東電社長と原子力規制委員たちの不思議な意見交換
2023年12月20日、原子力規制委員会は、東京電力の小早川智明・取締役代表執行役社長と面談した。(誤字脱字など訂正しました。12月27日)
「柏崎刈羽原発」の文言なき「意見交換」
「規制者」が「被規制者」に会うのに、「原子力規制委員会と東京電力ホールディングス株式会社経営層による意見交換」という「対等性」を示す議題が付けられていた。そこには「柏崎刈羽原発」という文言がない。社長が持ってきた紙っぺらにも、「柏崎刈羽原発」という文言はない。
この「意見交換会」は、東京電力(東電)が目指す柏崎刈羽原発の核燃料物質の移動禁止命令の解除に向けたステップであることは、暗黙の了解なのだ。
解除前に社長の決意「も」確認しましたと、原子力規制委員会(以後、規制委)が世に示すアリバイ工作のようなもので、法律上は何も意味がないから「意見交換」としか言えないのだ。
運転禁止命令解除へのステップ台
柏崎刈羽原発は、福島第一原発事故を引き起こした「特別な会社である」東電(12月13日会見、20日会見における山中原子力規制委員長の弁)が、利潤追求のために再稼働をしようとしている原発だ。
だから、2017年7月10日、規制委は「基本的考え方」を示し、東電はその内容(2017年8月30日回答)を柏崎刈羽原発の保安規定第2条に反映すべく、2020年3月30日に変更を申請、規制委は最終的に同年10月30日にそれを認可した。
ところが、この申請と認可の間に、肝心の柏崎刈羽原発で不正ID事件が起き、それが2021年1月まで隠蔽された(そして原子力規制庁も隠していた(既報))。この隠蔽は極めて悪質で、この時点で、核物質防護違反で原子炉設置許可の取り消しも可能だった(既報)。バイバイ、柏崎刈羽原発!とする代わりに、規制委は、2021年4月14日に「核燃料物質の移動禁止の措置」を命じただけだった(「事実上の運転禁止命令」と呼ばれてきた)。
12月11日に規制委2人が行った「現地調査」も、この「意見交換」もこの禁止命令を解除につながるステップ台だ。
高慢な東電が下請社員に耳を傾けるようになった
この現地調査に関する山中規制委員長の報告(12月13日の報告資料と動画)をあらためて聞くと、小早川社長の報告(12月20日)と、一つの共通点(シナリオ)があることに気づく。以下の点だ。
ざっくり言うと、東電は、下請企業の社員からの改善要求を受けいれることができない高慢な会社だったが、それが追加検査(P11)を経て、できるようになったということだ。
コンディションレポート(CR)とは、「設備の故障や操作ミスといった不適合事象や日々の気づき事項の報告」のことであり、PP-CAP(Physical Protection Corrective Action Program)とは、核物質防護に関する是正処置プログラムのこと(参考)。PPCAP会議とは、核物質防護に関する不適合管理等を話し合う会議のことだ。
規制委は3年かけてできるようになったことを過大評価
深刻なことが二つある。
たったそれだけのことができるようになるまでに3年もかかったこと。
原子力規制庁が「案件に応じて核物質防護以外にも運転管理や施設管理などの部門からの参加を得て議論が多面的かつ実効的に行われていること」(12月6日原子力規制庁「東京電力ホールディングス株式会社柏崎刈羽原子力発電所に対する追加検査の結果の報告」P11「実効あるPPCAPの実現」)と報告し、「CAP会議で」と山中委員長も報告したのに対して、小早川社長は、「PP-CAP」と核物質防護のことに限定報告。規制者の方が、東電ができるようになったことを過大評価してあげているのだ。
東京電力の小早川智明・取締役代表執行役社長の報告はこちら(頭出し)
しかし、1F作業員被ばくも「軽微な実施計画違反」という出来レースでまとめておいたように、このようなタイミングで起きた被ばく事件もそっちのけにして、12月6日の原子力規制委員会の後の定例会見では、早くも以下のようなやりとりがあって、報道関係者の間では、運転禁止命令の解除が年内にも行われると受け止められている。
この後、12月11日に「濡らしたウェスで放射性物質を拭き取る作業」での被ばく事件も起き、その状況も解明されたとは言えない中、ここで判断をするのは常軌を逸していると思い、筆者自身は会見に臨んできた。次のコマで12月20日の会見録も残しておきたい。
【タイトル写真】
東京電力ホールディングス株式会社の小早川智明・取締役代表執行役社長(2023年12月20日原子力規制委員会動画からの筆者キャプチャー)
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