崩した体調を取り戻し、取材ノート再開。福島第一原発、ALPS内で作業員が被ばくしてしまった事件の続き。11月8日の原子力規制委員長の会見から記録しておく。一部、9日の東電会見での問答も加える。質問意図がわかるよう小見出しをつける。
委員長の「実施計画違反」発言その後
作業員にかかった洗浄廃液は概算できるが、それができる企業か?
洗浄廃液量、東電は「まとまり次第報告したい」
この点に関しては、翌9日の東電会見(動画←やがてリンク切れする)で東電に明確に、硝酸液の量、圧力、配管の長さ、配管の直径、ブースターポンプを止める指示から止まるまで(実際にはホースが外れてから戻すまでかもしれない)の時間を教えて欲しいとリクエスト。東電は「調査中で手元にないが、まとまり次第報告したい」と回答。目下のところ、作業員にかかった洗浄廃液の量を100ミリリットルから数リットルに変更し、両方を元請企業「東芝エネルギーシステムズ」から聞いたと、受身な無責任ぶりを露呈させている。
仮設施設だったことは事件前から知っていたのか?
(筆者メモ)洗浄作業をする施設が「仮設」でしかないことを作業員が被ばくする前から、原子力規制委員会や規制庁は知っていたのかを聞きたかったのだが、質問が悪くて、正確な回答を得られなかった、とこれを記録しながら気づいた。
労働環境、偽装請負の調査はどうなるか?
11月9日の東電会見で聞いたこと(回答待ちと得たもの)
なお、11月9日の東電会見では、2015年に死亡事故をきっかけに厚労省が策定した「東京電力福島第一原子力発電所における安全衛生管理対策のためのガイドラインに関して質問したが、「今回の作業がそれに該当するのかどうかを確認する」という回答になった。
また、ALPSは、既設ALPS→増設ALPS→高性能ALPSと作られてきたが、仮設施設による洗浄作業が不要となる施設への代替について聞いてみたが、これも「現況は確かに仮設でやっているが、原因究明や対策なども確認しているところ。その状況によってどういった対策を打っていくのかということも含めて現在確認中で回答を控える」(東電)となった。
前回までに回答が得られなかったことを自分自身が忘れないよう再質問した。
1)硝酸の薬液注入ユニット(仮設施設)の写真公開のお願い
2)緑のタンクの前にかけているオレンジ色の布状のものは何?
3)洗浄廃液は「RO処理水に混ぜてALPSで処理するラインに入れる」と先日答えてもらったが、間違いはないか。つまり、溜めておくわけではなく処理するのか?
これに対する東電回答は、
1)ご要望として承る(「断る」という意味だ)、
2)「鉛遮蔽」というもの、
3)は理解不能で、手がかりを求めて、問い直した。
東電「保管、処理、処分方法ということになりますが、ちょっと、そこについては答えとしては、若干異なるかもしれませんけど、実際にRO処理水から出てきた後の水も、ALPSの入り口水の受けタンクに行きます。その手前に我々、ALPSの「廃水タンク」と言っている本設のタンクがあります。このタンクに廃液は送られて、苛性ソーダによる中和処理が行なわれます。行なった後に、先ほどの受けタンクの方で処理対象水の方と混合させて処理していることになります。以上です。失礼しました。あの中和はそのものはですね、ごめんなさい、その先の受けタンク、失礼しました。廃液タンクに送る前にですね、中和注入を行なっている。
まさの「硝酸で洗浄することが中和であるという理解は間違っていますか?」
東電「実際に中和するタンクは、ごめんなさい、言い方を間違えましたけど、緑色のカボチャタンクと言っているものです。この受け入れタンクの方で中和を行った後に、ALPSの廃水タンクの方へ送っているということになります」
まさの「中和には何を使っているんですか?」
東電「苛性ソーダ、あの水酸化ナトリウムでございます」
まさの(地味な取材ノート読者さんからの疑問を思い出し)「カボチャタンクは固定してありますか」
東電「確認する」
意図的隠蔽か説明不足か、新たな事実「苛性ソーダ」
どこのことを「失礼しました」「ごめんなさい」で打ち消しているか、珍紛漢紛になったが、要するにオレンジ色の仮設ホースから出てくる洗浄廃液は「苛性ソーダ」による中和が必要なほどに酸性で、それがカ緑色の「受入タンク」で行われ(作業員は中和が必要な酸性の洗浄廃液を浴びたことになる)、その後、ALPS処理が必要な水と混ぜて、ALPS処理(前処理か本処理か不明確だが)される。
つまり、東電が公表・説明してきた下図では明らかにしていないことが2つとそれに伴って湧き上がる疑問がある。
「受入タンク」で洗浄廃液(約44億Bq /L)に苛性ソーダによる中和作業が行われていること。一体、どうやって誰が苛性ソーダを加えるのか?
洗浄廃液(約44億Bq /L)が苛性ソーダで中和された後に、それはALPS処理のため吸着塔へつながっているはずだが、記載がない。それは意図的な隠蔽なのか?非意図的な説明不足か?
海洋放出(投棄)が行われる前の多核種を取り除く作業で、ズサンな仮設施設で洗浄作業が行われていたことは衝撃的。しかも、少なくとも、作業員が被って被ばくした洗浄廃液の有害性、つまり、硝酸の酸性度と放射線量(アルファ、ベータ、ガンマ)はすんなり明らかにされるべきだったが、3週間が経とうとしてまだ明らかにならないのは異常だ。
*「福島第一原発事故「ALPS作業で汚染水が飛散、作業員が被ばく」が物語ること、を考えた」3 偽装請負の疑い調査は誰が?をご参照ください。
【タイトル写真】
2023年11月8日、原子力規制委員会会見後の六本木一丁目の夕暮れ(筆者撮影)