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福島第一原発事故「ALPS作業で汚染水が飛散、作業員が被ばく」が物語ること、を考えた

11月9日追記:中盤に出てくる以下の箇所につき訂正してお詫びします。】
■誤■ Cが親方、Dも親方、A、B、Eにも親方(以後、F)がいたが、Fは(風邪でという説明もあった)欠席。朝のミーティングにはFの姿はあった。作業現場では、Fに代わって2次請の方(以後G)がA、B、Eに指示をした。
■正■ Cが親方、Dも親方、A、B、Eにも親方(以後、F)がいたが、Fは(風邪でという説明もあった)欠席。Fに代わって2次請の方(以後G)が朝のミーティングにはいたが、作業現場にはいなかった。

FoEジャパンの依頼でオンラインセミナーでお話をした。事務局長の満田夏花さんが最近の福島第一原発における論点を整理した後、「福島第一原発事故「ALPS作業で汚染水が飛散、作業員が被ばく」が物語ることとは?」という題で話した。

私としては珍しく「憶測」から話を始めた。東京電力の公表資料「増設ALPS配管洗浄作業における身体汚染発生」というこのタイトルからして、「衆人環視のなか、作業員が被ばくしてしまった事実を小さく見せようとしているのではないか。柏崎刈羽原発に影響が及ばないようにしているのではないか」という憶測だ。ファイルはこちら。

(なお、上記に出てくる資料は何も書いていない限り、東電が経産省の「廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合事務局会議2023年10月26日会合に出した「増設ALPS配管洗浄作業における身体汚染発生」が出典。)

ここでは、前回のセミナーと同様、地味な取材ノートではまだ書いていないことを中心に書いておく。忙しい方は目次から「元エンジニア曰く「問題プラントの改善は当たり前」に飛んでください。(なお「アノラック」と「カッパ」は同じ意味で使っているので「アノラック(カッパ)」と統一しました。ご指摘に感謝します!)


山中委員長の言う実施計画「違反」とは?

11月1日の定例記者会見で、山中委員長は、読売新聞記者の質問に「ALPS処理施設の配管の洗浄、これに際して作業員の身体汚染が生じたということについては、私自身東京電力の実施計画違反であるというふうに認識しております」と回答した。(関係問答全体は既報

その問答を引き継いで、「違反」の中身について「炭酸塩にその有毒物質である硝酸を混ぜるアナログな洗浄について何も記載されていないということが違反と考えていらっしゃるのか、労働環境のことなのか」と尋ねると、山中委員長は、「5名のいわゆる作業員が全員アノラック(カッパ)を装着していなかったということが違反ではないかという、実施計画違反ではないかという私の個人的な認識」と回答した。

危険作業にはフェイルセーフ設計を

しかし、作業現場の設計も問題であると思い、「危険を伴う作業、これはこのフェイルセーフの設計が必要ではないかと考えます。それが仮設のまま、年3回行われている」と更に尋ねると、委員長は「常設で洗浄するような設備を造ったほうがいいのか、あるいは仮設で対応したほうがいいのかというのは(略)含めて、監視検討会(特定原子力施設監視・評価検討会)の中でも議論をしていきたい」と回答。

被ばく事故の原因

さらに、東電は、アノラック(カッパ)を着なかったこととホースの固縛位置を原因とし、それに対する対策を発表したが、「アナログな洗浄作業が仮設施設で行われているということも一つの原因では」と問い直すと、「どういう設備がこういう作業で妥当なのかどうかということについては、今後も検討していきたい」との回答が山中委員長からは得られた。

元エンジニア曰く「問題プラントの改善は当たり前」

なお、セミナーには、元プラントエンジニアの方も参加しており、「プラントで起きた問題はそれを改善・解消していくのは当たり前のこと」だとのコメントをくれた。彼は硝酸を使った作業にも詳しかった。

高濃度の洗浄廃液が出る出口だけでなく、硝酸を注入するところも「仮設」なのだと筆者が説明をすると、元エンジニアは「硝酸を扱うような作業では、硝酸に直接触れない、漏れないプラント設計がまずは必要で、アノラック(カッパ)を着るのは最後の策でしかない」と語気を強めて語ってくれた。

FoEオンラインセミナー「福島第一原発事故「ALPS作業で汚染水が飛散、作業員が被ばく」が物語ることとは?」で使った筆者資料(上記ファイルからダウンロード可能)より。

ホースからの飛散量「流量と吐出圧力」で計算できる

さらに、「増設ALPSのフィルタ出口配管(吸着塔手前)に溜まる「炭酸塩」を洗浄薬液「硝酸」で洗浄して出る「洗浄廃液」をタンクへ送る「仮設ホース」が、炭酸塩と硝酸が化学反応を起こしたガスの勢いでホースが外れ「洗浄廃液」が飛散したこと」(長文で失礼)について、彼は次のように助言をくれた。

ホースに流した流量、吐出圧力が分かれば、10mLから数リットルに変わった飛散量も計算できる、こうした施設はそれで問題が起きないように設計されるものであり、『流量と吐出圧力』を東電に問うべきだ」

こうした外部の識者の知見があれば、事故の原因究明も対策も迅速に進むのに、東電は情報を小出しにしかしないから、それが活かせないのだと痛感した。

さて、ここからが(も)本題

1 災害を防止する労働環境の設計は誰が?

洗浄作業施設の改善については、上記のような外部意見を私のような中間的立場の「物書き」がどうつないでいくかにも関わっているが、最終的には、原子炉等規制法に基づく原子力規制委員会の実施計画(災害防止が目的)の認可権をどう行使するか次第になってくる。

2 労働安全と災害防止は誰が?

一方で、厚生労働省と原子力規制委員会の両方の仕事分野が重なるところがある。労働安全衛生と災害防止だ。両者は重なっている。
労働安全衛生法第10条(厚労省の仕事)
 二 労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。
 四 労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること。
原子炉等規制法第64条の3(原子力規制委員会の仕事)
放射性物質で汚染された物による災害を防止するために「実施計画」を認可。

作業員を守ることも災害防止だし、実際、山中委員長は全員アノラック(カッパ)を装着していなかったということが違反との認識を示した。委員長にしては珍しく踏み込んだ見解だが、問題はその裏方である原子力規制庁だ。

官僚は同じ分野で睨み合って、どちらも他者に押し付け合う傾向がある。この件で、睨み合って仕事をしない、ということにならないように注視が必要だ。

3 偽装請負の疑い調査は誰が?

今回、東電の説明が変遷した中で最も奇妙だったのは指揮命令系統に関するものだ。1社のもとで1つの指揮命令が行われるべきところ、1社の作業員が別の社の作業員から指示を受けた、いわゆる「偽装請負」とみなされる事案を隠すための情報変遷だと考えれば、納得がいく奇妙さなのだ。

10月30日会見で「3次請3社」に変わった件では、「作業員Cが、作業員Aにアノラック(カッパ)を着用させなかった」という指揮命令系統のおかしさを会見で問われ、Cが親方というのも撤回、「2次から各3社に指示がいく」と説明が変わり、CさんAさんの関係も撤回(既報)した。

10月31日の原子力規制庁との面談で東電は「作業員Aがアノラック(カッパ)を着用せずに作業をした」と説明資料も変えた。つまり指揮命令系統を机上で切り離した。

FoEオンラインセミナー「福島第一原発事故「ALPS作業で汚染水が飛散、作業員が被ばく」が物語ることとは?」で使った筆者資料(上記ファイルからダウンロード可能)より。

その後の会見や議員連盟では、少しづつ違う説明が加わった。

Cが親方、Dも親方、A、B、Eにも親方(以後、F)がいたが、Fは(風邪でという説明もあった)欠席。朝のミーティングにはFの姿はあった。作業現場では、Fに代わって2次請の方(以後G)が朝のミーティングにはいたが、作業現場にはいなかったA、B、Eに指示をした。(訂正してお詫びします。11月9日)

雪だるま式に話が大きくなる。こうした偽装請負の疑いは誰が調べるのだろうか?経験上、厚生労働省本省は動かないことはわかる。出先機関が調べる立場のはず。

■労働基準監督署(富岡)に聞いてみた。
すると、労働安全衛生法関係は彼らが担当するのだが、偽装請負関係は福島労働局が担当だという。

■福島労働局(厚労省)に聞いてみた。
すると、偽装請負関係を調査するのは、確かに福島労働局だった。しかし、当事者や第三者から情報提供があれば調査するのだという。個別事案には答えない方々なので、たとえ話で聞いた。

「たとえばなんですが、福島第一原発で起きた被ばく事件なんですが、作業員ABCDEは3次請1社だったはずが→3次請3社。Cが1社、Dが1社、ABE3人が1社。Cが親方、Dも親方、ABEにも親方(F)がいたが、Fは欠席。代理として2次請の方(G)がABEに指示。こうした偽装請負が疑われるケースを第三者が福島労働局に調査してもらうためには、どうすればいいですか?」

すると、たとえ話で答えてくれた。具体的な3社の企業名が要る。
しかし、東電は元請企業名しか言わない。どうすればいいのか。

労働安全衛生に関わる事件が起きれば、「一般論として」労基署が動く。そこで偽装請負の疑いが浮かび上がって来れば、情報は共有されるものだそうだ。一般論として。

説明がコロコロ変わる人たち(東電)だから、こんなことを書けば口裏あわせが起きるかもしれないが、あえて書く。

なぜ、Aさんがアノラック(カッパ)を着ずにALPS処理の途上の汚染水で被ばくをしてしまったのかについては、厚労省関係機関と原子力規制委員会(規制庁)が、労働環境、災害防止対策、指揮命令系統の観点から、徹底的に情報収集をして、共有をしなければ、何も始まらない。

原因究明のために、職務として、東電から、元請の東芝エネルギーシステムズ、1次請、2次請、3次請企業名、作業手順書なども入手する。全てはそこからだと思う。

企業から情報を「入手」したら、それは「行政文書」となり情報公開法の対象となるので、あえて入手しないという風潮が、霞ヶ関にはあるが、それは許されない。

被ばく事件と東電の柏崎刈羽原発の関係

長くなったので、「1F廃炉と柏崎刈羽の関係(東電の約束)」については、スライドを貼り付けて終わるが、これも重要なことだ。

FoEオンラインセミナー「福島第一原発事故「ALPS作業で汚染水が飛散、作業員が被ばく」が物語ることとは?」で使った筆者資料(上記ファイルからダウンロード可能)より
同上

最後に、話をするために頭を整理する機会と、セミナーで参加者から示唆に富むアドバイスをもらえる機会を下さったFoEジャパンの満田事務局長に感謝します。

【タイトル画像】

FoEオンラインセミナー「福島第一原発事故「ALPS作業で汚染水が飛散、作業員が被ばく」が物語ることとは?」で使った筆者資料(上記ファイルからダウンロード可能)より

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