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放射能汚染土の再利用:原発基準の80倍

環境省は、福島第一原発の爆発により放射性物質に汚染された土壌を再利用しようと再び動き始めた。埼玉、東京、茨城で実証事業をするという。

30年以内に県外で最終処分の約束

汚染土壌は、原発事故後にできた「放射能汚染物質対処特別措置法(以後、特措法)」に基づいて一度は除去された。避難しなければ健康被害が生じうる汚染レベルだったからだ。国は人々を避難させる代わりに、土壌を除去することにした。

除去された土壌は、福島県内の各自治体から「中間貯蔵施設」(大熊町と双葉町)に運び込まれていった。福島第一原発を取り囲むようにして国が用地のほとんどを国有化したが、「中間貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分を完了する」と「中間貯蔵・環境安全事業株式会社法」に書き込んで国の責務(第3条)とした。

出典:環境省パンフレット「除去土壌などの中間貯蔵施設について」(2019年1月版)

県外最終処分から再利用へ

除去土壌は推計できる範囲で東京ドーム11杯分にものぼる。特措法を所管する環境省は、2015年7月に「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」を設置、2016年4月に「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略」をまとめさせた。

会の名称からすれば、最初から結論は決まっていたと考えるべきだが、肝は、県外での最終処分確保は「実現性が乏しい」ので、「管理主体や責任主体が明確となっている一定の公共事業等に限定して再生利用する」ことだった。

しかし「戦略」は法律ではない。

8000ベクレル/kgはダブルスタンダード

環境省は2016年1月から「除去土壌等の再生利用に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキンググループ」を設置、2016年6月「除去土壌等の再生利用に係る放射線影響に関する安全性評価検討―検討状況の取りまとめ案―」を出させた。
これをもとに環境省は、「再生資材化した除去土壌の安全な利用に係る基本的考え方について」で再生資材として利用可能な放射能濃度レベルを、8000ベクレル/キログラム(以後、Bq/kg)以下とした。しかし「考え方」も法律ではない。

一方、放射性物質から人々を守る法律(原子炉等規制法)では、原発で汚染された金属やコンクリートを再利用する際の基準をセシウムでは100Bq/kgと決め、原子力規制委員会が放射能濃度を確認する手続を定めている(第61条の2)。

つまり原発から出た金属やコンクリートなら100Bq/kg、事故原発で汚染された土壌なら8000Bq/kgと80倍も高い。法律と考え方で二重基準(ダブルスタンダード)になってしまっている。

揺れ動く複雑な条件 公共事業→農地も

ただし、土壌の8000Bq/kgは、そのままでは安全ではないので、幾つもの条件がついている。

条件の一つは用途だが、年を追うごとに増えている。2016年の「考え方」には「公共事業等」に限定すると記載。しかし、「まとめ案」では用途は「今後の検討で適宜追加される」と書かれていた。実際、「考え方」は変化して、2018年間までに用途には農地も加わった。

出典:除去土壌等の再生利用に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキンググループ「除去土壌等の再生利用に係る放射線影響に関する安全性評価検討―検討状況の取りまとめ案―」2016年6月

もう一つの条件は遮へいと時間だ。8000Bq/kgをそのまま使うのは安全ではないので「遮へい」や時間制限が必要なのだ。以下の通り、用途により、遮へいは土砂かコンクリートか、何センチか、作業期間の制限を「考え方」で示している。

出典:「再生資材化した除去土壌の安全な利用に係る基本的考え方について
環境省2016年(2017年、2018年一部追加) 

汚染土壌は臭いや色で区別がつかない

問題は、これらの条件が工事現場で厳守されるかだ。汚染土は中間貯蔵施設を出てしまえば、キレイな土壌と区別がつかない。放射性物質には臭いも色もない。

「管理主体や責任主体が明確」でも、受注するのは民間事業者。タイムイズマネーの土木業者からすれば、「汚染土」を「濃度」ごとに「作業時間」や「遮へい」の「材料」や「厚さ」や「作業員の健康や教育」や「荒天」に気を使いながら、遮へいに使う「キレイな土壌」と別々に管理することはコスト高になる。使う道理がないし、使うとすれば、性善説に立った「管理」は望めない。

管理は190年必要だが、誰が?

もう一つの問題は、完成後に人が触れても安全な放射能レベルになるまで管理し続けられるかだ。ワーキンググループの計算によれば、2022年に8000Bq/kgの汚染土壌を使い始めた場合、100Bq/kgまで減衰するのに190年かかる。190年前と言えば江戸時代。今から190年後に環境省や道路の管理主体である国土交通省は存在しているのか?

出典:2016年6月「除去土壌等の再生利用に係る放射線影響に関する安全性評価検討 ―検討状況の取りまとめ案―」除去土壌等の再生利用に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキンググループ

法律の縛りなしーパブコメは棚上げ

最大の問題は、今、汚染土壌を再生利用することは無法地帯にそれを放つことに等しいことだ。「戦略」や「考え方」は法律ではないので、違反があっても取り締まれない。

環境省が考えたのは特措法の拡大解釈だ。「再生利用」は、特措法第41条第1項の「除去土壌の収集、運搬、保管又は処分を行う者は、環境省令で定める基準に従い、当該除去土壌の収集、運搬、保管又は処分を行わなければならない」の「処分」に含まれるという拡大解釈だ。

そして、2020年1月に「環境省令で定める基準」を定めるとして案を発表してパブコメを行った。しかし、「環境省令で定める基準」と言いながら、中身は必要な遮へいや作業期間や管理年数が具体的に記載されていないだけでなく、8000Bq/kgという数字すら書かれていない。書かれていたのは「除去土壌が飛散し、及び流出しないようにすること」などの注意書きだけだった。例えば1万Bq/kgを再生利用したとしても法律違反を問えない代物だった。

2854件の意見が寄せられ、結果として「この意見募集に係る省令(案)及び告示(案)については、現時点では制定しないこととし、実証事業の成果等も踏まえ、引き続き検討を行う」ことになった。

対象者限定の実証事業説明会

それから約2年。県外初の実証事業を埼玉、東京、茨城で行うための説明会を行うという知らせを、筆者はツイッターで知った。 環境省に電話をすると、取材者はシャットアウトして住民だけを対象に説明会を行うという。12月16日、13時から開催された総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会オンライン傍聴した後(原発政策の大転換スケジュールをご参照ください)、説明会が開かれる埼玉県所沢市の環境調査研修所へ向かった。(続く)

タイトル写真【全市民に開かれた説明会を!と集まった住民】

説明会は現場から道路を一本隔てた所沢市弥生町と並木町2丁目3番地の住民25名づつとされた。急遽「所沢への福島原発汚染土持ち込みを考える市民の会」が結成され、「全市民に開かれた説明会を!」とのアピールが行われた。

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