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3週間して初登場の東芝作業員4人と被ばく事故の発端:福島第一

最低2人が高濃度(約44億ベクレル/L)の洗浄廃液を浴びた事件について、東京電力は11月16日の定例会見(動画はやがてリンク切れする)後半で、いくつも新たな説明を加えてきた。資料は以下2種類。

福島第一原子力発電所における身体汚染発生に関する調査結果・原因と再発防止対策について 2023年11月16日 東芝エネルギーシステムズ(以下、東芝)
増設多核種除去設備(増設ALPS)配管洗浄作業における身体汚染発生を踏まえた対応について 2023年11月16日 東京電力 福島第一廃炉推進カンパニー


5つの新たな説明

新たな説明とは上記目次の通り。これらを順にまとめて、最後に原子炉等規制法に基づく実施計画違反に関する私が行った問答を記録しておく。

東電は、東芝報告書を引用しながら独自資料で説明した。ここでは、よりわかりやすい方を使ってまとめていく。

1 事故は、洗浄作業の2日目に起きた

これは今までに全くなかった説明だった。配管洗浄が1日では終了せず、2日目も洗浄を継続したため、2日間に渡る配管洗浄で廃液発生量が多くなっていた

東芝報告書 P3 

そこで「予定になかった弁開度の調整を実施(閉方向)」したとある。わかりにくいが、要するに配管(赤)からホース(緑)への接続部(A部)で、弁を絞って洗浄廃液の通り道を狭めたことが、以下の図でわかる。

東芝報告書 P3 

上図右下のブースターポンを停止せずに、A部でホースを狭めれば、庭の水撒きをホースで経験したことがある人なら、「そりゃ、ホースの先が暴れてもおかしくない。バカなことをやったな」と思う。しかし、東芝は弁でホースを絞った理由と結果について、奇妙な説明をしている。

1−2 弁で配管を絞った理由と結果:東芝報告のおかしさ
担当者(説明では主語は省かれている)は、弁を絞れば、硝酸は配管内に止まり、炭酸ガス(炭素塩と硝酸で発生する)だけが弁の隙間から出ていくと考えた、と。

東芝報告書 P3 

これは、あり得ない発想ではないか? ブースターポンプで圧力を加えて配管を洗浄しているのに、途中の弁で配管を絞れば、液だけ残って炭酸ガスだけが出ていくと考えたなんて。

1−3 「推測」をまことしやかに説明されても
ところが、東芝はより奇妙な説明を、まるで見たかのように加えている。弁でホースの通り道を狭めたことで、1)狭めた隙間に「炭酸塩」が詰まり、2)そのあと炭酸塩が溶けて流れが良くなって「移送速度」が上がって、ホースが外れたと。

しかし、「原因推測」とある通り、誰が見たわけでもない。繰り返すが、ホースを弁で狭めたから、端が暴れたと単純に説明した方がよほど確からしい。

東芝報告書 P3 

1−4 「ホース外れ」を説明できない:推測前提のグラフ
東芝報告書には、縦軸をブースターポンプの出口圧力(以後、ポンプ圧力)、横軸を時間、としたグラフがあるが、文書ではグラフどころか「ポンプ」についての説明がない。

代わりに、東電が、東芝の推測を前提に、炭酸塩で弁が詰まったから、ポンプを停止したと説明を加えている(以下③)。続きの④⑤も東芝の推測が前提だ。

東電説明資料 P13 

グラフを拡大して読むと、ポンプ圧力が10時17分台に上昇をはじめ、10時26分台に最高になった時にポンプを停止、ポンプ圧力が10時27分台に低下した後、10時28分〜10時32分の間でホースが外れている。

東電説明資料 P13の一部を拡大。

このグラフについて、会見で東電に説明を求めると、圧力計はポンプの出口についているという。グラフ内の「ホース外れ」(紫)のうち、水がかかったのは「一瞬」だというので、「本当か」と聞くと、「実際に水がかかった作業員Aさんからの聞き取りで確認しているので事実」と回答。「むしろ、グラフは圧力の変化を表しているが、ホースがいつ暴れたかはこれだけでは押し測るのは難しい」とも回答した。

実際、このグラフでは、弁を絞った時点もわからない、説明がつかない圧力変化が見られるなど、このグラフは東芝の推測自体を信じることができない理由の一つにしかならないと思うが、どうだろう。

2. 事故発生時刻は当初発表より10分早かった

上記グラフで気づいた方もいるかもしれないが、3週間前に初めて東電がこの事件を公表したとき、事故発生は10時40分頃としていた(既報)。ところが、今回は「APD(警報器付き個人線量計)の履歴で確認したところ10:30頃」でしたと訂正された。

本当にAPDの確認で分かったのか。なぜポンプの圧力計の記録でも、と説明しなかったのか。そもそもその時系列も本当か、疑心暗鬼にならざるを得ない。

3.発端は、東芝の担当者の弁操作だった

さて、今回の説明で東芝・東電両社は事故の発生原因に、これまでのホースの固縛やカッパなどの防護装備の不十分さに、「水圧の急激な変化」と物理現象を加えて「3件の要因」が重なったからとした。

東電説明資料 P12

しかし、事故の発端となる弁操作を行なったのは、今までの説明には登場しなかった東芝の設計担当者だった。これは「元請(東芝)の設計担当者の弁操作が、3次請作業員のAさんとBさんを高濃度の廃液で被ばくさせてしまった事件だったことが、1ヶ月間、隠されていた」という事件だとも言える。

東芝報告書 P2 の「設計担当」に筆者黄色でマーカー

4.作業員は5人ではなく10人

既にお気づきのように、作業員の数は当初、1次請企業の5人が5日後に3次請3社5人と訂正(既報)、次に2次請も加わり7人に訂正された(既報)。今回はついに10人になった。

人数が増えただけではなく東芝が登場。元請の東芝4人、2次請1社1人、3次請3社5人(1人+1人+3人)で、東芝作業員が最も多く、4人もいたことが明らかにされた。

東芝報告書 P2(見かけ上、ここに1次請作業員は見当たらないが

しかも、東芝作業員は、工事、設計、放管(放射線取扱主任者)の立場で、工事責任者は、「1次請の工事担当者と同一人物で、両社に籍がある」という。

今まで東電は、「1次請はいなかった」と説明してきたので、東電が嘘をついてきたか、東芝に騙されていたか、両者で新しい事実を作ったかのどれかだ。いずれにせよ、指示系統命令は複雑で、偽装請負が疑われる構図だ。

東電説明資料 P8と東電説明をもとに筆者作成

工事をとりまとめる東芝「工事責任者」はアノラック(カッパ)を着て、しかも他の東芝作業員同様、硝酸からも受入タンクからも離れた、安全な場所にいたことが、3つ上の図でわかる。

5.洗浄廃液の受入れタンクは高床に

さて、不思議なことが一つある。今回、東芝報告書にはないにも関わらず、東電資料に初めて登場した図があった。受入れタンクが、高く組まれた仮設構造の上に置かれていたことがわかる断面図だ。

東電説明資料 P24

ところが、資料にあるだけで、東電は何の説明もしない。そこで、廃液を被ったときにAさんはどこにいたのかを聞くと、「赤字で小さく薄く「渡り板」と書いてあるところ」だったと言い、Bさんは床の上にいたという。

10月26日以来、明らかにしてきたのは、以下のように床置きに見える図だ。

東京電力2023年10月26日資料 P6

現場写真も、下部や全体像が映り込んでいない1枚しか出していない。

提供:東京電力HD株式会社 撮影日:2023年10月25日

既報したように、地味な取材ノート読者のリクエストを思い出して、11月9日の東電会見で、以下の問答を行なって、初めて高床の構図が明らかになった。。

まさの:カボチャタンクは固定してありますか
東電:確認する

被ばく事故から3週間過ぎて明らかになることならないこと:福島第一

なぜ、隠す必要があったのか。また、同ページの平面図でもAさんBさんに加えて、これまでの平面図(10月26日資料P5)にはなかった「工事担当者」、「設計担当者」、「放管1」が新たに加えられ、洗浄廃液(約44億ベクレル/L)の飛散量が変化した言い訳が書きつけられている。

上記右側が下記左側につながる
東電説明資料 P24

現場にいた東芝作業員3人を、なぜ隠す必要があったのか。そして3人も現場にいながら、なぜ、当初100ミリリットルと報告し、AさんBさんの退院後に当事者たちに聞いた話として、数リットルに代わったのか。皆目わからない。そして、今回、水たまりが点在していた範囲として3平方メートルも加わった。

東電、東芝の対策を「妥当」

東芝は、3要因に対する以下の対策を発表。東電はそれらを「妥当と判断し、速やかに対策作業を行うよう指示した」と幕引きモードだ。

東芝報告書 P1

この中で2番目の要因への「洗浄廃液が飛散しない構造となる、抜本的な設備改善を検討する」について、東電会見で、原子炉等規制法に定められている「実施計画」の変更もあるかを尋ねた。以下はその後の答えと更問答だ。

東電:メンテナンスの設備であって、実施計画の対象の設備ではないと考える。
Q:メンテナンスの設備であればどんなに高線量を扱う設備でも実施計画の対象にらないとは、何を根拠に仰っているか。
東電:実施計画で申請するのは、例えば今回であれば多核種除去設備という放射性物質を含む水の放射性物質の水の浄化をどうやっていくか。それを運用するためにどういう安全対策が必要だとか設備面の審査を受けるものが、実施計画かと思っている。今回は仮設設備で一時的にメンテナンスで使うので、実施計画の対象になるものではない

東電会見動画より

納得がいかず、一旦置いて、最後にもう一度聞き直した。

Q:原子炉等規制法64条の3によれば、実施計画は「核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物若しくは原子炉による災害の防止上」作るものだとされている。記載がなかったメンテナンス設備で事故が起きた以上、もう一度、実施計画は何のために作るのか社内で議論すべき、問い直すべきだと思うがどうか。
東電:そういう意味で言うと、増設多核種除去設備ということで申請して認可をいただいている。一方で今回のは、清掃する仮設の設備だから、こういったものは対象の設備ではない。東京電力が自主的に安全を確保しながら、あるいは請負工事の中で確認しながら進めていくことになる。

東電会見動画より

自主的に安全確保? それができなかったじゃないか。まだ納得がいかない。

東芝製ALPSの性能の悪さをひ孫請作業員が尻拭い

東電が「実施計画」の中で申請認可を受けた「増設多核種除去設備」は241頁。目的から始まって構造や部材など細かく書かれているが、「清掃」だから記載不要と言っても、3系統で年1回行うものだ。より古い既設ALPS(東芝製)の3系統も、同様の洗浄作業を行う必要があるから年6回。

一方、最も新しくできた高性能ALPS(日立製)1系統は、性能が向上し、洗浄作業が不要。つまり、既設ALPSと増設ALPS(東芝製)の性能の悪さを、東芝のひ孫請け作業員が補っている。

それが洗浄作業だ。年6回、硝酸、高濃度廃液、苛性ソーダを扱う粗末な仮設設備で、延べ6社に渡る指揮命令系統が容認される粗悪な労働環境で行って起きたのが、今回の被ばく事件だ。

180回繰り返す作業でも仮設か?

東芝が言うように「洗浄廃液が飛散しない構造となる、抜本的な設備改善」をするならば、東電はそれを既設ALPSと増設ALPSの実施計画に反映させない手はない。

なぜなら、この洗浄作業は、東京電力が先延ばしをしている止水策を取らない限りは汚染水が増え続けて延々と続く。30年続くとすれば洗浄作業は180回行うことになる。

しかし、現在、山中伸介原子力規制委員長も「委員会が認可した実施計画自体が甘かったのか」という質問には、単に「東京電力の実施計画違反である」との見解に留まっている(2023年11月8日会見録P3)。

いつ終わるともしれない廃炉作業の安全性を向上させていくのは、究極的には規制者の強い使命感でしかないと、思うのだが。

【タイトル画像】

2023年11月16日 東電説明資料 P24より


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