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妬み【エッセイ】一二〇〇字

 「妬」は、女偏であるから、「妬む」のは女性に多いと思われがちだが、これまでの人生を振り返るに、男の方が圧倒的に多かった。脳科学者・中野信子氏も、「実は男性のほうが妬みを感じやすいんです。それは男性のほうが“社会的報酬”を感じやすい生き物だからです。(中略)仕事の本当のモチベーションは、お金ではなく、『社会から自分の存在意義を認めてもらうこと』なんです」と話す。(「リクナビNEXT」)
 “社会的報酬”に係ることもあったが、やはり“女性絡み”が多かった。
 学生時代。ある女性に好意を抱く私と川上が、その女性と三人、わが部屋でおでんパーティをやることになった。その川上の提案で。終われば帰路はその二人だけになる、と計算したのかどうかは知る由もないが。その「計算通りに」、お二人さんが部屋を出て行った。だけど、計算外のことが起きてしまった。その女性一人が部屋に戻ってきて、「送って」と、おっしゃってくれたのである。そう言われれば、ジェントルマンのワタクシ。一緒に出ると、川上が歩道で呆然と突っ立っていたのだ。そのあとは、ご想像の通りである。むろん、川上のワタクシへの態度が急変していくのは、論を俟つまでもない。
 後日談がある。と言っても四十年後。川上は超大手出版社に就職。有名週刊誌の編集長も担当。その頃はテレビにも顔を出していたほどに、ご出世。常盤新平さんの本も担当していたのだが、そのニューヨーク絡みのエッセイ本に、高校時代につき合ったニューヨーク出身の留学生とほぼほぼ確定的と思われる女性の記述があった。その子かどうかを確かめたく、川上に連絡をとった。が、返事は、「その女性探しに関われるほど暇ではありません。ご容赦ください」だった。
 「ああ、やはりなあ・・・」と思うと同時に、「ヤツがテレビに出ているとき、複雑な思いが自分にもあった」と振り返った。これは、中野氏が言う、“社会的報酬”に係る「妬み」だったのかもしれない。
 ちなみに、「妬」だけでなく、否定的な意味をもつ『女偏』漢字が非常に多い。

“妄"(でたらめ)、“奸"(ずるい)、“妖"(あやしい)、“炉"(そねむ)、“娼"(やきもちをやく)、“媚"(こびる)、“嫌"(いやがる)、“妨"(邪魔する)、“怒"(怒る)、“奴"(奴隷)などなど

 国際法学者の小寺初世子氏は、「『女性蔑視の観念を刷り込む』として女偏を人偏に変えることを著書で提案している」。(毎日新聞朝刊「余錄」2019年12月22日)
 女偏の漢字は、男中心の封建的な文化から生まれたからだろう。ジェンダーの時代。小寺氏のご提案通りに、「人偏」に変える時期にあるのではないか。いや「男偏」のほうが相応しいとも言えるか・・・。
 冒頭で中野氏がおっしゃるように、「妬み」が“社会的報酬”が絡むとすると、女性の社会進出がさらに進んで行けば、女性も男並みになり、「妬みは男」と一概に言えなくなるかもしれない。

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