見出し画像

被ばく事故から3週間過ぎて明らかになることならないこと:福島第一

崩した体調を取り戻し、取材ノート再開。福島第一原発、ALPS内で作業員が被ばくしてしまった事件の続き。11月8日の原子力規制委員長の会見から記録しておく。一部、9日の東電会見での問答も加える。質問意図がわかるよう小見出しをつける。


委員長の「実施計画違反」発言その後

○記者 フリーランス、マサノです(略)東京電力の協力会社の作業員が被ばくした件で、委員長は実施計画違反ではないかと(略)それは単に東電の違反なのか、それとも委員会が認可した実施計画自体が甘かったのか、両方だったのか(略)。
○山中委員長 私は東京電力の実施計画違反であるというふうな認識でおります。
○記者(略)なぜ委員会の場で言わなかったのでしょうか。会見だけで述べただけだとリップサービスじゃないかというような声を聞いたのですが。
○山中委員長 少しリップサービスというのがどういう意味かというのは理解をしかねますけれども、私の個人的な意見として、今回の事案というのは東京電力の実施計画違反であると。特に今明確になっている部分については、東京電力が決めた業務マニュアルに従っていないという、アノラックを着てそういう溶液を扱うような場合には作業するという、そういう計画違反であるという認識ではおります。これは個人的な見解として、先週申し上げたところでございますし、今後、先週も申し上げましたけれども、保安検査の中で具体的にその違反の程度等については現場から報告がございますし、その結果に基づいて委員会できちっと意見の程度については議論していきたいというふうに思っています。
○記者 (略)1日の原子力規制委員会自体では、事故対処室の澁谷企画調整官が、実施計画の遵守状況を検査しますということと、監視評価検討委員会で適宜公表し、委員会に対しては四半期ごとの保安検査結果報告をすると、わりと軽い受け止めで、委員長の御発言とちょっと乖離があったかなと思うんですが、その後この取扱いについて調整などはされましたでしょうか。
○山中委員長 特に調整はしておりませんけれども、少なくとも前回の会見でお話をさせていただいたのは個人的な意見として、これはもう実施計画違反であろうという認識を示させていただきました。そういう観点からは、やはり保安検査の中で見られた影響の程度については、きちっと監視・検討会(特定原子力施設監視・評価検討会)等で報告をいただいた上で、委員会でも報告をいただくべきかなというふうに思っております。その点については指示をしたところです。

2023年11月8日原子力規制委員会記者会見録

作業員にかかった洗浄廃液は概算できるが、それができる企業か?

○記者(略)作業員に降りかかった洗浄廃液が100ミリが数リットルに変わりましたが、元プラントエンジニアに聞くと、硝酸液の量圧力配管の長さと配管の直径、それからブースターポンプを止めろという指示から実際に止まった時間が分かれば、簡単に計算ができるんだと。また、そういった量を基にそのプラントというのは設計するべきなんだと。もしそういう計算ができていない、設計ができていないとすると、それ自体がおかしいという話だったんですが、炉規法で定めている実施計画について、災害防止が目的だという観点から、東電、それから三次請の企業3社から、直接どういう防止対策ができていたんだという聞き取りをすべきだと思うのですがいかがでしょうか。
○山中委員長 当然これは品質マネジメント上、そういう災害が起きないような設備、あるいは手順で作業が行われるべきであろうというふうに思っておりますし、報告現在のところを受けてる限りにおいては、事前にミーティングも東京電力とその下請け企業との間、職員の間でミーティングもしているということなので、これはやはり手順をきちっと遵守されてなかったということが大きな原因になろうかなというふうに思いますし、御指摘があったように、これ仮設の施設ですので、なかなか設計どおりにいかないところはあろうかと思いますけれども、そういうホースの指示ですとか、あるいはポンプの圧力の制御ですとかそういうところはきちっと手順に定めて、事故のないようにしていただく必要があろうかなというふうに思っています。

2023年11月8日原子力規制委員会記者会見録

洗浄廃液量、東電は「まとまり次第報告したい」

この点に関しては、翌9日の東電会見(動画←やがてリンク切れする)で東電に明確に、硝酸液の量、圧力、配管の長さ、配管の直径、ブースターポンプを止める指示から止まるまで(実際にはホースが外れてから戻すまでかもしれない)の時間を教えて欲しいとリクエスト。東電は「調査中で手元にないが、まとまり次第報告したい」と回答。目下のところ、作業員にかかった洗浄廃液の量を100ミリリットルから数リットルに変更し、両方を元請企業「東芝エネルギーシステムズ」から聞いたと、受身な無責任ぶりを露呈させている。

仮設施設だったことは事件前から知っていたのか?

○記者 (略)10月5日の監視・評価検討会で、まさにこのALPS(多核種除去設備)内のスラリーから出てくる後、炭素塩の話が出てきていたのですが、(略)原子力規制委員会及び規制庁は、これが仮設で行われていたということ自体は御存じだったのかどうか、いかがでしょうか。
○山中委員長 年に3回程度、これ私、報告なので、正確な数値については職員に確かめていただきたいんですけども、3回程度そういう処理を行われていたということは聞いております。仮設でそういう処理を行っていたと。

2023年11月8日原子力規制委員会記者会見録

(筆者メモ)洗浄作業をする施設が「仮設」でしかないことを作業員が被ばくする前から、原子力規制委員会や規制庁は知っていたのかを聞きたかったのだが、質問が悪くて、正確な回答を得られなかった、とこれを記録しながら気づいた。

労働環境、偽装請負の調査はどうなるか?

○記者 (略)東電に責任があることは当然なんですが、その下の下の下の三次請けの企業が、きちんとした労働環境、安全な労働環境をハード面も、カッパを着るというソフト面もできていない、できない、能力のない三次請けが仕事を請けてしまうということについて、先ほども聞いたんですが、もう一度、三次請けの企業から直接ヒアリングをするということも重要だと思うのですが、どうでしょうか。
○山中委員長 当然、保安検査の中で現場の職員、いわゆる下請けないし協力会社の職員からの聞き取りということもされると思います。私自身は、やはり東京電力のマネジメント上の問題であるというふうに思っておりますし、現場の協力企業の職員については、きちっとどういう作業をすべきなのか、あるいはどういう作業なのかということを教育訓練するというのは東京電力に責任があるというふうに思っておりますので、現場からの聞き取りというのは、当然保安検査の中で、我々もそういうふうに思っております。
○記者 保安検査の中身って、なかなか一般の人の目には触れないところがあって、特に元請の企業名は公表されていますけれども、二次請けも三次請けも一次請けもですけれども、全く公表されていない。その中で偽装請負じゃないかという疑いも出てきているので、企業名が公表されるということが大変重要になってきているんですけれども、その点いかがお考えでしょうか。
○山中委員長 まずは、私自身の考えは、やはり東京電力がきちっとマネジメントすべきであると。一方、どういう企業がそれぞれの作業を請け負ったかということも当然情報としては上がってくる必要がございますけれども、それについて、どこまで公表すべきなのかということについては、よく判断をして、規制委員会としては公表すべきところは公表しますし、上げるべきところではないところは上げないという、そういう判断は毎回しているつもりでございます。
○記者 最後にすみません、1点、福島の東電の小野明プレジデントが、この事件を最初に聞いたときに、カッパを着ているはずだから、そんなに汚染がないはずだみたいな印象を第一印象として持ったと会見の中でおっしゃっていたんですが、そういう旨をおっしゃっていたんですけれども、そういうのんきなことをおっしゃったということも、やはりカッパを着るというシンプルな指示すら出したつもりで届いてないという意味では、これはどういうことだとお考えでしょうか。
○山中委員長 繰り返しになりますけど、これはもうマネジメント上、品質マネジメント上の東京電力の問題だというふうに思ってます。

2023年11月8日原子力規制委員会記者会見録

11月9日の東電会見で聞いたこと(回答待ちと得たもの)

なお、11月9日の東電会見では、2015年に死亡事故をきっかけに厚労省が策定した「東京電力福島第一原子力発電所における安全衛生管理対策のためのガイドラインに関して質問したが、「今回の作業がそれに該当するのかどうかを確認する」という回答になった。

また、ALPSは、既設ALPS→増設ALPS→高性能ALPSと作られてきたが、仮設施設による洗浄作業が不要となる施設への代替について聞いてみたが、これも「現況は確かに仮設でやっているが、原因究明や対策なども確認しているところ。その状況によってどういった対策を打っていくのかということも含めて現在確認中で回答を控える」(東電)となった。

前回までに回答が得られなかったことを自分自身が忘れないよう再質問した。
1)硝酸の薬液注入ユニット(仮設施設)の写真公開のお願い
2)緑のタンクの前にかけているオレンジ色の布状のものは何?
3)洗浄廃液は「RO処理水に混ぜてALPSで処理するラインに入れる」と先日答えてもらったが、間違いはないか。つまり、溜めておくわけではなく処理するのか?

これに対する東電回答は
1)ご要望として承る(「断る」という意味だ)、
2)「鉛遮蔽」というもの、
3)は理解不能で、手がかりを求めて、問い直した。
東電「保管、処理、処分方法ということになりますが、ちょっと、そこについては答えとしては、若干異なるかもしれませんけど、実際にRO処理水から出てきた後の水も、ALPSの入り口水の受けタンクに行きます。その手前に我々、ALPSの「廃水タンク」と言っている本設のタンクがあります。このタンクに廃液は送られて、苛性ソーダによる中和処理が行なわれます。行なった後に、先ほどの受けタンクの方で処理対象水の方と混合させて処理していることになります。以上です。失礼しました。あの中和はそのものはですね、ごめんなさい、その先の受けタンク、失礼しました。廃液タンクに送る前にですね、中和注入を行なっている。
まさの「硝酸で洗浄することが中和であるという理解は間違っていますか?」
東電「実際に中和するタンクは、ごめんなさい、言い方を間違えましたけど、緑色のカボチャタンクと言っているものです。この受け入れタンクの方で中和を行った後に、ALPSの廃水タンクの方へ送っているということになります」
まさの「中和には何を使っているんですか?」
東電「苛性ソーダ、あの水酸化ナトリウムでございます」
まさの(地味な取材ノート読者さんからの疑問を思い出し)「カボチャタンクは固定してありますか」
東電「確認する」

意図的隠蔽か説明不足か、新たな事実「苛性ソーダ」

どこのことを「失礼しました」「ごめんなさい」で打ち消しているか、珍紛漢紛になったが、要するにオレンジ色の仮設ホースから出てくる洗浄廃液は「苛性ソーダ」による中和が必要なほどに酸性で、それがカ緑色の「受入タンク」で行われ(作業員は中和が必要な酸性の洗浄廃液を浴びたことになる)、その後、ALPS処理が必要な水と混ぜて、ALPS処理(前処理か本処理か不明確だが)される。

つまり、東電が公表・説明してきた下図では明らかにしていないことが2つとそれに伴って湧き上がる疑問がある。

  1. 「受入タンク」で洗浄廃液(約44億Bq /L)に苛性ソーダによる中和作業が行われていること。一体、どうやって誰が苛性ソーダを加えるのか?

  2. 洗浄廃液(約44億Bq /L)が苛性ソーダで中和された後に、それはALPS処理のため吸着塔へつながっているはずだが、記載がない。それは意図的な隠蔽なのか?非意図的な説明不足か?

増設ALPS配管洗浄作業における身体汚染発生 2023年10月26日  

海洋放出(投棄)が行われる前の多核種を取り除く作業で、ズサンな仮設施設で洗浄作業が行われていたことは衝撃的。しかも、少なくとも、作業員が被って被ばくした洗浄廃液の有害性、つまり、硝酸の酸性度と放射線量(アルファ、ベータ、ガンマ)はすんなり明らかにされるべきだったが、3週間が経とうとしてまだ明らかにならないのは異常だ。

*「福島第一原発事故「ALPS作業で汚染水が飛散、作業員が被ばく」が物語ること、を考えた」3 偽装請負の疑い調査は誰が?をご参照ください。

【タイトル写真】

2023年11月8日、原子力規制委員会会見後の六本木一丁目の夕暮れ(筆者撮影)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?