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クリアランス制度破壊:<効率的>との電事連の提案は昨年から。山中委員長知らず。

原発で使われた金属やコンクリートで、再利用できると思われるものを「クリアランス推定物」と称して、福井県が設立する「新規事業主体」に引き受けさせる。その実現のために、何が障害となるか、という相談(意見交換)をエネ庁が原子力規制庁に持ちかけた話の続き。

前回も書いたように、現在の原子炉等規制法では、放射能汚染されていない(「クリアランス・レベル」を下回っている)と原発事業者が申請し、原子力規制委員会が確認して初めて、原発敷地内で使われた金属やコンクリートでも、汚染されていないものとして、敷地外に出すことができる。再利用もできる。それがクリアランス制度だ。

この制度の下で想定していないのは、原子力規制委員会がクリアランスレベルを下回っていることを未確認のまま、原発事業者でもない第三者(廃炉ビジネス業者)が一手に引き受けて、敷地外に出し、「分別・除染・切断・溶融」すること。

そこをなんとか!というのがエネ庁の相談事だ。

6月21日の原子力規制委員会で議題となり、午後の記者会見で山中原子力規制委員長に最後に、「やはりこれは違法だよね(略)ということになれば、これは駄目ですねという判断はあり得る」かと問い、山中委員長は「あり得る。事業として成り立たないねということであれば、そういう判断は委員会としてすることになろうかと思います」という言質は取った。

しかし、「事業として成り立たない」とはどういうことだろうか。6月21日の資料から、この話がどこから舞い込んだのかということに遡ってみた。すると、二つことがわかった。

  1.  話の起点は、遅くとも2022年5月。経産省の審議会「原子力小委員会」で電気事業連合会が「クリアランスの効率的・合理的な運用の在り方について、電力間連携を充実・強化し、規制当局とも議論して行くことが必要」と提案し、福井県の例を挙げていた。

  2. 福井県は2021年から実現可能性調査を始め、2022年8月時点で「クリアランス制度や原子力リサイクルビジネスの内容について理解促進を図るため、地元企業や地域住民を対象にした意見交換を実施中」していた。

そこで、これらを6月28日の記者会見で尋ねることにした。会見録から引用する。

0.事業として成り立つとは?

○記者 先週の議題のことで恐縮なのですけれども、例の集中クリアランス事業について、山中委員長は先日、事業として成り立たないということであれば、そういう判断つまり、集中クリアランス事業を許可しないということもあり得るということ答えを会見の中でいただいたのですけれども、このときおっしゃられた、その事業として成り立たないというのはどういう意味のことをおっしゃったのか、またその成り立たない、成り立つというのは誰が判断するというつもりでおっしゃったのか、確認させていただきたいと思います。
○山中委員長 まず、どういう事業をされるのかというのを聞いてみないと審査できるかどうかがまず分からない。改めて審査に値するというような事業であれば審査をさせていただくということを、そういった意味で表現をさせていただきました。許可、不許可というのは、とにかくあくまでも審査をして判断すべきことだろうというふうに思っています。まず、その中身を聞かないと、審査できるものか、できないものかというのが分からない。

○記者 そうすると、事業として成り立つというと普通その経営的にいけるのか、ビジネスとして利益が出るのかとか、そういう判断をやろうとしている福井県が考えるということについて判断するということではない。
○山中委員長 ビジネスではないということではないです。法律上、その組織として成り立つのかどうかということについてまず伺った上で、審査ができる部分であれば審査をするということでございます。

○記者 ということは、例えばそこには、今現在だと原発事業者だけがクリアランスできる立場ですけども、それ以外の人には、法律上はそれは無理ですねという判断。
○山中委員長 当然許可を取っていただければクリアランスはできると思いますけれども、いろんな廃棄物のやり取りを当然その中では考えられているようなので、それが実際どうなるのか、あるいはクリアランスの作業が一体どういう作業をその事業者がやられるのか、その辺りを聞いてみないと、事業として成り立つのかどうかという、法律的に成り立つのかどうかということも判断できないということでございます。

2023年6月28日原子力規制委員長会見

1.昨年からの電事連の提案であることを山中委員長は知らなかった

○記者 分かりました。法律的に成り立つのかということも含むということで。はい、分かりました。それに関してなのですが、昨年5月30日に原子力小委員会のほうでちょっとやり取りがありましたという資料が、先日の資料にも含まれていたのですけれども。それをずっと原文を見ていきますと、昨年の5月30日の時点で電気事業連合会が既に、この集中クリアランス事業については、規制当局との議論も必要だということを言って、小委員会の中で意見として出していたのですが、これについてはお耳に入っていたでしょうか、昨年5月の時点で。
○山中委員長 昨年の時点では耳に入っておりません。ごく本当に最近の話です。

2023年6月28日原子力規制委員長会見
「廃止措置を進めるための取組み状況と課題」電気事業連合会
2022年5月30日経産省「原子力小委員会」資料 黄色マーカーは筆者加筆

2.2021年から実現可能性調査を進めていた福井県にNOという覚悟は?

○記者 最後なのですが、先日のやはり資料の中に、昨年の8月31日に、この原子力小委員会のワーキンググループ、廃炉等円滑化ワーキンググループで、福井県が出した資料というのが含まれていて、そこには福井県としては、令和3年度から実現可能性調査を行っていたということ、あるいはタスクフォースができて、国・県と話をしていたというようなことで、令和4年、昨年度ですが、理解促進活動ということで地元企業や住民を対象に、意見交換も行っていたということが資料に含まれていましたが、こういったことがもう既になされているということは本気でやろうと考えていると考えられますが。そこにもって法律上、これは不適格であるということで、ノーということを原子力規制委員会として判断するとすれば相当な覚悟が要ると思うのですが、また地元のはしごを外すというようなことになると思うのですが。
○山中委員長 まず、お話を聞いてみないと現時点で今の原子炉等規制法に合致しているかどうか、あるいはどうすれば合致するのかということについては、全く分からない状況です。どういう組織でやられるのか、あるいはクリアランス物をどういうふうに処理していかれるのかということについては実際聞いて、事業の中身を聞いてみないと判断しようがないかなというふうに思っています。

2023年6月28日原子力規制委員長会見
「福井県における原子力リサイクルビジネスの 取組みについて」2022年8月31日 福井県、第2回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 廃炉等円滑化ワーキンググループ資料

「本当に相手の提案を聞いてみない」と?

○記者 判断の結果によっては、先日と同じ質問になってしまいますけれども、この事業は法律上も成り立たないものだという判断はあくまであり得ると。
○山中委員長 という議論になるかもしれませんし、これはもう本当に相手の提案を聞いてみないと、まずは分かんないかなというふうに思っています。

○記者 あくまで規制者として主体的に判断するということで。
○山中委員長 そういうことです。

2023年6月28日原子力規制委員長会見

効率的に廃炉を進めることは大切なことだ。しかし、クリアランスできていない、放射能汚染物質として扱わなければならないものが入っている可能性があるものを原発敷地外に出して、第三者が「溶融」(希釈)することを許すことを認めるということがどういうことなのか。

原子力規制委員会はあらゆる角度から「規制者」に求められていることを考えるべきだ。2021年から模索されていたことについて、本当に相手の提案を聞いてからでなければ、わからないのか、わかった段階でNOという覚悟があるのか。みなさん、どう思われますか?

【タイトル画像】

「廃止措置を進めるための取組み状況と課題」電気事業連合会
2022年5月30日経産省「原子力小委員会」資料より。
黄色マーカーは筆者加筆



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