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第16話 リーダーシップの本質とは?~アンケート調査結果から見えてくるもの

 1年以上にわたり歩み続けてきたリーダーシップの旅も16話を迎え、いよいよ最終話へと向かいます。今回は、前回に引き続いて、リーダー26名、フォロワー306名と多くの方々にご協力をいただいた、アンケート調査の結果について書きます。そして、アンケート結果を踏まえて、リーダーシップの本質とは何かということについてお話したいと思います。
 フォロワーへの質問の問2では、「最もすごいと思ったリーダーがどのような行動をとっていたのか」という「プロトタイプ的行動」を測定する質問を実施しました。具体的な質問項目は、三隅(1984)のPM理論(PM理論については、「第11話」をご参照ください。)から、PM式質問の16項目を使用して、リーダー行動をP行動(目標達成行動)と、M行動(集団維持行動)とに分けて、PM測定を行いました。
 問3では、フォロワーのみへの質問として、「現在の職場での実際のリーダー行動」を測定する質問を実施し、フォロワーの側からの自部所のリーダー行動の評価をしてもらいました。具体的な質問項目は、問2と同じPM式質問の16項目を使用してPM測定を行いました。このことにより、フォロワーが抱いている「最もすごいリーダーのリーダー行動」(「プロトタイプ的行動」)と、フォロワーが認識する「実際のリーダー行動」との数値比較ができます。簡単に言いますと、「期待するリーダー行動」と「実際のリーダー行動」の比較です。両社の差異が無ければ、フォロワーが認識する「期待するリーダー行動」=「実際のリーダー行動」となり、フォロワーの満足度は大きく、リーダーに喜んでついて行くことでしょう。その結果、組織業績の向上につながるはずです。
 しかし、結論から言うと、結果は、残念ながら「期待するリーダー行動実際のリーダー行動」でした。

 以下では、一連の調査結果について、具体的にどのような行動で差異が出たのか、どうすれば、効果的なリーダーシップとなるのかについてお話しします。
 第1に、リーダーの行動については、リーダー自身が最もとりたいと考えている行動は「部下が優れた仕事をしたときには、それを認める。」というM行動(集団維持行動)でした。その一方で、リーダーが現実に最も多用しているのは「規則に定められた事柄に従うようやかましくいう。」というP行動(目標達成行動)でした。このことから、リーダーは、本来、自身がとりたいと考えている行動と、現実に自身が行っている行動とは異なっているというジレンマを感じながら、リーダー行動をとっている可能性があります。また、フォロワーの認知において、彼(女)らが、自部所のリーダーに最も不足していると感じている行動は、「部下を信頼している。」というM行動(集団維持行動)でした。このことから、リーダーが最もとりたいと考えている行動は、部下が優れた仕事をしたときには、それを誉めてあげるという行動ですが、フォロワーは、そんなことよりも、部下を信頼して任せて欲しいという行動であるということを期待していることがわかりました。
 
 第2に、フォロワーは、期待するリーダー行動においては、P行動(目標達成行動)よりM行動(集団維持行動)を多く期待している。その一方で、実際のリーダー行動においては、M行動(集団維持行動)よりP行動(目標達成行動)が多くとられていると認識している。また、これらの期待するリーダー行動と実際のリーダー行動とを比較した場合、M行動(集団維持行動)については、期待するリーダー行動の方が多くとられていることがわかりました。この結果は、フォロワーが認める優れたリーダーとは、M行動(集団維持行動)の水準が高いということを示しています。よって、リーダーに対する満足度を高めるためには、期待するリーダー行動と実際のリーダー行動とを整合させることが必要であり、そのためには、リーダーはM行動(集団維持行動)を重視する必要があると考えられます。
 
 第3に、ポジティブなフォロワーとネガティブなフォロワーとの期待するリーダー行動と実際のリーダー行動とを比較した場合、フォロワーは、M行動(集団維持行動)の方を期待しており、具体的には「部下を信頼している。」について最も期待しているということがわかりました。
 
 以上は、アンケート結果の分析と実践への示唆ですが、大切なことは、この結果(事実)をどのように、意味づけて実践していくかということです。
 リーダーが本来、自身がとりたいと思う行動と、実際の行動とが相違しているというジレンマを感じていることについて、何故そうなのかを考えてみますと、組織の上からの圧力が考えられます。リーダーの上司や上部組織からは、常に課題達成に関する指示や指導がなされます。アンケート対象が公的機関であったこともP行動(目標達成行動)の中で「規則に定められた事柄に従うようやかましくいう。」という行動につながったものと思われます。他の民間企業であれば、異なる行動をしていたとも考えられますが、いずれにしてもP行動(目標達成行動)をとることが推察できます。なぜならば、組織において、任命されたリーダーは、目標達成をするために任命されているのですから。
 リーダーが本当にとりたいと思っている行動は、「部下が優れた仕事をしたときには、それを認める。」というM行動(集団維持行動)でした。しかし、フォロワーは、「部下を信頼している。」というM行動(集団維持行動)を期待しています。つまり、リーダーが考える、効果があると思うリーダー行動とフォロワーが考えるリーダー行動とは、同じM行動(集団維持行動)でも、異なっているということです。

 これらのことから、1人でも部下を持つーダーが組織業績の向上を図ろうとすれば、リーダーの上司や上部組織から、課題達成に関する圧力が加わったとしても、それを直接フォロワーに伝達することや、無手勝流に、自身がよいと思う、独善の行動をとるのではなく、フォロワーを「信頼して任せる」ということが大切です。そのことによって、リーダーとフォロワーとの「相互信頼」関係が醸成でき、長期的にみれば、フォロワーの成長にもつながり、結果的に、組織業績の向上につながっていきます。最悪なのは、上司や上部組織からの圧力に屈して、または、抵抗することもなく、リーダーの自己保身のために言われるがままにフォロワーに指示するリーダーです。このようなリーダーがフォロワーからの信頼を獲得することは絶対にありません。

 以上、リーダーシップにつきまして、長々と1年以上にわたって、書き綴ってきましたが、リーダーがどのような行動をとれば、リーダーシップを効果的に発揮することができるかについては、フォロワーからの「信頼」を獲得していくことはもちろん大切です。リーダーシップは、フォロワーとの双方向の相互影響関係から生じるものであり、一方的なものではありません。フォロワーは、リーダーが信頼するに値すると判断し、さらにリーダー自身が自分たちフォロワーの関心事を心の中に十分持っていると確信するとき、リーダーを信頼するようになります。明らかに自分だけの考えやテーマ、出世、幸せに興味を持つリーダーには、誰も喜んでついて行くことはありません。フォロワーからの信頼がないリーダーは、何をやっても、何を言ってもフォロワーの琴線に触れるようなことはないでしょう。それに加えて、リーダーもフォロワーを「信頼する」という行動をとることが大切です。リーダーシップの本質は、派手なパフォーマンスや俺について来いという行動などではなく、フォロワーとの「相互信頼」という4文字を獲得するための地道で、長い旅であるということです。そして、リーダーシップは、最初からフォロワーがいるのではなく、喜んでついてくるフォロワーを生み出していくプロセスです。そのために、1人でも部下を持ったら、まずは、「リード・ザ・セルフ」から始めていくことが大切となってきます。
 リーダーシップについてのお話は、今回で終了です。1年以上にもわたりお読みいただきまして誠にありがとうございました。また、スキをいただいた方々やフォローしてくださった方々にこの場をお借りしてお礼申し上げます。「note」での著作活動は、まだまだ続けていきます。また、別の話題でお会いできることを楽しみにしています。

(参考文献)
池中正司「リーダーとフォロワーとの相互影響関係の視点から捉えたリーダーシップの研究-日本郵政公社への調査を中心にして―」,『岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要』第24号,2007年,131-145頁。
野田智義・金井壽宏『リーダーシップの旅 見えないものを見る』,光文社新書, 2007年。


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