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原発:経年化と地震による「金属疲労」について

前々回の地味な取材ノートで、「温度差であれ振動であれ、『くり返し応力がかかる』ことで起きるのが金属疲労であるとするならば、地震が起きて繰り返し揺さぶられている原発では、年月が経っていなくても、金属疲労は起きると考えるべきではないか。志賀原発の変圧器は、そのことを教えてくれたのではないか」と書いた。

その点について、2024年6月5日会見で、山中伸介原子力規制委員長に聞いてみた。以下はその要点だ(重要なので全体*を文末につける)。


6月5日 会見速記録(関係部分の要点のみ/全体は文末*)

○記者 志賀原発の変圧器について、北陸電力は材料に繰り返し応力がかかって起きた疲労破壊だと。これは老朽化原発の劣化6事象の「低サイクル疲労」が地震でも生じたと考えられるが。
○山中委員長 これは何十年もかかって疲労するものではなくて、地震時に低サイクルの力が加わって破壊をする疲労破壊という特異な現象だ。阪神・淡路大震災と能登半島地震は、地震のスペクトルが似ていたということで、私も「低サイクル疲労」は起きていたんじゃないかとよく調べてくださいとお願いした。2号機の変圧器は「低サイクル疲労」だという結論が得られた。高経年化とは全く違う事象だ。
○記者 「低サイクル疲労」ではあったと。
○山中委員長 低サイクルの短時間で起きる疲労現象である。

2024 年6月5日会見録

金属の専門家「熱応力による疲労と、地震による疲労は足し算して考えないといけない」

つまり、山中委員長は地震で起きる「低サイクル疲労」は、短時間で起きる。何十年もかかって疲労する高経年化とは全く違う事象だと言いたいのだ。私はもちろん、山中委員長も「金属」の専門家ではない。

そこで、金属の専門家である井野博満 東京大学名誉教授(工学博士)に聞いてみた。山中委員長とのやりとりを伝えて「金属の専門家からすると、これは違うものですか?」と聞いてみた。以下が質疑の要点だ。

井野先生:それは原因がなんであれ「低サイクル疲労」です。山中委員長は『カテゴリーが違う』ということを一生懸命言っているんですか?
まさの:山中委員長の答えは、日本の原発はあちこちで揺らされているから、温度差による金属疲労だけじゃなくて、地震で度々揺らされることによって老朽化はもっと進んでいるんじゃないかと私が聞こうとしていることを、深読みしての答えではないかと思います。
井野先生:合わせて考えるのが当然です。熱疲労と機械的振動はどちらも低サイクル疲労を起こすわけですから、分けて考えようとすることには無理があって、両方考えないといけない。熱応力による疲労と、地震による疲労は足し算して考えないといけないと思います

そして「小岩昌宏さんと私が書いた『原発はどのように壊れるか 金属の基礎から考える』は持っていますか?その104ページに書いてある」と仰る。そうだった!こんな時のために買ったんだ! 本棚から見つけると明解にこう書いてある。

「金属が疲労を起こす際に受ける力には、機械的な外力と熱的な力がある。機械的な力としては、地震動による揺れや、ポンプやモーターの振動をひろっての日常的な揺れがある。熱的な力とは、配管や機器が熱を受けた際に、周囲から固定や拘束されていると膨張や収縮が抑えられ、材料内部に発生する応力である」(『原発はどのように壊れるか」P105より引用)

熱疲労と地震動による揺れを足して累積疲労係数が1以下

そして、構造設計するときには、累積疲労係数が1を超えないようにすること、累積疲労係数は、熱疲労と外力による疲労(機器の振動や地震動による揺れ)などをすべて合計して求めるとある。

新規制基準の適合審査の考え方は?

さらに読み進めると、新規制基準をクリアした時には、(山中委員長の考え方とは違い)規制庁が累積疲労係数を熱疲労と機械的振動を含めて計算したと考えられると書いてある。

その上で、川内原発1号機の特定の部材で累積疲労係数が許容値1に迫り、他の原発でも注意すべきものがあると書かれている。もしも、山中委員長の言う通り、地震の揺れを別ものとして、累積疲労係数に含めていなければ、マズイことになる。ここは原子力規制庁の担当者に確かめておかなければならない。(了)

*6月5日 会見速記録(関係部分全体)

○記者 フリーランス、マサノです。 今日のトピックの志賀原発の変圧器の件なのですけれども、北陸電力は材料に繰り返し応力がかかって起きた疲労破壊だと発表されています。これは老朽化した原発にも起きる劣化 6 事象の一つの低サイクル疲労が地震でも生じたということを示したと考えられますが、いかがでしょうか。
○山中委員長 マサノさん、材料の専門家ではないので、御説明させていただくと、1 号機の変圧器は延性破壊でございます。いわゆる力が加わって材料が壊れるという通常 の破壊でございます。阪神大震災のときにもマンションの鉄骨が破壊をしたということが起きていますけれども、これは地震時に起きる非常に低サイクルの、いわゆるサイクル数の非常に少ない段階で大きな力が加わって破壊をするという、長い時間かかって、いわゆる何十年もかかって疲労するものではなくて、地震時の疲労破壊という、そういう特異な現象でございます。
 阪神・淡路大震災と今回の能登半島の地震というのは、非常に地震のスペクトルというのが似ていたということで、私も低サイクル疲労というのは起きていたんじゃない かということで、よく調べてくださいということをお願いして、2 号機の変圧器については低サイクル疲労だという、そういう結論が得られたみたいです。これは破面の観察と 3 次元の有限要素法解析で、そういう結論を得たということでございます。高経年化とは全く違う事象でございます。
○記者 でも、低サイクル疲労ではあったということですね、今おっしゃったように。
○山中委員長 低サイクルの短時間で起きる疲労現象であるということです。地震に伴って、これは起きる現象でございます。
○記者 地震による低サイクル疲労で、今回13cmの亀裂が生じたのは1か所だけれども、そのほか 10 か所でも同じ理由で損傷したということなのですね。そうしますと、 1,000 万点あると言われる部品のうち、金属がどれだけあるかは分からないのですが、 地震によってそういった低サイクル疲労破壊が起きるとすると、これはほかの原発で もいつでも起きて不思議はないという、そういう理解でよろしいでしょうか。
○山中委員長 原子力発電所の場合、重要機器についてはこういうような、地震時のいわゆる延性破壊、あるいは低サイクル疲労についての検討というのはなされているものであるというふうに考えていただいていいかと思います。
 ただし、変圧器については原子力発電所の安全機器としては考えておりませんので、 当然変圧器のこれから対策を打たなければ、低サイクル疲労も起きる可能性ございますし、延性破壊も起きる可能性がございます。当然、火力発電所の変圧器でも起きま すし、変電所の変圧器でもそういう現象が起きます。可能性はございます。
○記者 先ほどおっしゃったことをちょっと確認なのですが、延性破壊についても低サイクル疲労の一種だという。
○山中委員長 延性破壊は疲労ではございません。いわゆる、今回の場合ですと地震動、 揺れに、構造物の共振周波数が重なったことで共振をして、大きな力が加わって破壊をするという、そういう延性破壊ということが 1 号機の変圧器で起こっています。2 号機の変圧器では、地震時の繰り返しの大きな応力によって、疲労によって破壊するという、そういう現象が起こっております。
○記者 1号機の延性破壊は共振で、図に出ていますけど、ぐるぐると横に振れて、ポキッと行っているんですよね。
○山中委員長それは1号機でも一緒で、1回でボキッと折れるか、繰り返しの応力で破壊をしたかの違いでございまして、地震時の両方とも破壊現象であるということでございます。
○記者 共振で何度も繰り返し振れることによっての疲労破壊だという理解で、分かりました。

2024年6月5日 会見速記録(関係部分の抜粋)

【タイトル写真】

小岩昌宏・井野博満著『原発はどのように壊れるか 金属の基礎から考える』(発行 原子力資料情報室 発行日 2018年3月31日)


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