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試合よりもチケット入手困難な「NBAオールスターテックサミット」とは?

NBAオールスターゲームが今週末シカゴで開催されます。今年は若手のオールスターにあたる"Rising Star Games"に我らが八村塁選手が出場予定ということもあり、すごく楽しみです。また、1月1日に逝去された前コミッショナー、デービッドスターンさん並びに、先日不慮の事故で亡くなられたスーパースター、コービーブライアントさんに敬意を表し、両チームがそれぞれ24番(本人が付けていた番号)と2番(コービーの娘さんが付けていた番号)のジャージを着用するなど、特別な雰囲気のオールスターになりそうです。

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さて、今年もこのオールスターゲームの前々日の金曜日に、NBA All-Star Technology Summit 2020(通称Tech Summit)が開催されます。Tech Summitは招待者限定の特別イベントで、定員も数百名と限られることから本番のオールスターゲーム(約2万人収容)よりも入手困難なプラチナチケットとなっているそうです。今年も幸い出席させてもらえることになったので、昨年のイベント振り返りと共に今年の展望を纏めてみたいと思います。

<2019 Tech Summit振り返り>

オープニングスピーチからの基調講演、4つのパネルディスカッションの後にマイケル・ジョーダンの1−1というアジェンダ構成でした。詳細は下記。

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■NBAの2030年の姿とは…?

まず冒頭に、アダム・シルバーコミッショナーから2030年のNBAの新しい観戦体験について、ビデオとスライドによるプレゼンがありました。

・20年前にこのTech Summitを始めたとき(今回が第20回だった)はまだ3Gだった。10年前に4Gとなり、そして今5G時代を迎えている
・テクノロジーの進化により、入退場はもぎりもなければセキュリティも顔認証で完全シームレスに。アリーナの臨場感がVR観戦時にも伝わることで、来場できない世界中のファンが楽しめるような観戦体験を実現できるようになる
・選手は1/4がアメリカ外の生まれで、オーナーにも外国人が増えてきていて真のグローバルリーグに近づいてきている。ファンベースも中国の3億人を筆頭にどんどん海外の割合が増加していて、そのうち米国外の視聴者数の方が多くなるだろう
・「未来のジャージ」その日のお気に入りの選手の背番号&ネームに都度カスタマイズして観戦可能になる未来がくる
(ケースに入ったジャージがケンバ・ウォーカー15番からカリー30番、そしてジョーダン23番に変わる技術をお披露目(下記動画参照)。いずれは、「マイケル・ルービン(注:弊社創業者)の事業が苦しくなるぞ」、とのコメントも戴きました)

コミッショナーがリーグを代表して中長期のグローバルビジョンを提示する。その先進性に共感するスポンサーが、リーグワイドの大きな取り組みを求めて巨額のパートナーシップを結ぶ。NBAコミッショナーが強い権限を持つ意義が垣間見られたような気がします。

■通信&メディア最大手にとってのスポーツ

続くAT&T会長兼CEOのランドール・ステファンソンによる"Modern Media in the 21st Century"というセッションでは、通信&メディア大手にとってのスポーツ事業の位置付けについて語られました。

・ライブメディア、タイムセンシティブなコンテンツとしてスポーツは超重要。5G時代にこの点はますます顕著になる
・強いIPとしてのスポーツはD2Cのメディア事業推進の上でも重要。最近のTime Warnerの買収はD2Cを拡げるためのツールで、結果として強いIP獲得ができた。NetflixがFriends(米ドラマ)の放送権利をどうしても押さえたいというのもその現れ
・スポーツベッティングはファンエンゲージメントも深めるし、確実に重要になってくる(Latencyがない5G時代には特に)。但しAT&TとしてはBookmaker(胴元)はやらない意向

トップスポンサーCEOによる基調講演ともなると、一方的な講演(多くは自社アクティベーションのPR)のことが多いですが、モデレーター(Recode編集長ピーター・カフカ)とインタラクティブに行う形式になっていたところも良かったです。

■豪華なパネルディスカッションメンバー。日本からは三木谷さん登場

4つのパネルディスカッションメンバーは、オーナー勢からテック巨人(Google、Facebook等)の経営陣、選手(元&現役)まで多種多様なメンバーでした。日本からは唯一楽天の三木谷さんが"Evolution of Disruption"というセッションで登場。同じパネルにはネッツのオーナーのジョー・サイも。こういうところで日本人プレゼンスをもっと強くしたいですね。

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"The Connected Athlete"というセッションでは、SNS全盛期にどうやってオンとオフを切り替えるのか、こういうツールをどう使いこなしていくかについて議論。パネリストが豪華で、レジェンドのマジック・ジョンソン、やり手の球団経営者で元選手のグラント・ヒル、現役のジョエル・エンビードとダミアン・リラードまで出席しました。弊社創業者のマイケル・ルービンもここで登場でした。

他には"Chasing Z"という、全世界の人口の1/3(25億人)を占めるGeneration Z(1997-2010年生のG世代)をどう捕捉していくかというセッションも興味深かったです。ここでは、Youtube登録者数約1,500万人、Twitterフォロワー数570万人(いずれも2020年2月時点)のインフルエンサーLilly Singhが登場。「GenZはプライバシーなんて全く気にしない。便利ならさっとあげちゃう」「インタラクティブ性と本物感(Authenticity)。コンテンツの好き嫌いを一瞬で判断するから、最初の5秒が大事」といったインサイトを共有。オーディエンスが確実に40歳超のおっさん中心だったので、結果的には「わかっていないおっさんたちに教えてあげる」感満載のセッションになりました。

■中でも一番熱かったのがスポーツベッティング

個人的にも楽しみにしていて、非常に盛り上がったのがベッティングのパネル。中でも、テック系ビリオネアでSacramento Kingsのオーナー兼会長のヴィヴェク・ラナディベ(ベッティング推進派)と、問題発言で有名なDallas Mavericksのオーナーのマーク・キューバン(保守派)の白熱した議論は聴き応えがありました。

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いくつか共有された興味深いファクトと意見としては、

・既に合法となった8州(2019年2月当時)の中でも、モバイルスポーツベッティングが許可されたのはまだニュージャージーを含めて2州+αのみ
・時間差(Latency)がないことが普及の鍵になるし、それがなくなる未来が5Gですぐに見えているのが大きい。実際に試合中のベッティング(In-play betting)をNJで始めて直感的なUXとなっていると利用率が高くなっている
・進めていく上では、"Integrity of Game"を守ることが最重要。今後は、怪我の情報をいつ共有するかなども非常にセンシティブな話になってくる
・ベッティングはファンエンゲージメント、エンターテインメントの新たな形。アリーナ内にゲームラウンジを作ることも考えている(Kings Owner)
・ベッティング参加者が来場に有意にポジティブな影響を与えているというデータがどんどん上がっている

尚、保守派急先鋒のキューバンが

「試合中に下(スマホ)を見てゲームに集中しないファンを見るのが嫌だ。それを助長するようなことは避けるべし」

と牽制したのに対して、ラナディベは

「もうマルチタスクは当たり前だし、既に誰もがスタッツをチェックしながら試合を見ている。もう時代は止められない」

と反論。最終的には、「今後週の州法制定などを見据えると不確定要素が大きいが、ベッティングはいつどう進めるべきなのか」という問いに対して、キューバンから「NBAは常に最先端を進むべきでどんどんチャレンジすべき。失敗するなら早く失敗するのが良い(Fail faster)。全て整備されるのを待つべきではない」
という意見が出たところに感銘を受けました。

時代に逆らうぐらいならば、うまく時流に乗って先取りし、適宜修正していこう。こういう合理的な考え方は日本のスポーツ球団経営にももっと取り入れて戴きたいところです。

■締めにマイケル・ジョーダン登場!「歴代No.1プレイヤーは…?」

ここまで豪華なセッションが続いた後ではありましたが、最後に登場したのがなんと神マイケル・ジョーダン! 昨年のオールスター開催地であったCharlotte Hornetsのオーナー兼会長を務めるMJは、普段メディアに殆ど顔を出さない(実際に本拠地でのASGでもコートに立つことはありませんでした)ということもあり、登場時には少し緊張感のある空気が会場を流れていました。

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色々な質問がモデレーターから投げかけられましたが、中でも一番印象的だったのが、禁断の「歴代No.1プレイヤーは誰なのか」で、MJの回答がさすがでした。

・時代を越えて比べることはできない。自分はカリーム(アブドゥル・ジャバー)やドクターJといった先人のプレーを見て、技術を盗んで成長した
・同様に、コービー、レブロンを含む今の選手はみんな自分やチャールズ(バークレー)、ラリー(バード)、マジック(ジョンソン)などのプレーを見て学んで身につけている
・そうやって先人の培ったものをベースに自分の技術にしているのに、比較するのはフェアじゃないだろう?

また、高卒から直接NBA入りする流れが増えてきている若手への懸念として、「自分は大学時代(UNC)に技術的にも人間的にも最も成長した。すぐにプロ入りしていたら勘違いして失敗していたかもしれない。あの時の基礎があったからこそ活躍できた」という言葉が印象的でした。

■Tech Summit2020の展望

丁度メンバーが発表されました。

キーノートはAWSのCEOのAndy Jassy。その他パネリストメンバーも昨年に引き続きVocalなオーナー陣(弊社創業者含む)からドンチッチやクリス・ポールといった現役選手まで今年も豪華です。トピックは、「ストリーミングメディアの将来」はある程度具体的ですが、他のはどこまで深まるか。

・Shareholders, Stakeholders and Change: Navigating Today’s Leadership 
・What’s on Next? The Future of Streaming Media
・Talking About My Generation: Content in an Age of Personalization
・Ahead of the Game: The Fan Experience Reimagined

各セッションの中から面白い発言や発見を中心に、次回取り上げたいと思います。NBA Tech Summit 2020レポートをお楽しみに。

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