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福島第一原発1号機は満身創痍

 福島第一原発1号機の原子炉圧力容器(原子炉)を支える台座がボロボロで、震度6強の地震で倒壊するリスクがあるとの指摘がある。もしそうなら何が必要か。取材してみた。

外部エキスパートの警告

リスクを指摘しているのは、森重晴雄さん(福島事故対策検討会・代表)。かつて三菱重工業に勤め、原発の建設や耐震に携わったエキスパートだ。森重さんは東京電力(東電)が1号機内部でロボットに撮影させた画像をみて驚いたという。

原子炉は、本来、鉄筋コンクリートの台座(ペデスタル)で支えられている。しかし、2022年5月に公表された画像では、コンクリートが溶け落ちて、鉄筋が剥き出しになっていた。

福島第一原発1号機原子炉格納容器内部調査

東電「被ばくのリスクを与えることはない」

東電はこのことを、2022年6月の原子力規制委員会の特定原子力施設監視・評価検討会で次のように説明した。

1号機は燃料が溶け落ちたので、原子炉が950トンから500トンに減って軽くなったから、ペデスタルが損傷しても支えられる。水平方向にはスタビライザという横振れを抑える構造物等があるから転倒しない。たとえ原子炉が傾いて沈下しても周囲の人々に「著しい放射線被ばくのリスクを与えることはない」。

しかし、津波対策を先延ばしした結果、今も住民避難が続く過酷事故を起こした企業であり、鵜呑みにはできない。そこで、森重さんに基本的なことを教わって、東電の記者会見で質問をぶつけた。

垂直方向と水平方向の心配ごとと対策について

以下、2022/10/24(月)の東京電力の定例記者会見より、かいつまんで要約する。


まさの:ペデスタルのコンクリートは3分の1が水なので、200度以上で爆裂、1100度になると溶融するという認識があるかどうか。

東電広報:コンクリートが全部欠損しているわけではなく、開口部の一部の欠損が確認されているというところで、実態がどうなっていたのかというところまでは、現在、把握できていない。一般論としてはデータがあるが、当時どうだったかは明確にわかっていない。

まさの:東電とIRID(国際廃炉研究会開発機構)の解析によると、ペデスタルの内部は1200度だった、外部は600度だったという図(図左)と、「内部は損傷している、外側は健全だ」みたいな図(図右)が載っている。200度で爆裂するなら、ペデスタルのコンクリートは全部損壊していると見るのが適当ではないか。

出典:2022年6月20日東電資料P.14,15

東電広報:現状見える範囲のコンクリートの状況というところの判断からすると、健全な部分も存在している。外周面から見ると破損箇所は確認されない。

まさの:大丈夫という根拠に、曲げとせん断で耐震評価ができていればいいが、今のところ、曲げモーメントについては専門家が出して欲しいと言っても公表しない。なぜ、隠蔽しているのか。

東電広報:実際の評価の中でしっかりと考慮している。

まさの:具体的な数値を検証可能な数値で出して欲しいと求められている。

東電広報:評価についてはIRIDが行っており、当社から公表することはできない。

まさの:水平方向にはスタビライザがあるので拘束されて転倒しない、原子炉格納容器を損傷させる可能性は低いと説明しているが、スタビライザは切断されているだろうというのが専門家のお話。

東電広報:スタビライザは基本的に水平方向を拘束するような構造になっているので、軸方向の伸びを吸収できる構造だと思う。

出典:2022年6月20日東電資料P.5

まさの:切断されていないと?

東電広報:実際どうなっているのかは、明確にお答えしにくい。

まさの:東電とIRIDの資料によれば、転倒した場合でも、公衆の健康に影響はありませんという結論だが、転倒して格納容器が破損し、高濃度汚染が敷地内に広がって事故処理ができなくなることがないように、事前に防止策は取れないのか。

東電広報:今の評価上は仮に倒れてしまっても格納容器を大きく破損することはないということになっている。配管の接続部にずれが出る可能性はあるが、(略)外部への影響は大きくは発生しないだろうという結論。現時点で格納容器を調査中。今すぐに何か対策するのは難しい。


特定原子力施設指定の意味なし

東電が耐震評価の検証に必要な数値をすんなり公表しないことについて、森重さんは、「福島第一原発は原子炉等規制法で『特定原子力施設』に指定されている。IRIDに聞けと言うなら指定解除すべき」だと憤る。

『特定原子力施設』とは、事故後にできた仕組みで、放射能に汚染された原子力施設を原子力規制委員会が指定する。指定を受けた福島第一原発は、東電が事故処理に関する実施計画を申請し、原子力規制委員会は、原子炉災害を防止できるかどうかを見定めて認可する。

しかし、多くのことが実施計画の認可の形を取らず、東電が説明するだけで進められている。耐震評価という重要な説明がIRID任せで、実施計画にすら記載されないなら、なんのための『特定原子力施設』指定なのだ、という批判だ。

原子炉を水平に拘束する構造は精密機械

東電の説明ではよくわからなかったスタビライザについては、別の専門家、かつて東芝で原子炉格納容器の設計を行なっていた後藤政志さんにも尋ねてみた。やや詳しく記しておく。

「原子炉は1000トン近い巨体。これに対して、スタビライザはトラス構造(三角形に組んだ鋼製の棒)で原子炉を水平方向に支えるため、原子炉遮蔽壁、格納容器及び原子炉建屋まで力を伝達するもの。

その接触部は、『シアラグ』という楔状の金物で、水平方向の力だけ伝達する構造になっている。確かに東電の言うように、鉛直方向には荷重を伝えない。しかし、福島事故のように、構造全体が高温の環境にさらされ、熱で大きく変位することは想定されていない。シアラグが上下方向に変位したり、水平方向に熱で変位すると、各隙間が数十ミリしかないため、シアラグが外れたり、破壊されてしまうことも十分想定される。つまり、長さ数メートル以上のスタビライザの先に、数十から数ミリ程度の、いわば精密機械がついているようなものだ」

さらに後藤さんは、「それに、原子炉が倒れても大丈夫と言っている時点で何を言っているのかという話だ。高さ20メートル、重さ1000トンの原子炉が倒れても、周囲の構造があるから大丈夫などと、根拠もなく言うのであれば、耐震設計や事故時の強度計算など全くやる必要がないことになる」と呆れ返る。

市議の心配


福島県の住民にも聞いてみた。原発事故後に勉強を積み重ね、伊達市の市議会議員になった島明美さんは、「もし原子炉が転倒したら、原子炉格納容器のすぐ隣の使用済燃料プールが損傷するのではないかということが一番心配」と懸念する。

「プールが損傷して、使用済燃料が冷却水を失えば、放射性物質が漏洩して、人間が近寄れなくなる。使用済燃料を取り出せないと言うなら原子炉が転倒しない対策をまず取ってほしい」という。

出典:2022年10月27日「中長期ロードマップ進捗状況(概要版)」P.2

そもそも満身創痍の1号機

福島第一原発では、1号機から6号機までそれぞれ事故処理が続く。状況は様々で、1号機は水素爆発の衝撃で、原子炉の蓋の上に、518トンもある外蓋がズレ落ちている(上図)こともわかっている。隙間からは、メルトダウンした燃料が高濃度の放射線を発し、使用済燃料の取り出し開始は2027年以降に延期されている。

さて、記者会見では、東電広報がペデスタルの損傷は一部であり、「外周面から見ると破損箇所は確認されない」と断言した。そんな画像はどこで公表しているのかと改めて尋ねると、既に公表している以下の黄色の点線内のことだという。

出典:2022年6月20日東電資料P.4

しかし、モワモワして何も見えないではないか!

「損傷箇所は確認されない」と言えば間違いではないかもしれないが、実のところは「損傷が見えない」だけで、「損傷がない」とは言えない。

言えるのは、ペデスタルの鉄筋が剥き出しになった画像が確認できたことだ。直ちに倒壊防止策を取らないのは、事故処理の状況がどこも同様かそれ以上に厳しいか、東電の社風が津波対策を怠って過酷事故を起こした11年前と変わっていないか、そのどちらかではないか。

【興味を持った方に確認してほしいページ】
■2022年6月20日東電資料=東京電力・IRID「特定原子力施設監視・評価検討会資料「1号機 原子炉格納容器内部調査の状況について」2022年6月20日
■東京電力「福島第一原子力発電所 1号機原子炉格納容器内部調査(水中ROV-A2)の実施状況(5月19日の作業状況)」と動画

■東京電力「福島第一原子力発電所 1号機PCV内部調査(ROV-A2)の実施状況(3月14~16日の作業状況)
■2022年10月27日廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合第107回事務局会議「中長期ロードマップ進捗状況(概要版)

タイトル写真【ワンコの散歩】 

アキをハーネスで支えて散歩させるが、くたびれると歩かなくなる。抱っこすると気持ち良さそうにグッスリ眠る。



 


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