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岸田首相が指示:原発の運転期間延長の裏側

岸田首相が、原発推進に向かって動いた。官僚が道筋をつけ、その上を首相が歩いていると思う。なぜ、そう思うのか。取材の一コマを記録しておきたい。

政策は段取りと人選が全て

岸田首相は2022年8月24日、原発の「再稼働」、「運転期間の延長」、「次世代革新炉の開発・建設」などについて検討し、年内に結果を出すように指示をした。指示した場はGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議。議長が首相本人で、内閣府に設置されたが、事務局は経産省だ。

「霞ヶ関」(国の官僚機構のこと)あるあるだが、会議を立ち上げた時には既に結論が決まっていて、その結論に沿った段取りや人選を事務局が行う。案の定、会議メンバーは原発推進論者が大多数で、会議は密室(非公開)。事後公開された資料を見ると、ありとあらゆる推進理由が展開されている。

運転期間は規制なのに利用政策だって?

このGX実行会議に反応して、急いでゴソゴソ動き出した人たちがいる。原子力規制委員会とその裏方である原子力規制庁だ。

GX実行会議では表向きはまだ何も決まっていないのに、原子力規制委員会は、10月5日の委員会に経産官僚を呼んで、ほんの一回話を聞いただけで、原発の運転期間について、早々と結論にたどり着いてしまった。動画で見ていてびっくりした。

原発の運転期間は原則40年、例外的に最大60年と決まっている。ところが、「運転期間については利用政策が判断することで、委員会が意見を申すことではない」と、規制の職務を放棄したのだ。

運転の期間(原子炉等規制法第43条の3の32)は、2011年3月に東日本大震災で東京電力の福島第一原発がメルトダウン事故を起こした後に、国民の安全を守るために設けられた。

こりゃ大変。取材に駆けつけた

「その重みをどう考えるのか」「運転期間という原子炉等規制法で定めている規制について、推進官庁(経産省)に『口を出すな』と言わないのか」、翌週12日の山中伸介・原子力規制委員長の定例記者会見に駆けつけて尋ねた。

山中委員長の回答は、「運転期間についての定めについては、利用政策側が御判断されることであって規制委員会が判断することではない」「その結論については令和2年の7月、2年前に出た結論をずっと維持をしている」の繰り返し。5日の委員会以降、ずっとこの調子だ。

2年前の結論を悪用?

山中委員長の言う「2年前に出た結論」とは、運転期間全般に関するものではない。原発事故後に長期停止している期間を、40年の運転期間から除外してもらえないかという業界のリクエストを、原子力規制委員会が遠回しに拒絶したものだ。

例えば10年稼動できていない原発は、50年まで使えることにしてくれないか、と。これに対する原子力規制委員会の回答は、「いいえ、停止している間にも劣化する部材があるから、長期停止期間を運転期間から除外するわけにはいきません。運転期間は立法政策ですしね」ということ。

それを今回は、経産省も原子力規制委員会も都合の良いところだけを切り取り、ねじ曲げ、運転期間の規制を原子力規制委員会から引き剥がず論拠に使った。

12日の定例会見で、そのおかしさに気づいてもらうための質問を始めたが、山中委員長は「運転期間については利用政策が判断する」を、壊れたレコードのように何度も繰り返した。(お時間のある方は、文末のURL(速記録や動画)でご確認をいただければ幸い。)

取材で楔を打ち込む

経産省が結論を決めて首相、政界、原子力規制庁を含めて筋の悪い根回しに乗っかってしまったために、山中委員長は、それ以外の説明ができなくなってしまったのか。答えになっていない答えを繰り返す山中委員長の顔を見ながら、そう思った。

希望の一筋は、角度を変えて楔を打ち込むような質問をするうちに、山中委員長の答えから「運転期間については『利用政策』」の「利用」が消えて、「運転期間については『政策』が判断する」に表現が変わったことだ。運転期間に上限を設けた『規制政策』に立ち戻ってくれないだろうか。

🔳興味を持った方に確認してほしいページ
▫️2020年7月29日「運転期間延長認可の審査と長期停止期間中の発電用原子炉施設の経年劣化との関係に関する見解」(原子力規制委員会)
▫️2022年10月12日 原子力規制委員会 定例記者会見速記録
▫️2022年10月12日 原子力規制委員会 定例記者会見動画

余談【ワンコのために】

――久しぶりに訪れた記者会見。獣医さんの所に預けた犬を早く迎えにいきたいので、最初に手を挙げたら、最初に当たった(笑)。

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