自称・起業家の大半はスタートアップ起業家ではない?スモールビジネスとスタートアップの違いとは?
【想定読者】
・スタートアップの経営者を目指している
・スタートアップ型の新規事業アイデアを考えたい企業担当者
あなたはスタートアップとスモールビジネスの違いを説明できるだろうか。多くの人はこれらの違いを理解していない。
そんな違いを理解して何になるのかと思う人もいるかもしれないが、両者は似て非なるものであるため、取るべき戦略が大きく異なってくる。
つまり、自分が行っているもしくは行おうとしている事業は、果たしてスタートアップ型なのか、スモールビジネス型なのかを理解しておかないと、正しい戦略をとることができないのだ。
今回は、6つの項目における両者の違いについて解説するので、あなたが目指す事業はどちらに該当するのかを考えながら読み進めてほしい。
スモールビジネスとスタートアップの違い
①成長カーブ
上のグラフは、横軸に時間、縦軸に生み出す利益をとり、スモールビジネスとスタートアップの違いを示したものだ。
見てのとおり、スモールビジネス型は、そこそこの利益を着実に得ていく一次関数モデルとなっている一方、スタートアップは慢性的な赤字状態から始まり、ある時期を境に爆発的に利益をあげていく指数関数モデルとなっている。
スタートアップのグラフの形状が、アルファベットの「J」に似ていることから、スタートアップの成長曲線はJカーブを描くと表現されるが、この初期の赤字状態をどうやって抜けだすかがスタートアップの一番の課題なのだ。
スタートアップ特有の初期の赤字段階においては、コンサルや受託開発などのスモールビジネスと並行し、生活費を稼ぎながら本業を行う起業家も多い。シリコンバレーでは、スタートアップが本業とは別のスモールビジネスで稼ぐ収入を、生活費を賄うための収入という意味で「ラーメンプロフィタブル(Ramen profitable)」というようだ。
この際、スモールビジネスに時間を割きすぎて、本業に割く時間がないという本末転倒な状況にならないよう注意したい。
【用語解説】
Jカーブ:
PMF(プロダクト・マーケット・フィット=顧客が熱狂的に欲しがるものを作れる状態)を達成するあたりまでは赤字が続くが、その後、指数関数的に成長するというスターアップ型の成長モデルのこと
ラーメンプロフィタブル:
本業以外のスモールビジネスによって稼ぐ収入のこと。上で説明したとおり、スタートアップ型のビジネスはPMFを達成するあたりまでは赤字状態でが続き、本業からの収益が得られないため、生活費を稼ぐという意味合いが強い
②市場環境
スモールビジネスは既にプロダクト・ビジネスモデルの検証が終わっている、実在する市場で勝負する一方、スタートアップの場合は、そもそも市場が存在するかどうか分からない状態で、アイデアの発見・検証からスタートする。
また、スタートアップの場合、参入すべき市場がまだないため、いつ参入するかがとても重要となる。参入が早すぎても技術的なコストが高すぎたり、市場に受け入れられない可能性もあるし、反対に遅すぎると市場は既に激しい競争状態にあるだろう。
一方、コインランドリーやカフェなどのスモールビジネスの場合、いつ始めるかはビジネスの成功確率と明確な因果関係はないのだ。
以上より、スタートアップを始める際には、なぜ今やる必要があるのかを明確にし合理的な説明ができる準備をしておくべきだ。
③事業拡大への姿勢
スモールビジネスの場合、既に市場がありビジネスとして確立された事業を展開するため、規模を大きくすることよりも、事業の採算性をいかに高めるかが重要となる。
一方、スタートアップはいかにして急成長するか、すなわち、いかにしてJカーブの赤字時期を乗り越えるかを常に考え、新しい市場を作り、なおかつそこでのナンバーワンになることを目指す。
④お金を出してくれる人
お金を出してくれる人というと、VC(ベンチャーキャピタル)などの投資家と銀行などの金融機関に大きく分かれる。
彼らは求めるものが全く異なるため、スタートアップかスモールビジネスかによって、どちらからお金を出してもらえるかが変わってくるのだ。
VCなどの投資家が求めるものは、キャピタルゲインだ。
キャピタルゲインとは、安く買ったものを買った価格よりも高く売ったときに出る利益のことだ。つまり、投資家は「爆発的な成長」を求めている。
一方、銀行などの金融機関が求めるものは、インカムゲインだ。インカムゲインとは、お金を貸すことで得られる利子のことだ。つまり、金融機関は「安定性」を求めている。なぜなら、金融機関にとっては、利子をちゃんと払ってもらえることと、最終的に貸したお金がちゃんと返ってくることが重要だからだ。
よって、金融機関はスタートアップのように市場が存在するか分からない不安定な企業にお金を貸すことはできない一方、投資家は爆発的な成長可能性の低いスモールビジネスへ投資を行うことはない。
【用語解説】
Venture Capital(ベンチャーキャピタル):
将来成長が見込めるスタートアップに投資する組織のことであり、頭文字をとってブイシーと呼ばれる。スタートアップの株式を買い、IPOやM&Aにより高値で売却することで利益(キャピタルゲイン)を上げるビジネスモデル
キャピタルゲイン(capital gain):
土地、建物、株式、債券などの価格が変動するものを安く購入し、高くなった時に売却して得られる差額(利益)のこと
インカムゲイン(income gain):
銀行預金や利付債券の受取利息など、資産を保有することで安定的・継続的に受け取ることのできる現金収入のこと(株式投資の場合、株主が企業から受け取る配当金がインカムゲインとなる)
⑤対応可能市場
ラーメン店や理髪店のように、商売をするエリアが限られているビジネスはスタートアップではない。なぜなら、地理的にビジネス可能エリアを限定されてしまうと、スタートアップの条件である「爆発的な成長」が達成できないからだ。
⑥イノベーションの手法
イノベーションには全く新しい製品やサービスを生み出す「破壊的イノベーション」と既存の製品やサービスに改良を加えていくという「持続的イノベーション」の2種類がある。
破壊的イノベーションの例としては、1983年に発売され国内外で6000万台以上販売された任天堂の「ファミリーコンピュータ」だ。それまではゲームセンターでしかできなかったゲームを自宅で楽しめるハードウェアを開発し、新たな市場を創り上げた。
一方、持続的イノベーションの例としては、デジタルカメラであればより高画質なもの、車であればより燃費の良いもの、イヤホンであればより高音質なものを開発することだ。
勿論、スタートアップが目指しているものは、破壊的イノベーションであり、ものやサービスが飽和している現代においても、クレイジーなアイデアの原石を見つけ磨き上げることで、新しい市場を創り上げていく力が必要となる。
まとめ
「自称・起業家の大半はスタートアップ起業家ではない?スモールビジネスとスタートアップの違いとは?」と題し、スモールビジネスとスタートアップの違いについて解説した。
スタートアップとは、大きな成長が見込めるビジネスアイデアを実現するまでの一時的な組織であるといえる。つまり、PMFを達成し、大きな成長を達成した時点でスタートアップではなく、一般企業となるのだ。意外に感じるかもしれないが、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンなども、今では一般企業なのだ。
冒頭でも説明したとおり、どちらが良い悪いという話ではなく、それぞれ最適な取るべき戦略が異なるという点が重要である。
この記事が、スタートアップとスモールビジネスの違いの正確な理解につながることを願っている。