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【真相】ビル・ゲイツはなぜ「FACTFULNESS」を絶賛したのか。

COVID-19による世界の混乱、アメリカ大統領選の混乱と分断。世界は悪い方向に進んでいるかのように見える。

そんな時代に「世界は分断されていない」「世界は良い方向に進んでいる」と説くのが「FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」だ。

教育、貧困、環境、エネルギー、人口問題などをテーマにデータを基に、いかに「わたしたちの世界の見方が思い込みに歪められているか」が分かりやすく解説された本書は、国内だけでも85万部のベストセラー(2020年5月)、世界では200万部売れている。

帯に大きく「ビル・ゲイツ大絶賛」と書かれた本書。ゲイツ は本書の何をそこまで絶賛したのだろうか。ゲイツ絶賛の真相に迫ると、本書の真の価値が見えた。

なぜ多くの人は「世界が分断されている」と考えているのか?

ロスリング紹介

著者のハンス・ロスリングはTEDカンファレンスで10回講演しているスウェーデン出身の医師で「国境なき医師団」の共同設立者でもある。そんな彼が末期のすい臓がんを宣告されたとき、一切の講演活動をやめ、息子とその妻と共同執筆したのが本書「FACTFULNESS」。

彼が一貫して語る想いは「世界を正しく見る」大切さだ。

大学で、医学、公衆衛生学、統計学を学んだロスリングは、アフリカで20年以上アウトブレイク(感染症の突発的発生)を研究し、精力的な活動を続けた。

研究の傍ら、大学で公衆衛生学の授業を教えていた彼に、ある疑問が浮かぶ。
なぜ多くの人は「世界が分断されている」と考えているのか?

「知識のアップデートが問題」と考えたロスリングは統計データを視覚的に分かりやすくまとめ人々に提示し始めた。

「私のデータセットであなたのマインドを変えてみせる」

「知識のアップデート」にロスリングが用いたのがバブルチャート。横軸は収入、縦軸は寿命、バブル(円)の大きさは人口を表している。

ファクトフルネス バブルチャート.1969

1969年の世界の様子を見ると、確かに左下と右上に分布が分かれている。「裕福で長寿の先進国」と「貧しく短命な途上国」、お決まりの世界の見方だ。50年後の2019年はどうだろう。

ファクトフルネス バブルチャート.2019

2019年になるとチャートの様子は変わり、世界は左下から右上に連続的に分布している。そして多くの国は50年前に比べ、明らかに右上に位置するようになった。
世界は良くなっているのだ。

この変化はバブルチャートをアニメーションで見てみると更に鮮明になる。(https://www.gapminder.org)

データは全て、インターネットで無料で手に入る統計データ。これで人々の認識が変われば統計は、無料で手に入る「魔法の薬」となる。

みなさんはどう感じただろうか。世界への認識は変化しただろうか?

名称未設定のアートワーク

「わたしのデータセットであなたのマインドを変えてみせる」残念ながらロスリングの希望は失望に変わった。

いくらわかいやすいアニメーションを使っても、いくら良い教材を使っても、無駄骨に終わることが多かったのだ。残念なことに、講義を気に入ってくれた人にすら、私の声が届かなかった。話を聞いている最中は良くても、聞き終わった途端に元の悲観的な考え方に戻ってしまう。貧困や人口増についての誤解を解いたと思ったら、プレゼン終了後にまったく同じ誤解を口にする人もいた。(「FACTFULNESS」p.019)

足りなかったのは「知識のアップデート」ではなく、「ファクト認識」を歪めている「誤った思い込み」の気づきと克服。まさに、これが「FACTFULNESS」の真髄なのだ。

名称未設定のアートワーク

ビル・ゲイツ絶賛。「ファクト認識」の革新

「ファクトそのもの」だけでなく「ファクト認識」が誤っている。

本書は「誤ったファクト認識」を自覚し、「世界を正しく認識するための手段」として新しいフレームワークを提案する。

ロスリングは「誤ったファクト認識」を我々が生まれながらに持つ「本能」に起因すると言う。

例えば「先進国」、「発展途上国」と世界が分断されていると考えるファクト認識。これは「分断本能」による誤った認識だ。

その克服のために提案されたのが「成長する4つのレベル」で世界を見るフレームワーク。

これこそが「ビル・ゲイツ大絶賛」のポイントだ。

ゲイツ

ロスリングの提案した新しいフレームワーク「4つのレベル」に出会ったゲイツは「これは私にとってブレイクスルーだった」と語る。

「私はこれまで人前で話すとき「先進国」「発展途上国」と言ってきた」
「なぜならそれに変わるフレームワークを知らなかったからだ。」
(Gates Notes April 03, 2018)

ゲイツは2017年の卒業生に「贈り物」として「FACTFULNESS」を自身のサイトGates Notesを通じ無償配布した。その想いをゲイツは取材でこう語る。

ゲイツの贈り物

「私たちがどれだけ進歩してきたかを理解していれば、進み方を加速させることはより容易になる」
「世界がより良くなっていると思わない人はより悲惨な出来事に目が行き、どうすることもできないと考える。だが、どれだけの前進が可能かを理解している人は悪い状態を見ても、"どうすれば改善できる?"と考えるだろう」
(Forbes JAPAN 2018/06/08)

「FACTFULNESS」な教育が今こそ必要

本書のタイトル「FACTFULNESS」を見て「MINDFULNESS」を思い出した人も多いのではないだろうか。

「MINDFULNESS」は、「今、この瞬間」に集中して「自分」をありのままに認識して余計な不安やストレスから解放される習慣。

「FACTFULNESS」は、自分の本能である「思い込み」を認識し、「世界」をありのままに認識し、心を穏やかにする習慣なのだ。

ファクト

一方、米国のIT専門リサーチ会社ESG(Enterprise Strategy Group)によると「世界のデータの90%は、ここ2年間で生成されている」。所謂、情報洪水の中で、情報を常にアップデートし続けるのは難しい。

だからこそ、「FACTFULNESS」な教育が今こそ必要なのだ。

これまでの日本の教育は、知識習得、つまり情報をいかに効率良く手に入れるかに注力し過ぎていたと各所で言われる。そのアンチテーゼとして、今では古語になりつつある「アクティブ・ラーニング」などの「自ら考える力」を育む教育が声高に叫ばれた。

図2

本書は「自ら考える」だけでは「世界を正しく認識」できないし、心が穏やかにならないと説く。

ロスリングは本書を書くことで、ゲイツは本書を「贈り物」とすることで、人々の認識を変え、世界をより良いものにしようとした。

本書を手渡された教師である僕は、若者への「贈り物」として授業の中で彼らに問い続けよう。

「あなたはどう考えますか?」
「あなたの世界の見方は、思い込みに囚われていませんか?」

「教える」授業では足りない。これからは「問いかける」授業が必要だ。

#読書の秋2020
#FACTFULNESS


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