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新宿で原発汚染土「利用」説明:都区には夏に

12月21日、環境省は、東京電力福島第一原発の爆発で飛び出した放射性物質で汚染された土壌利用の実証事業を新宿御苑で行う説明会を開いた。

周知は掲示板というアナログ手法だけ

対象住民は所沢と同様、今回も予定地に隣接する新宿1丁目、2丁目だけ。都会の真ん中でオフィス、マンション、商店が並ぶ地域だが、対象は約550世帯の居住者のみ。働く人は対象外。参加者は35席が埋まらない28人。

周知方法が十分だったか」との質問が飛んだのは、説明会後の記者ブリーフィングの場。案内は70ヶ所の掲示板に張り出しただけで「我々が新宿区さんに渡したのが12月9日。その週末に貼ったと聞いています」(環境省)という。周知期間はわずか10日ほどだ。

新宿御苑での除去土利用の実証事業の説明会 2022年12月21日筆者撮影

都と区には夏、住民には年末

聞けば、環境省が新宿区に話を持ちかけたのは2022年7月。説明会が半年後になったのは、「その間、何もしてこなかったわけではない。まずもって区役所に意向を伝え、具体的に新宿御苑のどの場所で実証事業を行うか事業計画の調整をしていた」からだという。

調整の割には「今後のスケジュール」は「未定」。すぐ「工事着手」してしまうのか、次の説明会もあるのか、資料26ページでも質問してもわからない。

Googleマップから筆者作成、筆者が加筆した赤丸が実証事業計画地。
ピンクで囲んだ「新宿1丁目」と「2丁目」の居住者だけが今回の説明会の対象だった。

県外かつ住宅隣接地での初めての実証事業

冒頭挨拶をした環境省の参事官は、事業目的をこう語っていた。

「除去土壌を減らす手段として、再生利用を進めることが重要。県内の実施事業で安全性を確認してきたが、県外で改めて安全性を確認したい。」

しかし、それは、言葉足らずではないか。単に所沢と並んで県外初というだけでなく、中間貯蔵施設(福島県大熊町、双葉町)から運び込む初の住宅隣接地での実証事業でもあるからだ。

環境省の再生利用実証事業サイトには、福島県内で実施に至った実証事業として以下2つが載っている。

南相馬市東部仮置場における再生利用実証事業は同市の除去土壌を詰めた黒いフレコンバッグの仮置き場となっていた場所を使った。周囲に住宅はなかった。
飯舘村長泥地区における再生利用実証事業は、同村内の避難指示が解除された地区から除去土壌を運び込み、農地造成や農作業をする事業。しかし、そこは2018年7月時点でさえ空間線量率が2.87マイクロシーベルト/時(μSv/h)で、人々は避難させられ住めない帰還困難区域だった(以下2018年の写真)。

2018年8月、飯舘村長泥交差点の掲示板前で筆者撮影
2018年8月筆者撮影。福島県飯舘村長泥交差点の掲示板に貼ってあったが、
この「3月」は2011年の3月だと思われる。ケタ違いに汚染されていた。

頓挫した2例は説明せず

一方、同じ南相馬市で常磐道の盛土に利用する事業と、二本松市の市道の下に埋めての実証事業、この2つの実証事業は周辺住民の強い反対で実施できなかった。(当時の産経新聞の2019年3月8日記事「除染土壌の常磐道盛り土、月内着工断念 福島・南相馬」に残っている。)だから、今回のような住宅隣接地は初だ。しかし、このようなことも説明会では触れなかったと環境省はいう。

2018年8月筆者撮影。福島県二本松市で事業実証予定地とされた市道は
田んぼが広がる農業地域の脇で、「反対」の声が広がっていった。

危険性も説明せず

環境省が説明しなかったことは他にもある。原子炉等規制法により原発から出る金属やコンクリートを再利用できるレベルは100Bq/kgだが、実証事業で使う除去土壌は80倍の8000Bq/kg以下であり、きちんと管理しなければ安全ではないという説明はしたのかと記者ブリーフィングで問うと、これも「していない」(環境省)。

「8000Bq/kg」や「管理主体や責任体制が明確となっている公共事業等で再生利用」という表現は資料8ページにあるが、大切なのは、きちんと管理されなければ、触れたり吸い込んだりして内部被ばくするリスクがあるのだとわかりやすく説明することではないか。

基準100Bq/kgどう違うのかの説明もなし

「原子炉等規制法の基準100Bq/kgとは違うものだ」と環境省参事官は回答したが、どう違うのかを説明せず「8000Bq/kg」は安全だという印象を与えようとするのは不誠実だ。「8000Bq/kgの土壌はきちんとした管理なしで使うのは危険」「原発から出る放射性物質を規制する基準100Bq/kgに下がるまでに191年かかる」とわかりやすく説明しなければフェアじゃない。

揺らぐ汚染土の用途先

筆者はこの問題を断続的に取材しているが、かつて有識者が机上で想定した「再生利用の用途先」には、下図の通り、防潮堤や海岸防災林などが含まれていた。

しかし、今回の記者ブリーフィングでは「災害で堤防や防潮堤から飛散したら回収できるのか」と問われ、「水が来て流れるところに使っていいのか、ということはある。津波浸水想定区域は避けることになる」(環境省)と回答していた。用途は広がったり狭まったりしている。

出典:環境省「除去土壌等の再生利用に係る放射線影響に関する安全性評価検討
- 検討状況の取りまとめ案

「再生」とはゴミと枝を取り除くこと

取材には驚きがつきものだが、今回、驚いたのは、8000Bq/kg以下であるという確認は中間貯蔵施設で済ませてくることを確認したついでに、何気なく、「分級処理」も福島でしてくるのかを聞いた時の参事官の答えだ。「いえ、今回は分級処理はしない。ゴミと木の枝などを取り除いたものを持ってくる」という。

汚染土の「再生利用」というと、何か特別なことをするのだという印象を受ける。実際、「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略」では「再生利用」のために「分級処理」「化学処理」「熱処理」の技術を研究することになっている。

しかし、「化学処理」はセシウムを他の物質に吸着させて取り除くと高濃度の副産物が生成されるなどの問題があり、「熱処理」はコストが高いとわかり、消去法で「分級処理」をする方向が示されていた。

そして「分級処理」と言えばイカツイが、単にゴミや枝を取り除いた後、ふるいにかけるだけの原始的な処理だ。つまり、土の粒子の体積と表面積を考えた場合、粒子が小さい方が大きい方より、体積に対してセシウムが付着する表面積が大きいという理屈をもとに、ふるいにかけて残った粒子の大きい方がセシウム濃度が低くなるという処理だ。

いつの間にか単に汚染土の「利用」

このように「分級処理」したものを持ってくるのかと何気なく聞いたのだ。すると、「ゴミと木の枝などを取り除いたものを持ってくる」というので、「え?ゴミと木の枝を取り除くだけですか?」と聞き返してしまった。「分級」でさえ十分に原始的だが、これでは「再生利用」というより、単に除去土壌の「利用」だ。

資料20ページには2tトラック5〜6台で数日かけて福島から運び込み、搬入してテントで保管、それを3×10メートルに50センチの厚さで埋めて、上から50センチの土をかぶせて花壇を作ると書いてある。

持ってきた「汚染土」と「汚染土に被せるキレイな土」をどう区別して管理するのかと聞いたが、的を射た返答はない。事業計画地は、新宿御苑管理者がバックヤードとして使っている区域で、道路一本を隔ててマンションが並ぶ。丸の内線「新宿御苑駅」入口1から徒歩1分の距離だ。

実証事業で花壇を作る現場は丸の内線「新宿御苑駅」入口1から徒歩1分

説明会中、外では「NO放射能・首都圏母親グループ」の中井美和子さんらが、新宿御苑インフォメーションセンター前で「除去土壌というけど本当は汚染土だ」と声を上げていた。実証事業に反対する署名も提出された(2022年12月22日朝日新聞「福島原発事故の除染土、新宿御苑で再利用へ 環境省が説明会、抗議も」)。

岸田政権がGX(グリーントランスメーション)という名で原発回帰を進めるかげで、東京電力の福島第一原発事故で除去された土が首都圏に向かってきている。

2022年12月21日筆者撮影。この後に反対署名が提出されたが、
筆者は冒頭挨拶を取材するために説明会場に入り、提出場面を見逃してしまった。
2022年12月21日筆者撮影
2022年12月21日筆者撮影

【タイトル写真】宿御苑インフォメーションセンター前

「放射能汚染土持ち込みヤメテー」などと書いたプラカードを持って抗議アピールをする人々の背中から新宿のビル街を撮影。2022年12月21日。

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