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#78 「生活ではなく人生を」ー遠藤周作生誕100年

1.早かった3月ー三月は「サル」

 WBCでの歓喜の優勝と同時に東京の桜が満開(観測史上2番目の早さ)、大相撲春場所、選抜高校野球、卒業式・修了式と進み、今年の3月は例年と比べても特に早かった気がします。正に三月は「ル」ー「ク」1月、「ゲル」2月と比べても、時間の経つのが早く感じました。
 新型コロナも「終息」したわけではありませんが、5月8日の「5類」移行が決定しており、3月13日からは、マスク着用も個人の判断となりました。
これまでの3年間とは違う、新しいモードでの動きの始まりと加速が見込まれますが、3年間の凍結を一気に解凍するのではなく、人の気持ちの温もりが少しずつ解凍を促すように「待つ気持ち」も大切にしながら、新年度を迎えたいものです。

2.3月27日は遠藤周作の誕生日ー生誕100年

 本日3月27日は、遠藤周作の誕生日。丁度生誕100年にあたります。今年は「遠藤周作生誕100年」と銘打って各種イベントが企画・開催されていますが、長崎市遠藤周作文学館では、本日から来館者マッププロジェクトがスタートするとのこと、私もいつか、同文学館を訪れてみたいと考えています。

 今月新潮社から出版された「(文豪ナビ)遠藤周作」は、遠藤周作作品を、5つのジャンル(①キリスト教文学②医療小説③歴史小説④青春小説⑤エッセイ、講演録)に分けて紹介しています。
 これまで私は、遠藤周作作品でも⑤のジャンルや狐狸庵先生のユーモア小説を中心に読んで来ましたが、今年は、①のジャンル(「沈黙」「深い河」)を読みたいと思っています。①のジャンルはこれまで、そのテーマの深さに読むことを敬遠していましたが、大小の紆余曲折を経て、漸く自分の中でも受け入れられる状態になったと感じたからです。

3. 「人生100年時代」言説の危うさ

人生100年時代」と言われ始めて6年が経ちます。発端は2016年11月に発刊された「ライフ・シフト」(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット)ですが、翌2017年に安倍内閣による「人生100年時代」構想会議が発足しました。
 厚生労働白書で「人生80年時代」が謳われたのが1984年から2012年までの28年間、「人生90年時代」は女性の平均寿命が80代後半に入ったタイミングで、2012年の高齢者社会白書に盛り込まれました。
 「人生90年時代」は賞味期間もそこそこに4年で終わり、2016年の「ライフ・シフト」の登場と共に、一気に「人生100年時代」が喧伝されるようになりました。

世の中の「人生100年時代」言説では、2点注意が必要だと考えています。
1つ目は、「人生80年時代」「人生90年時代」が「ピリオド平均寿命」(年齢別死亡率が、将来もそのまま続くと仮定して算出)をベースとした考え方であるのに対し、「人生100年時代」は「コーホート平均寿命」(将来の死亡率の変化〔医療やケアの進展〕をベースとした考え方であること。
「コーホート平均寿命」は「ピリオド平均寿命」よりも長くなります。

2つ目は、リンダ・グラットン/アンドリュー・スコットの「ライフ・シフト」はそもそも「人生100年時代」と言っているのか?という点です。
 日本語版はカバーのサブタイトルに「100年時代の人生戦略」としていますが、原本の英語版のタイトルは”THE 100-YEAR LIFE”で、サブタイトルとして”Living and Working in an Age of Longevity"としています。
 同著では、2007年生まれの半数の到達年齢として、先進国7か国の数字ーアメリカ(104歳)、イギリス(103歳)、日本(107歳)、イタリア(104歳)、ドイツ(102歳)、フランス(104歳)、カナダ(104歳)ーが示されており、日本が最高齢でした。
 同著は、「(100年生きることになったら)人生はどうなるか、生き方全てに大きな『シフト』が必要になる」として、新しい働き方や生き方への提言を展開しているのであって、「人生100年時代」とは言っていないと思われます。同著が発刊されて以降、各国の政策の中で「人生100年時代」を謳っているのは、日本だけではないでしょうか?

「長寿化」に伴って、「生き方・働き方」に大きな「シフト」が必要なのは勿論ですが、「人生100年時代」言説は、「人生100年」と言い切ってしまうことで、余計な不安心理を駆り立てる「危うさ」を感じます。
100歳人口は昨年9万人を超え、2050年には50万人を超える予想です。今後100歳を超える人は増えて行くとしても、あえて「人生100年時代」と言う必要があったのか、私の素朴な疑問です。

4.遠藤周作「生活と人生」

 遠藤周作は、幾多の厳しい闘病生活を経験しています。73歳と決して長くない一生でしたが、四半世紀以上経った今でも、また、生誕100年を記念して今でも熱心な読者が絶えないのは、人生の長さではない、遠藤周作が遺したかった『人生』への強いメッセージに共感するからだと思います。
 「生活ではなく人生を」・・・これは、遠藤周作が終生追い求めたテーマでした。長崎市遠藤周作文学館でも、遠藤周作「珠玉のエッセイ展」(<生活>と<人生>の違い)として、2020年7月から1年間の企画展を開催しています。

人生100年時代」言説は、どうしても軽いと感じてしまいます。
自分より少し年長の先輩だけでなく、自分より若い世代の訃報にも接するようになりましたが、「100年」という長さが問題ではない。「今」そして「今から」をどう生きるかー遠藤周作生誕100年の今日、今年のテーマとして彼の著作を通じて考えて行きたいと思いました。遠藤のメッセージの中に、貴重な人生のヒントがあるように感じています。



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