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北斗の拳ケンシロウならなんと言う? 福島第一原発1号機 

原子力規制委員会は、10月11日、東京電力福島第一原発1号機の原子炉が、それを支える土台(ペデスタル)が機能を失って倒れ、建屋の壁にぶつかっても、原子炉建屋としての構造健全性は維持できる」との原子力規制庁の考えを認めた。


「建屋は健全」も「地震計設置」にも無理がある

だが、1号機(下写真)は2011年3月12日の爆発で、屋根が吹き飛び、上部は骨組みだけ。原子炉が転倒しても、建屋の健全性が維持できると言われても、困惑するしかない。しかも、この評価は不確かなので、建屋上層部に地震計を設置するよう指導するというが、最上階には、地震計を設置する屋根がないのだ。

 東京電力ホールディングス(2022年4月13日)より 1号機原子炉建屋の状況(俯瞰)

2022年2月から情報小出し

2022年2月28日、東電は、1号機の原子炉格納容器におけるロボットによる内部調査の結果を発表(22年2月28日「1号機 PCV内部調査の状況について」)。その無惨な姿をボンヤリと小出しした。

同年6月30日、ようやく原子炉を支える鉄筋コンクリート製のペデスタルのコンクリートが溶解し、鉄筋が露出していることを明らかにした(22年6月30日「1号機 原子炉格納容器内部調査の状況について」)。しかし、この時、東電は、ペデスタルの損傷は一部だ、燃料が溶け落ちて原子炉は軽いし、水平方向には横振れを抑える構造物等があるから大地震が来ても転倒しないと主張した(既報)。

東京電力「ペデスタル開口部(右側基礎部)の状況」  2022年5月19日の1号機内部調査写真 より

影響評価を東電に代わり規制庁が検討

2023年4月になっても、東電はコンクリートが溶けて剥き出しになったペデスタルの鉄筋が地震などで座屈しても30センチしか沈まない、横転しないとし(23年4月14日「1号機 原子炉格納容器内部調査の状況について」)、原子力規制委員会が最悪の事態を想定せよと指示しても、影響なしという見解を変えなかった(7月24日「1号機 ペデスタルの状況を踏まえた今後の対応に関する指示への対応状況について)。

そこで、東電がやろうとしない、ペデスタルの支持機能が失われたとしたら、どのような影響があるかを、原子力規制庁が検討して、冒頭で述べたように、2023年10月11日に発表したのだ。発表のポイントは4つ。

1.原子炉(2000トン)が、建屋の壁(厚さ2m)にぶつかっても、最大54センチ凹むだけで貫通しない、裏面が剥離しても1.2mにとどまる資料2 P.58,59)

東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の 1号機ペデスタルの状況を踏まえた対応状況(2回目) (令和5年10月11日 原子力規制庁)P59  

2.使用済燃料プールから水が抜けても、温度上昇は限定的で、使用済燃料は破損しない。敷地境界への線量影響は0.53μSv/hにとどまる資料2 P.3)
(この「0.53μSv/h」は敷地境界線で1mSvとしている限度とは別枠で扱うことがこの日の原子力規制委長会見とその後の原子力規制庁東京電力福島第一原子力発電所事故対策室への取材でわかっている)

3.1と2は以下のような制約に基づいて行われた仮定だ。つまり、
・建屋内や格納容器内が高線量だから実態の詳細調査は困難
・実態を反映した評価には限界がある
・仮定に基づいた評価の妥当性の確認も困難
というもの。
 
わかりやすく言い換えると、1号機内部のことはわからないから「仮定」はしてみるけど、「仮定」が正しいかどうかはわからない上での1と2だという。だから

4.「原子炉建屋の剛性の変化を監視するために有用と考えられる1号機原子炉建屋上部への地震計の設置について、早期の実現に向けて東京電力を指導・監視していく」(資料2 p3)。

「極端な想定」の前にすでに爆発で吹き飛んでいる

だが、地震計を設置しようにも、屋根すらない、最上階が吹き飛んでしまっているので、どこに設置するか。原子力規制委員会(議事録)でも委員長会見でも、それが議論になるような状態だ。

これで、大地震がきて、原子炉が倒れ、建屋にぶつかっても「原子炉建屋としての構造健全性は維持できる」というのか。「北斗の拳」主人公の「お前はすでに死んでいる」という声が聞こえてきそうだ。

なお、参考までに(1号機はカバーをつけたり外したり)

1号機は2011年10月に一度、放射性物質の飛散防止のための屋根カバーを設置したが、2015年10月までにそれを取り外した。2020年度内に使用済み燃料プールからの燃料取り出し開始を目指し、落ちた屋根やがれきなど撤去しようと考えたからだが、原子炉のズレた蓋の高濃度(ペタ・ベクレルのレベルの)汚染が判明(参考資料)。今度は、大型カバー(*)の設置をしようと作業が続いている。

2023年7月27日中長期ロードマップ 資料3−2

(*)参考:2019年東電動画「福島第一原子力発電所1号機使用済燃料プールからの燃料取り出しに向けて 大型カバーの設置」。

気になって念のために、東電広報に確認。

Q:2015年以来、1号機の上層部は剥き出しになっていて、雨よけはない?
A:ない状態です。
Q:雨水は1号機の中にダダ漏れということですね。
A:場所によってはそのまま入っています。

2023年10月13日 東電広報への取材メモ

これでは、建屋地下での汚染水増加(既報)が止まらないわけである。

【タイトル写真】

1号機原子炉建屋の状況(俯瞰)
撮影日:2022年4月13日
撮影:東京電力ホールディングス株式会社https://photo.tepco.co.jp/date/2022/202204-j/220413-01j.html より

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