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SIベンダーを中抜きすればDXできるのか?そんなに甘い話は転がっていない

日本はユーザー組織よりもベンダーにIT人材が集中していることが、DXを阻害しているといわれる。すぐにオンプレのサーバーを売ろうとする、クラウドで頼むといってもIaaSで持ってくる、ちょっと目新しい技術を指定したら見積もりが跳ね上がる。そういったSIベンダーに対するフラストレーションが、ひょっとして内製に切り替えれば、もっと迅速かつ低コストに新技術を導入できるのではないか?という期待に繋がっているように見える。

もしも夢が叶うならば、決められた予算、決められた要員で、生産性が高い最新の技術を習得しながら、環境変化を受け入れつつ、予定通りプロジェクトを完遂できるに越したことはない。しかしながら世の中にはトレードオフがあって、決められた予算、決められた要員、決められた期日通りにプロジェクトを仕上げたいのであれば、実績あるチームが、枯れた技術を使って、余裕あるスケジュールで、要件を固める必要がある。

あえて不確実性を受け入れる覚悟で最新の技術を習得しながら、環境変化を受け入れつつ物事を進めるのであれば、要件・要員・期日いずれかを状況に応じて柔軟に組み替える必要がある。遅れているプロジェクトに後から要員を追加するリスクは割と高いので、要件を切り詰めるかか期日を柔軟にできるに超したことはないし、自社サービスを運用している事業者はそれができるので、足回りの環境を頻繁に更新しながら高い生産性を維持できている。

クラウドなり端末プラットフォームがこれだけ頻繁に変化する現代においては環境変化を受け入れざるを得ない中で、これまで計画優先で物事を進めてきた大組織であっても、内製化やアジャイル開発といった方向に足を踏み入れようとしている。しかし、内製化によってSIベンダーを中抜きすれば問題が解決するかというと決してそんなことはなく、これまで彼らが吸収していた不確実性を直接ハンドリングする必要が生じてくる。DXだ内製だと騒いでいる人たちの中で、そこの覚悟ができている人はどれだけいるのだろうか?

要件は絶対で、期日は守らねばならず、要員を追加できないのであれば、これまでSIベンダーがそうやってきたように、枯れた技術を使って、余裕あるスケジュールで、要件を固める必要がある。それでも実績あるチームが手元にある訳ではないから、新たな船出なりの不確実性は残り続ける。

ソフトウェア開発を製造に譬えるのは好みではないが、工場でさえ熟練工を集めても新しい生産ラインが安定するまでには時間がかかる。それに気付いた時、忌み嫌ってきたバッファーが積まれた高い見積もり、枯れた技術を使って、余裕あるスケジュールで、要件を固める必要は、決して悪徳ベンダーが寝っ転がっていた訳ではなく、自分たちが求める要件に対して真摯に対応してきた結果だと気付くだろう。

そこで腹を括って要件・要員・期日いずれかを状況に応じて柔軟に組み替えられる事業の建付をつくれるのであれば、必ずしも内製に拘る必要なく、SIベンダーであっても新技術に取り組むことができるのかも知れない。但しその果実である人的資本蓄積を、ユーザー企業が囲い込むことは難しくなる。

いずれにしても内製は手段であって目的ではないし、日本に於いてベンダー依存の構造ができたのは、縮小する経済の中で年功序列型の雇用を維持していく上では経済合理的な行動だった訳で、ユーザー企業が試しにソフトウェア開発に取り組むことを通じて、実際に人材育成やソフトウェア開発の不確実性に直面し、自分たちがこれまでベンダーや技術者に対して何を押し付けてきたのか気付く機会ができるのであれば、その先にどんなデジタル社会を構想すべきかについても、考えるべきことが明らかになるだろう。その先に乗り越えることこそ本当の意味でのデジタル変革となるのかも知れない。

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