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金属の「疲労破壊」と「延性破壊」が志賀原発で起きていた/能登半島地震

2024年5月31日、北陸電力が能登半島地震で志賀原発の変圧器が故障した原因と対策について発表した。オンライン会見の時間に間に合わなかったので、「せめて前日までに知らせてください」と要望する一方、リリースを読んで電話取材した。

令和6年能登半島地震以降の志賀原子力発電所の現況について
2024年5月31日、北陸電力株式会社 北陸電力送配電株式会社


共振による「延性破壊」と「疲労破壊」

1月1日に起きた能登半島地震では、1号機で3600リットル、2号機で2万4600リットルもの絶縁油が漏洩した。既報時点では、揺れで「亀裂が入った」ところまでしか分からなかった。今回はより詳しく、地震動との共振により、1号機の起動変圧器では「延性破壊」が、2号機主変圧器では「疲労破壊」が起きたと分かった。

志賀原発1号機起動変圧器の「延性破壊」とは

Q:(延性破壊とは)伸びちゃって変形したということですね。
北陸電力広報:そうです。

そして、著しい伸びや絞りを伴って最終的に破断したことが書いてある。
延性破壊特有の「ディンプル」(くぼみ)が多数確認されたのだという。

志賀原発2号機主変圧器の「疲労破壊」とは

2号機の方は、配管接続部で低サイクルの「疲労破壊」を確認したと書いてある。そこで尋ねた。

北陸電力リリース P4

「疲労破壊」は経年劣化と同じ事象?

Q:低サイクルによる疲労破壊というのは、いわゆる「経年劣化6事象」(後述)の一つとされる、繰り返し応力がかかって起きるのと同じですね?
北陸電力広報:そうですね。経年劣化ではないが、小さな揺れが何回も繰り返し起きたことで、今回、疲労破壊が起きた。

Q:すると、今回、全体が揺れたので、この部分だけではなくて、同じように金属疲労、細かい振動を受けたところで同じような繰り返し応力が起きて、疲労破壊が起きたとか起きそうになっているところがあると考えられるんですが。
北陸電力広報:ご指摘の通りで、平面図のNo.11のところが損傷して漏洩したが、その他の放熱器、黄色で枠を囲ったNo.1〜10まで赤の点線のすべての冷却機の配管の接続部が損傷した。ただ漏油した箇所はNo.11だった。

北陸電力リリース P4

対策は「共振の抑制」

Q:対策としては壊れたものを交換することに尽きる?
北陸電力広報:対策は6ページにまとめているが、(損傷は)共振が原因だとわかったので、共振を抑制する対策を取る。具体的には今後検討だが、たとえば、筋交(すじかい)を入れるといった対応を進めていく。

Q:今回、壊れたところは交換するんですよね。同じようなものに取り替えた時に、同じようなことが起きないように、たとえば筋交などを入れようかなということをこれから検討するということですね。
北陸電力広報:そうです。それを今後検討することになる。

Q:耐震性Sクラスの変圧器に変えるということではない?
北陸電力広報:そもそも変圧器は耐震クラスCとなっていて、(規制要求が)Sに上がってくればそういうことになるんでしょうが、(現在は)Cなので、一般産業品と同等品ということで、我々としては、今回の事象を踏まえて自主的に対策をとっていく。

それが、たとえば筋交を入れるというアナログな対策なのだ・・・。
(これは、他会社の他の発電所にも水平展開されることになるのだろうか。)

変圧器以外で低サイクル疲労破壊は?

Q:念のため、変圧器以外でこういった低サイクルの疲労破壊が起きたところは?原発は部品が1000万点あると言われますが、疲労破壊がまだ見つけられていないとかいうことはないですか?
北陸電力広報:地震が起きた時に全てパトロール等もして損傷被害が確認されたものは公表させてもらっているので、今日の別紙1でまとめているが、この中で疲労破壊が起きているというものはないです。

改めてその別紙1を見ると、タービン「伸び差大」とあり、これはもしや「延性破壊」に類するものでないか。

北陸電力リリース P4 別紙1_参考(1/2)

「経年劣化6事象」との関係

今回、注目したのは、地震による「共振」で起きた低サイクル疲労破壊が、老朽原発で懸念される「経年劣化6事象」でも見られることだ。

原子炉等規制法にあった運転期間規制を電気事業法に移して、停止期間を運転期間から除外する原発延命政策が決まったときに原子力規制庁が「わかりやすく説明する」ために作った「長期施設管理計画の認可制度に関するQ&A」(2023年7月13日 原子力規制庁)では、低サイクル疲労を「金属材料は、引っ張られたり縮んだりすることにより、徐々に劣化します。原発では運転・停止により熱くなったり冷えたりするため、このような状況が発生」すると書いてある。温度差が原因で起きるのだと。

しかし、一方で「高経年化対策概要」「主な経年劣化事象の例」として、「疲労割れ 材料にくり返し応力がかかることにより、割れを起こす事象」と書いてある。温度差であれ振動であれ、「くり返し応力がかかる」ことで起きるのが金属疲労であるとするならば、地震が起きて繰り返し揺さぶられている原発では、年月が経っていなくても、金属疲労は起きると考えるべきではないか。志賀原発の変圧器は、そのことを教えてくれたのではないか。

1月1日は震度1以上が累計360回(6月2日加筆)

ちなみに繰り返し応力がかかることで「疲労破壊」が起きるというが、気象庁データによれば、能登半島地震では1月1日だけで累計360回(震度1が131回、震度2が134回、震度3が66回、震度4が19回、震度5弱が4回、震度5強が4回、震度6弱が1回、震度7が1回)で、31日までの総計は1558回に及んでいた。

出典:気象庁
【特集】石川県能登地方の地震活動(令和6年1月 地震・火山月報(防災編)から抜粋)p.57

【タイトル図】
令和6年能登半島地震以降の志賀原子力発電所の現況について(2024年5月31日、北陸電力株式会社 北陸電力送配電株式会社)P4より

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