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所沢:放射能汚染土利用の実証事業計画

Twitterのタイムラインで気づいた除染土再利用の新たな実証事業について。前回のノート の続き。

理解醸成のための実証事業

愛犬が旅立ち3、4日泣き続け呆けていたところ、Twitterのタイムラインに「原発事故の除染土『後始末が家の目の前で…』新宿御苑、所沢、つくばで福島県外再利用の計画浮上」(2022年12月10日東京新聞)の記事が流れてきた。福島県内で失敗した再生利用計画を含む詳しい記事の中に、県外の計画について12月6日に環境大臣が会見で説明したとある。会見録を辿ると、大臣はこう答えている。

西村明宏環境大臣「埼玉県所沢市にある環境調査研修所において、除去土壌を用いた芝生広場を造成するという実証事業を計画しております。この事業におきましては、施工時や維持管理時の安全性などを確認すると同時に、除去土壌の再生利用に関する理解醸成の場としても活用してまいりたいというふうに考えております。」

これに別の記者が「県外に本格的に除去土壌を持ち出すというのは、これは事故以来初めてだと思うのですが、その意義や課題とか、その辺をどのように考えていらっしゃいますか」と質問。これに大臣は「複数箇所で、しっかりそういった事業を進めていって、この事業自体をしっかり完結していくということが、福島にとっても非常に重要」と答えていた。

環境省のサイトで、今後のスケジュール(下表)を確かめると、環境省は2024年度末までに県外での実証事業を実施して再生利用基準を作り、2025年度から再生利用を本格実施したいと考えているようだ。

出典:2022年9月12日環境省環境再生・資源循環局「技術WGの設置及び進め方について

大臣が会見で語ったように、「全国民的な理解の醸成」がスケジュール(上図)の4番目の柱にもある。しかし、実際は真逆だった。

掲示板「あれじゃわからない」

前回ノートで最後に触れたように、12月16日18時半から行われる説明会の会場外には、中に入れてもらえない所沢市や埼玉県内の住民が、18時前から思い思いの手作りプラカードを持って集まっていた。

侵入者を拒むようにガードマンが立つ環境調査研修所のゲート前には、「すぐそこ。弥生町」に住んでいるという夫妻が説明会の受付開始を待っていた。説明会についてどのように知ったのかを尋ねると、妻さんは「これ(「除染土全国の公共事業に再利用反対」のチラシ)がポストに入っていて驚いた」(下写真)、夫さんは「オレは掲示板に張ってあったのを見たけど、あれじゃなんのことかわからないな」言う。

環境省調査研修所ゲート前で12月16日撮影

対象は2地区限定各25名

ゲート脇では、SNSで情報が流れていたように、18時から抗議のアピールが始まった。司会役の住民がいきさつを説明した。

「心配している所沢市民です。やり方に問題あると考えています。並木2丁目3番地と弥生町の50名だけに説明するなんて。環境省に電話して『私も聞きたい』と申し入れたが断られた。50名に説明して34万人の理解を得られるかと13日に集まって「所沢への福島原発汚染土持ち込みを考える市民の会」を結成しました。もっと広く開かれた説明会をして欲しい。市には6月に話しがきていたというが、どう説明会に至ったのか知りたい」。

グーグルマップで検索してビックリしたが、以下、赤枠が今回、除去汚染土の再生利用の実証事業を環境省が行うという環境省調査研究所の敷地、説明会の対象とされたのは道路を挟んだ「並木2丁目3番地」と「弥生町」(ピンクの点線枠)だけだった。

Googleマップから筆者作成、赤枠加筆。

暗い寒空に上がった「開かれた説明を」の声

駆けつけた住民のアピールは続いた。

川越から来た市民は「実証事業は福島県では南相馬市と飯舘村で行われてきたが、今回は全国に広げていこうとするもの。これは福島原発事故で起きた全国の問題。皆と一緒に考えたい」と。

所沢に住んで30年という女性は、「30年前に起きたダイオキシン問題も全国問題だったが、除染土も全国問題です」。

また東所沢(所沢市)から来たという住民は「市民にわかるように説明して欲しい。一部の意見で決めるのは許せない」。

北有楽町(所沢市)の住民は「市民に広く知らせないでやってしまおうなんて。福島の汚染土の黒い袋は見ていたけれど、正直言って自分自身の問題と考えていなかったことを恥じている」。

南永井(所沢市)住民は、「事故が起きても起きなくても人の健康に害になるは原子力はやめなければ。8000ベクレルについて50人に説明してOKとすることに憤りを感じている」

環境省調査研修所ゲート横で12月16日撮影

所沢市議会も説明を求める

長年、この問題に取り組んできた国際環境保護団体FoEジャパンの満田夏花さんは「いてもたってもいられず来ました。国は『30年以内に県外で』とカラ約束して、福島のため、復興のためといって達成しようとする。反対すると風評加害者とレッテルをはる」とこれまでのやり方を批判。

衆議院議員の塩川鉄也さんも駆けつけ、「私は所沢市民です。信号の向こうは住宅街。国は、今、原発のリプレースまでやろうとしているが、それは既存原発の解体が前提。今回の土壌利用はこんな原発の新増設政策の中にある。福島県内でも二本松市、南相馬市で実証事業計画があったが、市民は反対して撤回させた」と呼びかけた。

この日(16日)の所沢市議会で「市民の理解が大前提」(12月17日東京新聞参照)という市長答弁をとったばかりの城下のりこ市議は、「12月1日夜に知り驚いた。(市議会としての対応を)議長に申し入れたら、説明会をするよう国に強く要望すると言ってくれた。福島から所沢への避難して来られた方に今回のことについてお話を聞いたが、『国は何かあったときにはまた「想定外だ」と言うのだろう』と仰った」と報告を行った。

野外のアピールは続いたが、会場では説明会が始まった。取材者は「冒頭撮影」と終了後のブリーフィングだけは許されていたが、説明会はシャットアウト。

終了を待つ間にフリー記者同士、「東電の敷地に隣接してるぜ」「オレが驚いたのは埋める場所の狭さよ」「実証事業は『理解の醸成』と言って実績づくりだね」と説明資料をめくった。

「令和4年12月16日(金)環境調査研修所(埼玉県所沢市)説明会資料」を撮影

植木鉢が「除去土壌一時保管場所」?

説明資料の最終ページにQRコードが掲載されており、読み取ると、「福島県外での除去土壌の再生利用実証事業」のページが設けられており、「芝生広場や花壇、駐車場で再生利用を行い、運搬時、施工時及び供用時の安全性等の確認を行うとともに、理解醸成のツールとしても活用する予定です」とある。これまでの「公共事業」に「農地」という用途に、いつの間にか、「芝生広場」「花壇」「駐車場」が加わったようだ。

説明会当時に説明会資料を掲載するという情報小出しぶりの方針も顕になった。

169年間管理が必要な鉢植え

説明会場入口には「この鉢植えには再生された除去土壌を活用しています」「除去土壌一時保管場所」というプレートの横に鉢植えと空間線量が置かれていた。「再生資材の放射能濃度は5100Bq/kg」と書かれ、キレイな土5センチで5kgの除去土壌を囲んでいる断面図が描かれている。

説明会場入り口で12月16日撮影。
本来なら「169年間の管理が必要な鉢植え」と掲示すべきプレート。

前回のノートに原子炉等規制法で定められた規制基準100 Bq/kgまで放射能が減衰するために必要な期間を示した表を環境省資料(後半の参考資料20ページ)から掲載したが、8000Bq/kgなら190年、5000Bq/kgならに減衰するまでには169年ほどかかる。

鉢植えに「除去土壌一時保管場所」と説明をつけること自体、日常感覚とはズレがあり過ぎるが、除去土壌について理解を醸成したいのであれば、率直に「安全になるまで、169年間の管理が必要な植木鉢です」と書くべきではないのか。

そうしたわかりやすい説明こそが、本来「令和4年12月16日(金)環境調査研修所(埼玉県所沢市)説明会資料」で求められることであり、人々が知りたいことと、環境省が小出しにサラサラと説明することには、大きな溝があると感じた説明会だった。

タイトル写真【寒空に集まった所沢市民ほか】

声を上げた所沢市民の中には、塩川哲也衆議院議員と城下のり子所沢市議会議員もいた。

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