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炉内にピン脱落のまま高速炉「常陽」合格

実験炉「常陽」の原子炉内には、2007年に外れた固定ピンが未回収で入ったままだ。にもかかわらず、7月26日、原子力規制委員会は、新規制基準に適合したと判断し、設置変更許可を出した。そんなことがあっていいのか。【文末に8月17日に追記】


外れた固定ピンが原子炉内に残存

パブリックコメントは重要な制度だ。事業者が思い出したくない事実を浮かび上がらせる機会となるからだ。5月のパブコメには以下のような意見が寄せられた。

「常陽」は2007年5月定期検査で実験装置の引き抜きに失敗し、部品のピン6本を原子炉内に落としてしまいました。2016年10月に行われた核燃サイクルについての議員と市民の院内集会で事故の後始末について質したところ、文科省の担当者は「6本のピンすべては回収できていない。すべてを回収できなくても稼働に影響はない」と驚くべき答えをしました。この回収できていない脱落ピンは、今も常陽の中にあるのでしょうか?

これに規制庁は次のように応答した。

当該固定ピンは、現在も原子炉容器内に残存していると推定されています。(略)常陽の審査においては、ルースパーツそのものを対象として審査したわけではありませんが、一般論として、炉心に異物の流入を想定し、燃料集合体内の流路の一部が閉塞したとしても、炉心損傷に至ることなく原子炉を停止、冷却できることを確認しています。

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構大洗研究所(南地区)の
原子炉設置変更許可(高速実験炉原子炉施設の変更)
P37 
令和5年7月26日原子力規制庁

ルースパート(「緩んだ部品」というより「見失った部品」(ロストパート)というべきだが)については審査せず、「一般論として」大丈夫という答えだ。

日本原子力研究開発機構からの報告には、設計不備で燃料交換機能に支障が生じ(それ自体がヒドイ話だが)、炉内観察の結果、「試料部の上部部品から固定ピンが外れ」と書いてはいたが、まさか未回収だったとは!知らなかった。

未回収で問題なしと規制委は判断

このパブコメへの応答を受けて、委員たちはどう審議をしたのか?議事録(2023年7月26日原子力規制委員会議事録)にして4ページ分を抜粋すると・・・、

杉山委員は、「脱落したピンがまだ残っているのではないかというところ、それは当然ながら気になる」と言いつつ、設置許可の審査の中では取り上げる必要はないというスタンス。

伴委員は、未回収ピンが「集合体内の流路の一部が閉塞したとしても炉心損傷に至ることはない。そういう評価」をしたことを審査書に書くべきだと意見を投じる。

しかし、この意見にすら賛同する委員はいなかった。

山中委員長が、「ルースパーツ、そのほか、異物等に対しての許可に対する影響といいますか、どういう審査をしたかというと、やはり一番大きなものは流路閉塞だろうと思います。その影響はないということは審査の中で見ているわけですから(略)後段の規制の中で具体的に、例えば、ルースパーツにはこんなものがある、こういうことが起きますかね、起きませんかねというのをきちんと調べていけばいい」とまとめた。

パブコメがなければ見過ごされていた

つまり、「常陽」の再稼働を認める審査書には、設計不備で生じた故障で、原子炉内に部品が落ちたままでも問題はないと原子力規制委員会が判断した事実を書かないことになった。

単にパブコメへの応答として、委員長の言った「後段の規制」つまり、「保安規定において審査するとともに、運転段階における設置者の保安活動について、原子力規制検査を通じて監視していきます「考え方」(P10及び37)と記載されただけだ。

しかし、パブコメで部品が原子炉内に脱落したままであることを指摘されなければ、「後段の規制」すらなかっただろう。(固定ピンについては文末の【2023年8月17日追記】をご参照ください。)

この午後の委員長会見で、この点について聞かないわけにはいかなった。
1.未回収ピンは本当に損傷しないのか。
2.6本のピンは回収できないのか。
3.未回収ピンが2007年から止まっていた理由ではなかったのか。
4.常陽を運転できる人材はいるのか。
5.実験炉「常陽」を稼働する意味が核燃料サイクル政策にあるのか。

以下に、山中委員長の回答を(納得のいかないものも含めて)共に抜粋しておく。

Q:常陽のことなのですけれども、先ほど委員長はルースパーツについて、燃料棒がきちんと入るかどうかというような懸念を示されたと思いますけれども、今日の規制庁の「考え方」だと冷却材の流路を閉塞することはないということだけを書かれていたと思います。逆にその燃料棒の問題もそうなのですけど、その燃料そのものを損傷したり、そういった懸念はないのでしょうか。

山中委員長:マサノさんの御質問ルースパーツそのものの、いわゆる実験炉に対する影響はどうかという御質問だと思うのですけども、御指摘のとおり、当然現時点での評価というのはルースパーツ、その下から浮き上がってくることはないというそういう評価をしておりますけれども、万が一そのルースパーツが上部に浮き上がってきた場合に、燃料棒の部分に噛み込む、あるいは制御棒の部分にルースパーツが入って挿入性が悪くなるという、そういう可能性はございます
 したがいまして、そういう点検のときに必ずそういう挿入性の試験というのをきっちりとするという、挿入性に問題がないかどうかという点検を必ずするということがまず大事かなというふうに思いますけれども、(略)今日、「流路閉塞等」という「等」で、ルースパーツの影響ということを表現させていただきましたけども、マサノさん御指摘のとおり、そのルースパーツの影響というのは常に意識して、今後も審査をしてまいりたいというふうに思ってます。

Q:ルースパーツである固定ピン6本と書かれていたのですけれども、この6本は、回収できないのでしょうか。

山中委員長:これはもう水炉の場合ですと、見ながら何かそういうロボットのようなもので回収するということは可能なのですけれども、高速炉の場合、例えば超音波のようなものを使って物を見ていくということは技術的にも可能にはなりつつありますけれども、やはりかなり小さなパーツでございますので、それを見つけて回収するということは今のところ不可能だということを、聞いております。審査の中でそれは審査しておりませんけれども。

Q:2007年から常陽止まってますけども、2011年までと考えても、4年、もう動いていなかったわけですが、それはこのパーツがやはり問題だったからだと考えますが、それはどうなのでしょうか。

山中委員長:これ常陽というのはこれまで燃料リークを1本も起こしたことないトラブルの本当にない炉であったというふうには認識しております。最も最近に起こったトラブル、大きなトラブルとして計測線付実験装置の誤作動によって、照射の軸が損傷するという、そういうトラブルが起きた。そのせいでかなり長時間止まっていたというそういう御認識で私も結構かと思っております。

Q:2007年から現在まで相当な時間がかかっていて、人材はいるのかというコメントに対して、人材は半分に減っている、まだ半分いるという回答だったと思うのですけれども、その半分の人材で運転が可能だと判断された理由は何なのでしょうか。

山中委員長: 私も何度か現場にも現地調査に行っておりますし、また審査の中でも、そういう技術的な能力については、見てきたつもりです。人材についてはまだまだ運転を経験した人間がまだ残っているということと、もんじゅの運転も経験した人間もこのグループの中に加わっているということで、人材については現時点ではまだそれほど大きな心配はしておりません。

Q: 常陽について最後なのですが、常陽は実験炉ということで、その次に来るべき原型炉もんじゅの方が廃炉になってしまっていますが、実験炉を運転する理由というか、意味は核燃料サイクル政策にとってあると思われますでしょうか。

山中委員長:その点について規制当局としてお答えをする立場にはないというふうに思っております。

Q: 原子力の専門家としては、お答えいただけますか。

山中委員長: 少なくとも原子力の技術者あるいは科学者としていわゆる研究を続けるということには一定の意味あるかなというふうに思います。これからその大きな炉を造っていくということについては、推進側がいろいろお考えになろうかと思いますし、特段何かそれについてコメントはございませんけれども、高速炉の研究を実験炉でするということについては、科学者としては一定の意味あるかなというふうに思ってます。

2023年7月26日原子力規制委員会議事録

いや、そういうことじゃない。

なお、高速実験炉「常陽」は稼働を許可されるべきか?で、防げるはずの火災事故を防げなかった過去に触れ、「申請者は運転を適確に遂行するに足りる技術的能力がない」(つまり、審査要件を満たしていないので申請を許可すべきではない)ことを私自身はパブコメで指摘したことを書いておいた。それには「常陽は2007年のトラブル以来運転を停止していますが、それ以前の運転経験を有する技術者が約半数残っており、また、運転停止以後もシミュレータを活用した運転の訓練及び定期的に実機の動作確認を行うことにより、技術の維持、伝承を行っており、今後もこれを継続していくことを確認しています。」という応答がついていた。

いや、そういうことじゃない、と思った。

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構大洗研究所(南地区)の原子炉設置変更許可(高速実験炉原子炉施設の変更)令和5年7月26日原子力規制庁 P6

このパブコメには盛り込まなかったが、1999年、死者を出したJCO臨海事故は、「常陽」用の燃料のために起きた。つまり、核燃サイクルで起きた事故だったのだ。

(出典:日本原子力産業協会 JCO臨界事故の概要 1999年12月27日

今日も長い取材メモを最後まで目を通してくださった方に感謝します。

【2023年8月17日追記】

山中委員長が「かなり小さなパーツでございます」と会見で答えた固定ピンは、直径6mm、長さ13mm(下図)。

「高速実験炉「常陽」における計測線付実験装置との干渉による
回転プラグ燃料交換機能の一部阻害に係る法令報告(最終報)について」
図-6 固定ピン構造図 [形式:PDF]

日本原子力研究開発機構の「高速実験炉「常陽」における計測線付実験装置との干渉による回転プラグ燃料交換機能の一部阻害に係る法令報告(最終報)について」(2009年7月22日)で計測線付実験装置(MARICO-2)の「試料部のハンドリングヘッドとラッパ管を接続していた固定ピン6本(概略寸法:直径6mm、長さ13mm)が外れていることを確認しています。このため、固定ピンの原子炉容器内での挙動を評価した結果、固定ピンは原子炉容器から流れ出ないこと、また、燃料集合体等の冷却材流路を閉塞することはなく、燃料集合体等の健全性に影響がないことを確認しました」と書いてある。

日本原子力研究開発機構は「閉塞することはなく」「影響がない」と報告。
原子力規制庁は「審査したわけではありませんが、一般論として」「閉塞したとしても、炉心損傷に至ることなく原子炉を停止、冷却できることを確認しています」とパブコメに応答したが、一般論でいいのか、一般論をどうやって何を確認したのかは不明だ。失敗続きの核燃料サイクルをこんな形で進めていいのか?

関係Note
半世紀を過ぎても未完―高速実験炉「常陽」のパブコメ#GX
高速実験炉「常陽」は稼働を許可されるべきか?

【タイトル画像】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構大洗研究所(南地区)の原子炉設置変更許可(高速実験炉原子炉施設の変更)令和5年7月26日原子力規制庁 P37


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