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セミが来る〜大発生に備えて

「今年だよ。来るよ」

17年に一度、アメリカ東海岸から中西部にかけて、一斉に大繁殖する周期ゼミ。わが家の地域では2021年、というのは去年から知っていた。

しかし、セミの年だから苗木は植えちゃダメ、というのは聞いてない。買っちまったよ。梨もイチジクもキンモクセイもヤマブキも。パンデミック以降、旅行も行楽も無しで家にいるだけなので家の手入れにお金を使ってる。放ったらかしだった庭も、木を植えよう、せっかくだから果物のなる木も、と選んで楽しみにしてるのに。ガーデニングシーズンの苗木が売り切れる前にと1月早々に買ったのもある。それを今さら、今年はやばい、せめて秋まで待てと、どこを見ても言い出した。もっと早くに言ってくれ。

なんでも、一斉に土から這い出てきた幼虫が樹液を吸い成虫になって卵を産み付ける、その量があまりにも多く、若い木だとダメージが大きくて死んじゃうんだって。

そんなすごいの?どんなすごいの?前回の2004年はセミのいない土地にいたので未体験だ。

「外に出たらワンワン飛び交ってる。そこをワーっと急いで駆け抜けるのよ。服や髪にくっついてくるからね。車に乗り込むでしょ。そしたらまずワイパー動かしてフロントガラスにたかったセミを、ざっざっとはたき落とすの。地面ぎっしり抜け殻やら死んだセミやらが落ちててね、それをガシガシ踏み越えて行くのよ。ドアの開け閉めは注意してね、飛び込んでくるやつがいるから。そうそう、そしてとにかく鳴き声がうるさいよ」

経験者の話を聞いて顔を歪める。お願い、未経験者を面白がって誇張してるだけだと言って。

こわごわ写真を見た。日本で見慣れたアブラゼミやミンミンゼミやクマゼミとちがう。17年ゼミは細身で黒く、羽にオレンジの筋、目が赤くて邪悪な顔つき。いかにも異国の虫。嫌だ、こんなゴキみたいのが木にうじゃうじゃ止まってるとか飛び交ってるとか網戸にびっしりとかもう恐怖でしかない。日本の昆虫少年たちよカモン。セミ取り放題だ。

早ければ5月にも第一軍が羽化するという。セミの出現追跡マップのアプリもある。住んでる地域でセミを見かけたら写真を撮って位置情報とともに投稿するんだって。

学んだこと

引用元:Cicada Mania
セミのスケジュール
気温が高ければ早く始まり短期間で終わる。気温が低ければ遅く始まりダラダラ長引く。以下、日程は地域の気候により変動。
3/14-5/2 動物が地下のセミの動きを感じ取って穴をほじって幼虫を探す
4/11-5/2 地面が穴だらけ
5/9-5/23 幼虫が現れる
5/9-6/20 オスのセミが鳴く
5/23-6/13 オスとメスのコーラス、交尾、産卵
5/9-6/20 セミが死ぬ(天敵に食べられる、歌い疲れて死ぬ)
6/6-8/15 木々が疲弊する(枝が死に、葉が枯れる)
7/25-8/8 卵が孵る

セミの生態
・今年現れるのはBrood X(年次集団 X)。Xはエックスではなくて数の10。
・セミの大発生は迷惑ものだが人畜無害。噛んだり刺したりしない。
・地表の温度が17℃を超えたら穴から這い出してくる。
・背の高いものなら何でも手当たりしだいに登り始める。
・セミの目的は「交尾相手を見つけて卵を産み付ける」。
・卵は交尾後6週間ほどで孵化する。幼虫は樹液を吸い、地面に落ち、地中に穴を掘ってそこで17年間を過ごす。眠ることなく食事して(植物の根の汁を吸って)ごそごそトンネル掘りをしている。
・なぜ17年周期?素数年ごとに大量発生し天敵から身を守ろうとする生き残り本能といわれる。13年周期のセミもいる。17年ゼミと13年ゼミの繁殖年が重なるのは稀で、次は2115年。

住民へのアドバイス
・外出時には帽子をかぶること。セミにおしっこ引っかけられる。これをhoney dew(蜜のしずく)またはcicada rain(セミの雨)と呼ぶ。
・セミは芝刈り機やその他の電動工具に反応して活発になる。機械を使った芝刈りは朝の早い時間か夕方以降にするのがおすすめ。
・苗木を植えるのは7月まで遅らせること。若い木は枝葉に網掛けをして保護してやる。網の目は1センチ未満であること。木を弱らせるのはセミの産卵である。
・庭の花や野菜はおおむね大丈夫。セミが好むのは産卵に適した強さの枝である。

食用としてのセミ
・鳥は大喜び(もちろん食べきれない)。
・犬もセミを食べるが、腹をこわしたり喉につかえたりするので飼い主は注意すること。
・人間が食べるなら殻を脱ぐ前の状態が適する。にんにくとバターで炒めたりバーベキューにしたりピザのトッピングにしたりする。良いタンパク質源となるが、水銀を含むので実際はすすめられない。

◎ ◎ ◎

かつて正岡子規は詠んだ。

ツクツクボーシツクツクボーシバカリナリ

朝から夕方までセミが鳴く夏の日本を思い出す。子規さんならこの17年ゼミの大繁殖をどう詠むだろう。


外部リンク
梅谷献二氏による虫の雑学『ジュウシチネンゼミのふしぎ』
https://www.jataff.or.jp/konchu/mushi/mushi107.htm

いちばん正確とされる、米コネチカット大学の Brood X 分布地図。
https://cicadas.uconn.edu/brood_10/#


©︎ 2021 Masako Masaosdóttir

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