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「すみません」【エッセイ】一六〇〇字

 初のニューヨーク。3年前の3月末に友と行った。初日は、ヤンキースの開幕戦があり、田中マー君が先発するというので、最初の予定に入れる。JFKの到着予定が、10時半(幸い30分早く、10時に到着)。試合開始が、13時。かなり焦って、ドタバタ劇がありながらも、どうにか球場に着く。さすが開幕戦。長蛇の列。入場するのも30分くらいかかったが、席近くまでたどり着く。すでに多くは着席しており、席は6席ぐらい先。満席に近い上に、通路が狭いのだ。ガタイが良くて、かつ脚が長い人種の国の球場とは思えない。“カニ族”よろしく、横歩きでそろそろと、“I’m sorry!”。次も、“Sorry!” “Sorry!”。「ごめんなすって」とばかりに右手を前に出しながら、そろりそろりと席へ。座ると、うしろのニューヨーカーが、“Excuse me” “Thank you.”と前を通る。
 日本では、「すみません。すみません」と言いながら通してもらうので、つい、“I’m sorry.” と言ってしまうのだ。頭では、“Excuse me.”が正解と判っていても。
                  ※
 6月3日の朝日新聞朝刊(論の芽)に、東京学芸大名誉教授・相川充氏へのインタビュー記事、「『すみません』よりも、『ありがとう』にしませんか」があった。(以下、抜粋)
 他人に何かしてもらうと、ありがたいとか申し訳ないとか、何らかの気持ちがわき起こります。大きく分けて二つの要素が、相手への気持ちを決めると心理学では考えられています。一つ目は、自分の得た利益の大きさです。二つ目は、相手が自分のために費やした負担の大きさです。
 「自分の利益」と「相手の負担」のどちらを重視するかは、国や文化により異なります。
 個人主義ではなく集団主義の日本では、まず集団があって自分がいるので、互いに自分を譲って相手を立てます。そんな相手に何かしてもらえば「大変な思いをさせてしまった」という気持ちが先に来ます。だから日本人は、こうした場面で「すみません」「申し訳ありません」と、謝罪の言葉で対応することが多いのです。
 ただ、感謝を示すのに「すみません」を繰り返していると「相手に迷惑ばかりかけている」という気持ちが募り、心の重荷が増えていきます。どうすればいいか。感謝したい場面では、きちんと「ありがとう」と言いませんか。「ありがとう」という感情を相手に伝えることで、満足感や自尊心が高まることもわかっています。
  そこで、取材した記者の感想が、おもしろい。
 「すみません」は、呼びかけ、謝罪、感謝にも使える便利な言葉です。それゆえ使いすぎてしまっているのかもしれません。感謝の気持ちは、謝罪と区別して伝える。自分自身も当たり前のことができていなかったと反省しました。すみません。
 もとい。気づかせてくれて、ありがとうございました。
                  ※
 その「もとい」と言うときに、“I’m sorry.”を使うことがあるらしい。
「Correction!」を使うこともあるようだが、その代わりにこのような表現もできるらしい。
   "A, I'm sorry, B." 「A、間違った、ごめん、Bだ。」
 つまり、<“I’m sorry?”  I'm sorry. “Thank you .”>という感じか。
 
 そもそも、“sorry.”というのは、謝罪の言葉ではなく「心が痛む」「残念」という意味合い。よくあるのが、「(訃報を聞いて)お気の毒です」で使う、「I'm sorry (to hear that ~).」だろうか。あと、美術館のなかで係員に、「写真を撮って構いませんか?」と確認したところ、「ダメなんです」は、“No.”では突き放している感じなので、“I'm sorry.”とお断りする。
 一方、“Thank you.”を使うべきなのが、例えば、レストランで飲み物をこぼしてしまったりしたとき。店の人にとって、片付けるのは当然の仕事なので、ここでお店の人に「悲しい」とか「困ったことが起こったと思っている」というしるしとしてI'm sorry.と言うのは、かえって変。ここでは、片づけをしてくれた人にきちんと“Thank you .”と言ったほうがよいということだ。
 やはり、「すみません」ではなく、「ありがとうございます」と言う習慣をつけたほうが、心の負担を減らせ、かつ相手も気持ちが良いのではないだろうか。

 大リーグ観戦は、晴れから曇りになり寒さに耐えられず、5回表で退場。結果は、7対2でヤンキースの勝利。マー君は5回3分の2まで投げ勝利投手になった。最後まで応援できず、マー君、“I'm sorry!”。

 ところで、いっさい謝らないソーリー(総理)がいらっしゃったね。日本人ばなれしているひとなのだろうかねぇ—————。

(参考)
朝日カルチャーセンター「トラベル英会話」の講師でもある足立恵子氏の記事(https://allabout.co.jp/gm/gc/63501/)

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