見出し画像

歩道【エッセイ】

 「せまい日本 そんなに急いでどこへ行く」
 四十六年前。マイカーが増え、事故が急増しはじめたころの、標語。「せっかち族」としては、耳が痛い。が、速度違反は論外だが、ノロノロ運転も、罪深い。流れを乱し、渋滞や事故につながるケースもあるからだ。
 歩道でも、「ノロノロ族」がいる。
 よく見かける「スマホ・ゾンビ族」。画面の中の住人かと見紛うほど、画面に顔を近づけ歩いている。もっとも、自分の世界にのめり込む姿に、周囲が無視されているように感じ、ストレスになっているだけかも、しれないが。
 「匍( ほ )匐( ふく )前進族」。両手を振っている割には遅々として進まないひと。よく見ると、上げた足を、その場付近に着地させているだけなのだ。若いのに、よくそんなにゆっくり歩けるものだと、「せっかち族」は、感心してしまう。
 斜めに歩く「斜行族」もいる。競馬の世界では、後ろの馬の進路を妨害したとして、二週間の騎乗停止処分になる。
「後方不注意族」。意識は前方だけ。後方の「殺気」なんかぜんせん気にせずに、進路を変えるひと。ジョギングのひととか自転車とかと、衝突の危険がある。車だったら、追突、接触につながる。片や、たまに、後ろをきちんと確認してから、進路を変更するひとがいる。とてもセンスを感じさせる。そのようなひとは、きっと車の運転も上手に、違いない。
 「センス」で思い出した。先日、ウォーキングの途中。前方に車いすを挟んで付き添いの二人とポメラニアンが一匹、歩いていた。車道から追い越そうかと思っていると、犬が振り向き、進路を譲ってくれたのだ。通過する際に犬と目が合ったが、笑っているように感じた(まさか)。なんと賢いワンちゃんなの。
 平成最後の三月。初のNYを経験する。ニューヨーカーは、噂通り。せっかちな私が、圧倒された。歩道を歩いていると、どんどん抜いていく。赤信号でもお構いなし。すいすい、車をスラロームして歩く。信号で立ち止まっているのは、マンハッタン以外に住むひとたちか、私のような観光客だけの、ようだ。
 負けた。悔しいから、「君たちよ、せまいマンハッタン そんなに急いでどこへ行く」と言ってやった。むろん、日本語で。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?