労者はわずか3万人ですね。これから沿岸漁業就労者数の比率がさらに大きくなるとの見方もあるようです」

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田所先生:「素晴らしいです。上記のように、漁師を要素分解して、漁師の業務プロセスの中で、どこの市場を攻めるべきかを検討する方法を、「Go-To-Market(ゴートゥーマーケット)」といいます。」

【参考記事】「Go-To-Market Planの作成」

山田:「このGo-To-Market Planを作ったおかげで、沿岸漁業の漁師さんについて調べてみたくなりましたし、強制的に自分の視野を広げる便利な方法ですね」

田所先生:「では、固定費が大きく収入が低いという沿岸漁業の漁師さんの課題をどうやって解決しますか?今の段階で仮説ありますか?」

山田:「そうですね、船のアイドリング時間が長いということで、漁船のシェアリングなんてどうでしょうか。インバウンド向けシェアリングなんて良さそうです!」

田所先生:「ビジネスアイデアの基本の型はご存知ですか?」

山田:「いえ、そんなものがあるんでしょうか?」

田所先生:「10つあるので、簡単にご紹介しますね」

【ビジネスアイデアの10つの型】
①中間プロセスの排除
取引の間に入り、中間マージンを抜いているプレイヤーを抜いて直接取引をすること。例えば、Uberはタクシー会社という中間プロセスを排除して運転手と乗客であるユーザーを直接繋げることで生まれた。

②バンドルを解いて最適化する
機能が盛りだくさん過ぎるがあまり、ユーザーに価値が届きにくくなっているものを一旦バラバラにし、ユーザーにとって便利な形で再提供すること。
一言でいうと、「バーティカル戦略」だ。例えば、スキルシェア大手のクラウドワークスはプログラミングや事務、コンサル、デザインなど様々な領域のワーカーを抱えているが、一方、サブスクスキルシェアのMENTAは、プログラミングという領域に特化することで、プログラミングと相性の良いサブスクモデルを採用し、プログラミング言語(HTML, CSS, Ruby, Python等)ごとにワーカーを分類するなど、大幅なUXの改善が可能となった。

③バラバラな情報の集約
散らばった情報や機能を一つの場所に集約することで価値を提供すること。
「まとめサイト」をイメージするとわかりやすい。各情報にはあまり価値がなくても、一か所に集約されていることで価値を生み出すものはある。「価格.com」「食べログ」などは良い例だろう。

④休眠資産の活用
使われていない資産を活用して売上を生み出すこと。まさにシェアリングが最たる例だ。ブランドレンタル大手のラクサスは、家に眠っているブランド品に目をつけ、それを使いたい人にレンタルすることで収入を得るシェアリングサービスを展開している。

⑤戦略的自由度
既存の枠から敢えて外れることで今までにない価値提案をすること。

⑥新しいコンビネーション
全く違う領域で活用されていたサービスを組み合わせて価値を提供すること。(株)エアークローゼットは、スタイリストサービス、フリーシッピング、フリークリーニング、フリークローゼットという異なるサビースの組み合わせだ。

⑦タイムマシン
別の市場で検証済みのビジネスモデルを他の市場に適用すること。新聞の年間購読という仕組みは古くから存在していたが、お菓子のサブスクや香水のサブスクなどが生まれたのは最近の話だ。このように、Aという業界では当たり前と思われているビジネスモデルを、Bという全く新しい業界へ当てはめることで新しいビジネスのヒントになる。

⑧アービトラージ
供給不足の市場へ、供給過多な市場のリソースを持ってくること。レアジョブは、英語の先生の多いフィリピンと、英語の先生が少ない日本をつなぎ、安価な英語の学習機会を提供することで、需給ギャップを埋めた。

⑨ローエンド破壊
顧客が必要とする機能を超えた製品から過剰な機能をそぎ落とし、シンプルな製品として提供すること。ティーファールなどは良い例。

⑩サービス化する
製品販売からサブスクに変えるビジネスモデルのこと。Adobeが販売する画像編集ソフトウェアのPhotoshopなどが良い例。もともとは売り切りで販売されていたが、2011年にサブスク型の年間契約のライセンス形態へと転換した。

田所先生:「なので、今回のシェアリング事業は、漁師の船が空いている時間という情報を集約し、1日の半分以上アイドリングしている漁船を活用するという、③と④の組み合わせということになりますね」

山田:「なるほど!では、早速、沿岸漁業の漁師の持つ漁船のシェアリング事業をやります!」」

田所先生:「ちょっと待ってください。そもそも漁船のシェアリングって法的に問題ないのでしょうか。また、インバウンド向けってこのご時世、コロナの影響もあって当分インバウンド需要は見込めないのでは?」

山田:「そうですね、すいません・・・少しつい舞い上がってしまって。ちゃんと調べてまた来ます!」

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1週間後、私は田所先生のもとへ再び訪れた****************************************

山田:「田所先生、ちゃんと調べましたよ。漁船のシェアリングは法的に問題ないです。ただインバウンド向けのビジネスは厳しそうです」

田所先生:「漁船を使っている時間は漁師さんによって異なるんですか?それともみんな一緒なんですか?」

山田:「他の沿岸漁業の漁師さんにインタビューしたのですが、その方は夜漁に行ってるといってました。他にも、お昼ごろから漁に行く人もいるみたいです」

田所先生:「であれば、漁師間のシェアリングをやってみてはどうですか?」

山田:「それは素晴らしいアイデアですね!ただ、部長を説得しないといけないし、説得するためには事業計画も作らないといけないですね・・・」

田所先生:「事業計画を作る際は、落とし穴があるので注意してください。」

山田:「落とし穴?」

田所先生:「勿論、上司を説得するためには事業計画は必要だとは思いますが、詳細な事業計画は不要です。」

山田:「詳細な方が社内を説得しやすい気がするし、何よりちゃんと考えている感じがして評価される気がしますが。」

田所先生:「とてもよくわかります。ただ、よく考えてみてください。仮説は覆されるためにあるんです。新規事業において課題仮説やソリューション仮説は顧客からのフィードバックによって変えていくべきものなんです。」

山田:「ただ、すぐ変えないといけないからと言って手を抜いていいというのはちょっと納得できないのですが・・・」

田所先生:「勿論、上司がどうしてもというなら作成しないといけないと思います。ただ、次の2点を頭にいれておいてください。」

【事業計画を作成する上での注意点】
①打席に立つ回数
②愛着

山田:「①の打席に立つ回数とはどういう意味でしょうか。」

田所先生:「詳細な事業計画を作るためには膨大な時間を費やします。ただ、先ほど説明したように、まだ仮説段階なんです。仮説は・・・」

山田:「覆されるためにある、ですよね?」

田所先生:「はい。仮説は覆される度に良いものになっていきます。つまり、覆される回数がものをいう世界なんです。どれだけ『仮説を立てる→修正する』を実施できるかがとても重要なんですよ。数回バッターボックスに立っただけでホームランを打てたら誰も苦労しません。」

田所先生:「まとめるとこういうことです」

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田所先生:「打席に立つ回数を増やすということは、このサイクルを何回も回すということなんです」

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田所先生:「このプロセスを通じて、無知の無知から無知の知になり、知の知になるので、仮説の精度が上がっていくのです。」

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山田:「なるほど。なので、一度課題仮説を立てられたからといって、事業計画の作成に時間を費やしていると、場数を踏めず、仮説自体の精度も上がっていかないということですね。」

田所先生:「その通りです。事業計画を作ることが目的ではありません。あと②の愛着ですが、事業計画を詳細に時間をかけて作れば作るほど、そのアイデアが好きになっていくものです。」

山田:「でもそれって良いことじゃないんですか?仕事を好きになるって素敵じゃないですか。」

田所先生:「過去の失敗を思い出してください。新規事業においては、一つのアイデアに固執してしまうことほど怖いものはありません。そうですよね?」

山田:「た、確かに私が以前考えた魚群探知機付釣竿にはとても愛着を持ってしまってました。それ故、なんとしてもそれを商品化したいという思いが強くなって・・・」

田所先生:「既存事業においてはとても重要だと思いますが、何度も言いますが、新規事業を作る上では、自分のアイデア・仮説を否定されて覆されながらより良いものを作っていく必要があります。つまり、新規事業において愛着は最大の敵なんです。」

山田:「なるほど。」

田所先生:「ただ、社内を説得する上でざっくりとどのくらい儲かるのかは重要なので、TAM、SAM、SOM程度は計算しておきましょう。」

山田:「すいません。その呪文のような言葉はどのような意味なのでしょうか。」

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【用語解説】
TAM(タム):「Total Addressable Market」
ある市場の中で獲得できる可能性のある最大の市場規模、つまり商品・サービスの総需要のこと。

SAM(サム):「Serviceable Available Market」
顧客セグメントの需要を表す。TAMの中でターゲティングした部分の需要にあたる。

SOM(ソム):「Serviceable Obtainable Market」
実際にアプローチして獲得できるであろう市場規模のこと。新規事業の売上目標とも言える、

田所先生:「もしこの新規事業が成功した時に、どれくらいの市場規模になりそうかを計算しておき、関わるステークホルダーの納得感を高めることは新規事業開発においてはとても重要です。勿論、最初から市場全体を取りに行くわけではなく、Go-to-marketではセンターピンを狙いにいきますが、その後、どのようにスケールするかのロードマップという位置づけとして考えてください。」

山田:「市場規模を把握しておくことの重要性は理解できたのですが、どのように求めればよいのでしょうか。」

田所先生:「TAMはコンサル会社やリサーチ会社が出している数字をそのまま引用すれば十分です。一方、SAM、SOMはトップダウンではなく、ボトムアップで作成します。フェルミ推定ですね」

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山田:「フェルミ推定?」

田所先生:「フェルミ推定とは、一見予想もつかないような数字を、論理的思考能力を頼りに概算することです。例えば、こんな感じですね。」

【前提】

・一人の漁師あたりの漁船のアイドリング時間:年間1,000時間
・漁師:30,000人
・シェアリング収益/時間:3,000円
・手数料3割
→シェアリング市場:300億円

山田:「300億円・・・部長が喜びそうな数字です!部長に提案してきます!」

7. 上司への報告・承認取得

次の日、私は上司の佐藤部長に「漁師間の漁船のシェアリング案」を提案したが、部長は「ポカン」とした顔で、全く理解できていないようだった。

佐藤部長:「まぁとりあえず事業計画を作って報告書としてまとめるところからだ」

山田:「事業計画ですか・・まだ市場があるかないかもわかっていない状態、すなわち、PMF前の段階なので、非常に作成するのが難しく・・今作成できたとしても"絵にかいた餅"になってしまう気がしておりまして・・」

佐藤部長:「ごちゃごちゃ言わず、それを作るのがお前の仕事だろ。あと、その事業は3年で100億儲かるのかね?シェアリングなんて長年積み上げてきたわが社の技術力が全く活かせないし、そもそもどこに市場があるのか

山田:「私の試算によると、300億円規模のマーケットです。あと、この起業の科学という本によると、市場を新たに創るためにはスタートアップ型の新規事業をやる必要があるようでして・・」

佐藤部長:「p.38のスタートアップとスモールビジネスの違いってやつだな?」

山田:「え? は、はい!そうです!」

【参考記事】「スモールビジネスとスタートアップの違いとは?」

佐藤部長:「スタートアップ型を目指すべきなのはなんとなくわかったが、どう考えてもシェアリングなんかより、SNS映えするオシャレな釣り竿や、弊社のサーモヒーターの技術で持ち手が温かくなる釣り竿のほうが売れるだろう」

【参考記事】「避けるべきアイデアとは?」

山田:「私もそう思ってはいたのですが、実際に顧客と話すことで釣り竿に強い課題を感じている漁師はいないのではと思うようになりまして・・・」

佐藤部長:「それは何ページだ?」

山田:「えっと、課題仮説を構築するということで、p.106からの章になります」

佐藤部長:「君がそこまでいうなら、私もインタビューを行ってみるよ。アレンジを頼むよ」

山田:「承知しました!」

まとめ

ここまでが、新規事業を作るステップの中で最も重要な「ユーザーの抱える悩みに気づき、その仮説が正しいかを検証する」というステップだった。

次は、「見つけた課題をどのように解決していくのか」というソリューションの仮説構築及び検証のステップに進んでいく。









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