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ロンドン条約違反ではないという屁理屈:1F放射性廃棄物の海洋「投棄」

FoEが開催している福島第一原発の汚染水に関する連続オンラインセミナー10月9日に「処理汚染水をめぐり、東電が説明していないこと」を話した。ファイルはこちら。

この中から、こちら(Note)で取り上げていないロンドン条約について書く。


海洋汚染を防止するロンドン条約と議定書

ロンドン条約の正式名称は「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(1975年発効)。またロンドン議定書(1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の1996年の議定書)が発効している。外務省ウェブサイトはこちら

条約で「投棄」とは、「海洋において廃棄物その他の物を船舶、航空機又はプラットフォームその他の人工海洋構築物から故意に処分すること」(第3条)と定義され、禁止されている。

議定書で、「投棄」には除外規定が設けられた。「人工海洋構築物及びこれらのものの設備の通常の運用に付随し又はこれに伴って生ずる廃棄物その他の物を海洋へ処分すること」は「投棄」ではないという。

海洋構築物から故意に処分すること

さて、この2つを前提に、2023年6月16日に阿部知子衆議院議員が提出した「ALPS処理水の海洋放出の科学的評価等に関する質問主意書」の問2は、「東電による地下トンネルからの海洋放出は、「その他の人工海洋構築物から故意に処分すること」ではないのか」と政府に質問。

また、問3で、福島第一原発は「通常の運用」とは違い、事故に伴って特別に構築された設備だ。放射性物質を拡散させた原子力災害事故の処理のために、特別にできたのだから、除外規定に当てはまらず、ロンドン議定書の目的に反するのではないか、と質問した。

政府答弁:今世紀最大の屁理屈

これに対して政府は問2と問3をまとめて、次のように答弁した。

議定書は、「投棄」を「プラットフォームその他の人工海洋構築物から故意に処分すること」等と定義としていることから、陸上からの排出については、条約及び議定書の適用上、「投棄」に含まれない。「『地下トンネルからの海洋放出』は、トンネルを用いた陸上からの廃棄物等の海洋への放出であり、同条約及び同議定書の『投棄』には該当せず、同条約及び同議定書の適用対象とはならないと考えている」。

トンネルを用いた陸上からの放出は「投棄」ではない?!

わかります? トンネルを用いた「陸地からの排出」であり、「海洋」「投棄」ではない、という今世紀最大の屁理屈。

この屁理屈が通用するなら、地下トンネルを作れば、なんでも「海洋投棄」できてしまう。

捻じ曲げの答弁術

さらに、政府は「ロンドン条約前文で海洋汚染の原因として、「投棄」と「大気、河川、河口、排水口及びパイプラインを通ずる排出等」を書き分けている」との答弁もしている。

しかし、条約前文を読むと、ここは区別のために書き分けているのではない。2つを海洋汚染の原因として並列し、さらに
・諸国がそのような海洋汚染を防止するための実行可能な最善の手段を講ずる
・処分すべき有害な廃棄物の量を減少させる製品及び工程を開発する
ことが重要だと留意せよと書いている。以下の通りだ。

海洋汚染が投棄並びに大気、河川、河口、排水口及びパイプラインを通ずる排出等の多くの原因から生じること、並びに諸国がそのような海洋汚染を防止するための実行可能な最善の手段を講ずるとともに、処分すべき有害な廃棄物の量を減少させる製品及び工程を開発することが重要であることに留意し、

外務省 ロンドン条約及びロンドン議定書 和文1より

前文を素直に読めば、トリチウムを海洋投棄しなくて済むように、実行可能な手段を講じ、減少させる製品や工程を開発せよと読めるところ。前文の意図を捻じ曲げて、屁理屈で問いをかわす。本人がこれを読んで理解しているかどうかは別だが、答弁者は「内閣総理大臣 岸田文雄」である。

【タイトル写真】

東電「福島第一原子力発電所 ALPS処理水の第2回放出 初期の放出(第2段階)について」より筆者スクリーンショット


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