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第6話 それって、リーダーのせいなの?

 今回もお読みいただきありがとうございます。また、「スキ」を押していただいている方々、フォローいただいています方々に感謝いたします。
 リーダーシップについて議論する場合、その有効性をどこに求めるのかということは、議論の目的を決める上でとても重要なことです。そこで今回は、リーダーシップと有効性についてお話ししたいと思います。


 居酒屋などでリーダーシップについて話題にする場合、多くは、その有効性について語ることが多いと思います。また、普段から各種メディア等で見聞きする場合においても、例えば、社長が交代して会社の業績が劇的に改善した場合、新社長のリーダーシップが良かったからだと様々なメディアに賞賛をもって取り上げられたりもします。反対に業績が低下したときには、社長のリーダーシップのまずさを指摘したりもします。


 人は、何か変化が起こった時に、何が原因でそうなったのかと、変化の原因を推論して説明しようとする傾向があります。この原因を意味づける過程を社会心理学では、帰属過程といいます。上記の例では、業績向上(低下)の原因をリーダーのリーダーシップに帰属させているのです。また、リーダーがとるリーダーシップが直接、組織業績の良し悪しに影響を及ぼすという暗黙の仮定も影響を与えています。もしも、書店に「成果を出すリーダーシップはこれだ!」とか「売り上げが2倍になる営業リーダーの行動はこれだ!」という題名の書籍があれば、1人でも部下を持ち、リーダーシップに悩んでいる人ならば、一度は手に取って読むのではないでしょうか。読みたくなりますよね。多くの人が、リーダーシップの有効性を組織業績と直接的に結び付けたがります。でも、ちょっと待ってください。

組織業績の向上や低下について、それって、本当にリーダーのせいでしょうか?

 確かに、リーダーシップは最終的には、組織業績に関係はしていますし、組織の業績についての責任は当然に、リーダーにあることは間違いありません。しかし、厳密に、リーダーシップが直接に組織業績と関係しているかといわれると、そうではありません。例えば、凡庸なリーダーの下でも、優秀な部下社員がそろっていた場合、組織業績は向上するかもしれません。
 また、優秀なリーダーが交代した後に、交代前のリーダーの薫陶を受けたフォロワーが頑張って成果が出たというタイムラグがあるかもしれません。さらに、組織業績の向上は、リーダーシップのみからもたらされるのではなく、広告宣伝の効果や優れた商品開発の結果等も考慮する必要があります。

 このようなことを考え合わせると、組織業績を直接リーダーシップの有効性の指標にする場合、純粋のリーダーシップの効果とそれ以外の要因による効果とを区別する必要があり、これはとても難しく、相互に絡んでいるので、厳密な区別は困難だと思われます。また、リーダーシップの議論から離れて、経営戦略やマーケティング等の議論になるのかもしれません。


 第3話でも書かせていただいたとおり、リーダーシップは、リーダーの影響力をフォロワーが受容して初めて現れる現象です。そして、フォロワーは無条件にその影響力を受容するのではなく、リーダーとの相互影響関係を続けながら、その質を向上させていきます。よって、リーダーシップと組織業績との関係は、リーダーが自身の描くビジョンに基づいて、フォロワーへの影響力を行使し、フォロワーがそれを評価、意味づけした上で、リーダーとの相互影響関係の中で、リーダーをリーダーとして認め、リーダーのビジョンに共鳴し、共通の意味や価値を組織目標達成の方向に向けて形成し、フォロワー自身の内発的動機づけにより、フォロワーの仕事への取り組みが変容し、結果的に、組織業績が向上するというように捉えることができます。


 これらを考え合わせると、リーダーシップの有効性の直接的な指標は、組織業績ではなく、フォロワーによるリーダーの評価、つまりリーダーをリーダーと認め、喜んでついて行くことです。よって、以降展開する議論においては、そのことを中心に、追及していきたいと思います。次回以降ご期待ください。

(参考文献)
狩野正雄『組織のリーダーシップ』,中央経済社,1989年。
田之内厚三編『ガイド 社会心理学』,北樹出版,2006年。

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