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たき火【エッセイ】八〇〇字

 早大のオープンカレッジ「エッセイ教室」。秋講座が、スタート。8課題。七転八倒、七難八苦の日々が続く。今回のお題は、「たき火」。『北の国から』の舞台、富良野市麓郷での思い出の話です。

 60年以上前、小学1年までの3年間、富良野・麓郷にいた。『北の国から』の舞台である。まさに、東京から移住する黒板五郎に連れられてきた、純と蛍と、同じ歳の頃。
 家は市街地にあり、近くに(今調べると500メートル位)東大演習林の管理事務所があった。その裏手の森に小川が流れ、岸には、隊長の中学生たちが木っ端で作った掘っ立て小屋があり、ワンダーランドだった。
 一帯は石灰質の岩盤の上にあり、開拓者は石に悩まされたと聞く。五郎が建てた石の家も、そんな地質が関わっていた設定なのだろう。
 川の底も岩盤で、透明度が高く、曲がり角の流れが溜った所は、プールのようになる。そもそも、北海道の学校には、プールはなかった(高校にもなかった)。だから、内陸に住む道産子は、泳げないものが多い。正確に言うと、「木槌」。海に比べ川は、浮力が弱いので、浮き方だけは身につけていた。蛇行する川は、流れに身を任せるだけで、泳がなくても対岸に着くのだ。
 秘密基地は、両岸の木々が覆いかぶさり、ドームを形成している。今、グーグルマップで見ると、小さな川に過ぎないが、子供の体躯からすれば巨大で、緑に囲まれた、神秘的で幻想的な空間だった。倉本氏が見つけていたら、純や蛍らの遊び場になっていただろう。
 毎日のように集まった。深みの水溜りに飛び込んだり、浅瀬の岩盤に仰向けに横たわったり。木洩れ陽が落ちる中、水中の小石が転がる音、葉をなでる風の音を、聞きながら。
 川の水は冷たいので、長く泳ぐと口が紫色になる。すると、隊長の号令で枝を集め、焚く。火を囲み、温まり、持ってきた馬鈴薯やトウキビ、釣ってきたヤマメなどの魚を焼いて食べる。泳ぎ疲れると、たき火の周りで昼寝をする。昼間だけだったが、(今思えば)『スタンド・バイ・ミー』の少年たちのように。
 たき火を見ると、その川岸の夏を想い出す。

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